歪みのないアルミ熱処理のポイントとは?金属熱処理のエキスパート光陽産業に学ぶ
近年、熱処理で得られる機能に注目が集まるアルミ。アルミを熱処理すると、硬度と粘りが出て耐久性が向上し、軽量さと強度の両立が叶います。一方で硬度を求めるほど歪みが出やすくなる特徴があり、硬さと歪みはトレードオフの関係にあると言います。硬さを求めて低い温度で急冷すると、強度は高くても歪みは大きくなり、そこがアルミの熱処理の難しいところだそうです。今回は、岡山県笠岡市にある小型鋼材製造と金属熱処理を事業の柱にする光陽産業株式会社にアルミ熱処理で得られる機能、気をつけるべきポイントについてお話を伺いました。
近年、アルミの熱処理で得られる機能に注目が集まり、引き合いが増えているというアルミの熱処理。具体的にどういう機能が得られ、熱処理で気をつけるべきポイントは何なのか。金属熱処理のエキスパートである光陽産業のキーパーソン、取締役社長付の横山隆氏、取締役熱錬部長の縄稚真悟氏、熱錬部営業課長代理の佐川智彦氏に伺いました。
総合的な熱処理を高精度・超短納期で行う光陽産業
岡山県笠岡市に本社を構える光陽産業株式会社は、小型鋼材の製造部門と、対象物や処理方法が多岐にわたる金属熱処理部門から成ります。今回取り上げる熱処理部門では、「小ロットでも高精度・超短納期」が強み。技術的ノウハウの蓄積と、熱処理全般に対応する各種の設備投資を続けてきた結果です。
多様なニーズに対応できる各種設備の特徴と性能を最大限に引き出し、求められる品質の熱処理を確実に実施。自動化も進め、超短納期体制を確立しています。
熱処理方法や設備には、それぞれ専門性が必要とされます。同社ではスタッフ全員が熱処理技能士の資格を有し、各種設備に応じた専門性を身に着けることで、顧客の幅広い要望に応えることができます。
硬度検査や組織検査、詳細な成分解析など、鋼種と熱処理に応じた適切な検査を実施。ISO9001や伸鉄業界初となるJIS G 3101(一般構造用圧延鋼材 SS400)の取得をはじめ、大手メーカーの認定を受けるなど高い評価を獲得しています。
温度計や硬度計の点検管理、設備の管理が徹底されており、どういう温度や環境で熱処理されたのかエビデンスとともに提示が可能です。
アルミの熱処理で得られる機能とは
近年、引き合いが増えているというアルミの熱処理ですが、そもそもそれはなぜなのでしょうか。「例えば自動車業界では車両の軽量化が進んでいます。燃費の向上で車のエネルギー消費を抑えれば、温室効果ガスの削減が見込めるからです。安全性や快適性を考えると車両の重量は増えがちですが、燃費や世の中のニーズを踏まえて軽量化も同時に求められる。そこで軽量化技術の導入が加速し、軽い素材である非鉄金属のアルミにも注目が集まっているのです。ただし、アルミの強度を高めたり薄くしたりするには適切な熱処理が欠かせません」(佐川氏)
アルミを熱処理すると、硬度と粘りが出て耐久性が向上し、軽量さと強度の両立が叶います。一方で硬度を求めるほど歪みが出やすくなる特徴も。硬さと歪みはトレードオフの関係にあるのです。「硬さを求めて低い温度で急冷すると、強度は高くても歪みは大きくなる。そこがアルミの熱処理の難しいところです」(縄稚氏)
また、同社がアルミの熱処理を手がける中で、顧客自身は想像していなかったメリットを与えることができた事例があります。それは、「熱処理によってアルミに潜む残留応力を除去しアルミの加工工数を大幅に短縮できる」というものです。「アルミ部品の原料となるアルミ部材には、一般的に製造時に付くクセやシワのような残留応力が潜んでいます。残留応力によってアルミ部材に反りが発生すると、部品を作るための切削加工の工数や時間、費用がかさみます。けれどもアルミ部材の残留応力を取り除けば加工がしやすくなり、例えば今まで3時間かかっていた加工が1時間で済む。精度もミクロ単位で高めることができる。ですからこの事実をご存知のお客様からも、アルミの熱処理は重宝がられています」(佐川氏)「もともとアルミは切削加工しやすい素材です。反りが生じても、加工自体はやろうと思えばできてしまうので、熱処理の必要性に気づきにくい。けれども熱処理したときに削減できる加工の工数や時間、費用は、トータルで考えると相当なものになります」(縄稚氏)
アルミの歪みを抑制し薄さを追求するには、熱処理後の冷却がポイント
「非鉄金属への技術展開は、当社の重要なテーマの一つ」と言い切る光陽産業では、アルミ部材に対するニーズの高まりに応えるべく、技術力の向上やノウハウの蓄積はもとより、設備投資にも長年注力しています。「ダイキャストや鋳造品など拡大しつつあるアルミの需要に応えるため、溶体化処理をこなす800kg級の専用炉を導入しました。また、強度の高いアルミ部材を提供するため、新型アルミT6処理炉も導入しています。さらに強度や精度についてお客様の要望に細やかに対応できるよう、柔軟に冷却温度を設定できる独自の冷却設備も開発しました。内製では実現が困難なレベルの熱処理品質、トレーサビリティを提供できます」(横山氏)
同社が2019年にボイラーメーカーとタッグを組み、開発した水冷設備は、水温を常温から95℃まで制御することができます。「常温の水で冷やす場合、強度はとても高くなりますが歪みも大きくなる。けれども、沸騰水に近い温度で緩やかに冷やせば歪みが軽減されるので、当設備ならアルミ部品の歪みを5mm以上10mm以内に抑制しつつ、薄さも同時に追求することができます」(縄稚氏)「当社では背の高い製品でも処理できる加熱炉を導入していますし、水冷時の水槽も製品の量に応じて温度を一定に管理することができます。ロットが小さくても最適な熱処理を提案できるので、製品化に向けたアルミ部品の試作などでも貢献できます」(佐川氏)
「硬さを犠牲にしてでも極力歪みを出したくない」という顧客のために、2021年春に開発したのが、1mm以内に歪みを抑えることができる空冷設備です。「溶体化後の冷却を水冷から、強制的に風を吹き付けて冷やす空冷へ変えることで、歪みを極力抑えることができます。また強度も、水冷と特別な設備を用いない空冷処理との中間あたりを狙うことができます。ですから硬さが少々足らなくてもいい、歪みが出るほうが問題というお客様には空冷をおすすめしています」(縄稚氏)「現在は硬いものより、歪みがないものを求めるお客様が圧倒的に増えています。精度が高いほうが組み付けはしやすいですから。そのためこれまで水冷をご所望されていたお客様の8割が、今は空冷でご依頼されます」(佐川氏)
アルミ以外の熱処理にも強み
総合的な熱処理ができる光陽産業。アルミ以外の熱処理についても、同社の強みとともに一部をご紹介します。
ステンレスを大気で熱処理する場合、幅1200cm、長さ2000cm、高さ600cmの大型のバッチ炉を使用。大きなステンレス鋳物も固溶化等の処理が可能です。
真空状態で加熱し不活性ガスで冷却を行うことで、酸化スケールの付着なくきれいに仕上がります。ステンレスを真空で熱処理する場合は1000℃以上で加熱後、窒素冷却を行うことで冷却時の歪みを極力少なくすることが可能です。ステンレスの熱処理では、後加工があるものは大気での熱処理、仕上がり品は真空熱処理といったように、顧客のニーズを踏まえて使い分けができます。
同社では、窒化工程を自動で操業できるライン構成を行っています。立体倉庫に処理前の製品を登録することで、前洗浄から窒化、後洗浄までを自動で行うことが可能になり、短納期が実現できます。強度と精度を兼ね備えたアルミ部材がほしい、アルミの切削加工にかかる工数や費用を減らしたい、少量だけれど製品化に向けて鋼材で試作品を作りたい、熱処理におけるトレーサビリティを確保したいなど、金属熱処理に関するお困りごとやご用命があれば、まずは光陽産業にご相談ください。