重金属廃水をもみがら・米ぬかと微生物で浄化

装置内の重要微生物の特定と装置の運転条件の最適化を目的に、7つの異なる条件でJOGMECの鉱山廃水処理装置を200日以上運転し(図2)、その処理性能と装置内の菌叢とを比較した。

図2 鉱山廃水処理装置の運転条件

最適化する運転条件として、装置運転前の準備期間の必要性に着目した。硫酸還元菌は嫌気条件で活発なため、硫酸還元菌を使った水処理法では、処理を開始する前に装置を数週間静置し、内部を嫌気環境にするのが一般的である。しかし、この準備期間には水処理ができない欠点があり、準備期間の必要性も検討されてこなかった。

はじめに、従来どおり準備期間を設ける条件(図2の条件4)と準備期間を設けずに最初から鉱山廃水処理を行う条件(条件3)とを比較した。その結果、いずれの条件でも硫酸還元菌は装置内で増加しており、200日間以上にわたり重金属を除去できる能力があることが分かった(図3)。このことから、少なくとも今回試した条件においては、運転前の準備期間は省略可能であり、処理の開始を数週間早められることが分かった。

図3 運転準備期間の有無の水処理性能への影響

重金属廃水をもみがら・米ぬかと微生物で浄化

次に、装置に流入する鉱山廃水の速度に着目した。流入速度が遅いほど廃水処理にかける時間が長いため、装置の性能は安定する。一方、流入速度が速いほど一定期間に多くの廃水を処理できる。そこで流入速度が異なる複数の条件を比較したところ(図2の条件1~4、7)、流入速度が最も速い条件(条件7)では、運転期間が200日目頃に重金属の除去性能が低下した。

その原因を明らかにするために菌叢を調べたところ、廃水の流速が最も速い条件では他の条件とは違い、硫酸還元菌A(Desulforegula sp.)の増加が見られた(図4中央、硫酸還元菌A)。この硫酸還元菌Aを調べたところ、分解が進んでいない有機物だけを栄養源とするユニークな性質を持つことが分かった。流速が速すぎると、装置内で有機物の分解菌が米ぬかを分解する時間が足りなくなり、分解が不十分な有機物が装置内にたまったため、硫酸還元菌Aが増加したと考えられる(図4左)。また、他の多くの硫酸還元菌は分解が進んだ低分子有機物を好むため、このような環境は増殖に適さなかったと考えられる。

一方、他の条件で存在量が多かったのは硫酸還元菌B(Desulfosporosinus sp.)である。一般的に硫酸還元菌は嫌気的な環境を好み、酸素がある好気条件では著しく活性が低下する、または増殖できなくなる。この硫酸還元菌Bは嫌気度が高い条件だけでなく、嫌気度が低い条件でも増殖しており、硫酸還元菌Bが多く存在した装置では廃水処理性能が維持されていた。このように、環境変化に強い硫酸還元菌Bこそが鉱山廃水処理装置の鍵となる微生物であり、安定的に処理性能を維持するためには、この微生物を多く維持することが重要であることが分かった。

反対に、流速が速い条件では、分解が進んでいない有機物がたまることで硫酸還元菌Aが増加したが、この菌は嫌気度が低い環境に弱いため、運転200日目頃に嫌気度が低下すると、重金属の除去性能が維持できなくなったのである(図4右)。

さらに、装置に添加する栄養源の米ぬかの量についても比較・検討し、運転条件の最適化を行った。具体的には、装置に添加する米ぬかの量が異なる3つの条件を比較し(図2の条件4〜6)、200日以上の運転に必要な米ぬかの量を明らかにした。

図4: 鉱山廃水流入速度が速いときの水処理性能低下メカニズム

鉱山廃水処理装置では、装置内の硫酸還元菌の種類を制御できれば、長期的な安定運転が期待できる。

また、本研究では鉱山廃水の重金属処理を行ったが、重金属は各種製造業における工場廃水などの産業廃水にも含まれている。JOGMECの鉱山廃水処理装置は、もみがら・米ぬかと微生物で重金属を処理する低コスト・低環境負荷の技術であり、産業廃水処理への展開も期待できる。