迫る原発処理水の海洋放出 風評被害も...漁業者の不安

記者のイチ押しネタを集めた「取材部ネタプレ」。

「約1年後に迫った処理水の海洋放出」について、福島テレビ・小野田明記者がお伝えする。

2022年3月11日で、東日本大震災・福島第1原発事故から11年。

2022年は、避難指示区域の復興が加速する年となる。

2022年春以降、帰還困難区域に設けられた復興拠点の一部で、避難指示が解除される見通しで、一部の住民は「準備宿泊」という特例制度を利用して、自宅などで生活しながら帰還に向けた準備を進めている。

また2月には、台湾当局が原発事故のあとから続けてきた、福島県などの食品の輸入禁止措置を解除し、福島県の農業関係者や漁業関係者にとってはうれしいニュースとなった。

しかし、約1年後に漁業者にとって心配なことが迫っている。それが、福島第1原発の処理水の海洋放出。

問題となっている処理水は、今も福島第1原発で増え続けている。

原因となっているのが、原子炉内に残る溶け落ちた燃料である「燃料デブリ」。

これを冷やすための水や、原子炉内に流れ込む雨水・地下水などが、放射性物質を含む汚染水となって、1日150トンのペースで増加している。

この汚染水は、ALPS(アルプス)と呼ばれる浄化装置で、ほとんどの放射性物質を取り除く処理がされているのだが、水と性質が似ている「トリチウム」は、現在の技術では取り除くことができない。

そのためトリチウムを含む水は、処理水として原発敷地内に設置されたタンクに保管されている。

タンクは1,000基以上あり、その容量は137万トンあるが、現在の貯蔵量は95%と限界が迫っている。

これ以上のタンクの増設は難しく、国の専門家会議による6年余りの議論もふまえて、政府は2021年4月に処理水を海洋放出する方針を決めた。

このトリチウムは、自然界にもともと存在するもので、国内外の原発や再処理施設でも日々発生している。

また、トリチウムが放出するベータ線という放射線はとてもエネルギーが弱く、人体への影響は極めて小さいとされている。

そのため国内外の原発では、トリチウムを含む水の濃度に基準を設けたうえで大量に海洋に放出していて、事故前の福島第1原発でも放出されていた。

迫る原発処理水の海洋放出 風評被害も...漁業者の不安

そして今回、福島第1原発で計画されている海洋放出については、トリチウムの濃度を国の基準の40分の1まで薄め、さらに沖合1kmまで整備した海底トンネルから放出しようというもの。

この沖合1kmという地点は、日常的に漁業が行われていないといった理由などから選ばれた。

漁業者に対して一定の配慮はされているが、風評被害の心配は残る。

県内の漁業者は、処理水の海洋放出にともなって、新たな風評が発生し、魚介類が売れなくなる、買いたたかれるおそれがあるとして、これまで反対や怒りの声を上げてきていた。

福島県漁連・野﨑哲会長「海洋放出は、福島県の漁業に壊滅的打撃を与えるとともに、これまでの努力や再興意欲を完全に奪ってしまうものであります」

相馬双葉漁業協同組合・立谷寛治組合長「明確に、風評対策というのも同時進行して、しっかりうたってもらわないと、われわれ漁師としては、首を縦に振るわけにはいかない」

こうした怒りの背景にあるのが、2015年に福島県の漁連・国・東京電力が交わした「処理水については、関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という約束。

しかし2021年、漁業者が反対する中、処理水の海洋放出は決定された。

当時の菅首相は、「政府を挙げて風評対策を徹底することを前提に、海洋放出が現実的だと判断し、基本方針を取りまとめた」と強調した。

肝心の風評対策について、その後、国は処理水について理解を深めてもらおうと、東京都など大消費地へのシンポジウムを企画し、その第1弾が2021年の秋に都内で開催された。

この中で参加者からは、「検査をしているのも知っている。それにもまして、おいしいから食べたいみたいな感じになっていくといい」と好意的な意見が聞かれた。

ただ、新型コロナウイルスの影響で、会場に集まった参加者はわずか10人弱だった。

主催者側は「700人がオンラインで視聴した」と説明しているが、これで処理水や福島県産品への理解が広がっていくのか、不安を感じざるを得ない状況になっている。

海洋放出は、2023年春の開始が計画されている。

東京電力は、「測定・希釈・放出」の海洋放出の各段階で必要な設備の建設を計画していて、準備も加速している。

福島の漁業者に、二度とつらい思いをさせてはいけない。

国の風評対策が目に見える形で進められ、消費者の理解が広がること、そして東京電力がトラブルや隠蔽(いんぺい)もなく、準備や作業を進めること。

まさに、この1年のそれぞれの取り組みが問われている。

加藤綾子キャスター「これは、しっかりとデータを示すということも大切だとは思うんですが、気持ちの部分ってそんなに簡単ではないと思うんです。だから、本当の意味で風評被害をなくすには、どういったことが必要になってくるんでしょうか?」

ジャーナリスト・柳澤秀夫氏「海洋放出自体も国が決めたときには、この結論ありきで段取りを取ってきたのではないか? っていうのが、地元から見てた人たちの思いなんですよね。つまり、政府あるいは東京電力がやろうとしていることに対して、『本当に信頼できるのかどうか』という部分に、大きいクエスチョンマークがついている。この風評被害はIAEA(国際原子力機関)などの国際的な機関による評価みたいな客観的なデータを示しながら、東京電力・政府が地元に向き合っていく必要があると思うんです。まず第一に、東京電力、そして国に対する地元の人たちの信頼というものを取り戻すことができなければ、この風評被害というものは、なかなか解消には道が開けてこないような気がします」