掃除学の基礎知識

掃除は、大人から子供まで、誰もが行う身近な行為です。一般的に掃除とは、対象となる場所のごみやほこりやその他の汚れを取り除いてキレイにすることです。誰もが行う掃除ですが、掃除についての理論はまとめきれていないのが現状です。本連載では、掃除の理論を掃除学として体系的にまとめて解説していきます。第1回目は、掃除理論と掃除の方程式について解説します。

もくじ

第1回:掃除理論と方程式

1. 掃除と清掃

日本における掃除は、歴史的に見ると宗教と密接な関係にありました。現代でもその名残ともいうべき年末大掃除があります。大掃除は、新しい年を迎える清めの日、「スス払い」が由来とされています。正月を迎えるに当たり、武家だけでなく民家でも、多くは12月13日をスス払いの日としていました。それは、単に掃除をして衛生的に正月を迎えるという目的よりは、年神祭の準備としての信仰的な行事でした。

そんな掃除を理論的に考え始めたのは、イギリスの産業革命を機に生まれた公衆衛生といえます。公衆衛生学とは、集団の健康の分析に基づく、地域全体の健康への脅威を扱う学問です。建築物衛生に関しては、公衆衛生の向上および増進を目的とし、昭和45年に「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(略称:建築物衛生法)」が制定されました。これにより、多数の者が使用し、または利用する建築物の維持管理に関して、環境衛生上必要な基準が定められました。掃除に関する厚生労働大臣認定の国家資格、「建築物環境衛生管理技術者」や「ビルクリーニング技能士」なども、建築物衛生法が定められたことによりできた資格です。その中で掃除は清掃という名称で表されています。

これらは、国が一定の基準を定めて衛生管理を行っているため、ある程度の理論はまとまっています。しかし、適応範囲が広く、……

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2. 掃除学の可能性

継続して使用し維持するものは、掃除・メンテナンスをしなければなりません。そして、掃除を行うということはさまざまな問題に直面します。掃除問題には、掃除の労働力問題、衛生性や健康性の問題、維持管理の問題、その他の問題があります。掃除学とは、さまざまな掃除問題を改善するための学問です。2006年、掃除方法決定の指標的役割を持つ掃除の方程式(うえきの方程式)を考案したことで、さまざまな掃除問題の改善対策をできるようになりました。

掃除問題の一つである衛生性や健康性の改善策は、公衆衛生とも繋がりの深い予防医学の一つともいえます。例えば、日本人の2人に1人はアレルギーといわれていますが、吸入性アレルギー患者のQOL(クオリティーオブライフ)向上を考慮した対策として、抗原(アレルゲン)回避における自己管理手法の確立が求められています。掃除学においては、抗原除去のための掃除をラクにする方法の提案などが期待できます。

また、掃除学は、新たなビジネスの創出や新規市場開拓も期待できる技術・事業シーズにもなります。例えば、……

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3. 掃除の方程式

掃除の基礎理論、掃除の方程式の概要についてお話しします。

掃除方法を決めるときは、「どんな汚れ?」が、「どこに?」あるのかを理解して、「何を使って?」、「どのように?」掃除をするのか考えます。この時、予防についても考えると次回の掃除はラクになるのです。いわれてみれば当たり前のことです。しかし、この中に掃除理論の全てが集約されているといっても良いほどなのです。掃除の方程式は以下のようになります。

掃除方法の決定 = 現状分析×作業法

図2は、掃除の方程式で必要となる情報と知識の展開図です。ここに、掃除方法を決定するための掃除理論が集約されています。

図2:掃除の方程式の展開図

掃除方法を決定するためには、はじめに現状分析の情報が必要です。付着しているのは「どんな汚れ?」なのか、「どこに?」付着しているのかを理解します。「どんな汚れ?」では付着している汚れについて。「どこに?」では付着している場所や素材についての情報や知識が必要となります。この時、汚れが付着して現状の状態になるまでのプロセスも考慮して分析を行います。

次に、分析結果をもとに「何を使って?」、すなわち汚れを落とすための除去力の選出を行います。除去力には、物理的な除去力と化学的な除去力があります。物理的な除去力としては、掃除用具などの情報や知識が必要とされます。化学的な除去力としては、洗剤などの情報や知識が必要とされます。そして除去力の活用法として、作業方法の情報や知識が必要とされます。この時、汚れ付着のプロセスを考慮して予防についても考えることで、次回からの掃除の負担を軽減することができます。

先ほどの展開図から、簡略図に変えて考えると分かりやすくなります。それぞれの項目に、……

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第2回:汚れの知識

掃除方法を決めるときは、「どんな汚れ?」が、「どこに?」あるのかを理解して、「何を使って?」、「どのように?」掃除をするのかを考える。それを論理的に表したものが掃除の方程式であることを第1回でお話しました。掃除の方程式は、掃除方法決定=現状分析×作業法となります。始めに行うことは「どんな汚れ?」であるのかの現状の分析です。現状の分析を行うための汚れの知識について、住まいを例に解説します。

1. 汚れの知識

汚れはさまざまな情報を教えてくれます。どんな汚れか?なぜ汚れたのか?という汚れが付着したプロセスも同時に考えると、汚れの正体や予防を理解しやすくなります。

住まいの汚れとは、床、壁、柱、天井、間仕切り、造作、家具、調度品など、家を形成している各部分の表面に付着し、汚染している全ての異物を汚れと呼んでいます。しかし、汚れていると思う感覚は個人差があるため、汚れ方や汚れ自体の認識も人それぞれ異なります。

掃除対象となる汚れを識別するには、汚れから情報を得ることと、汚れの知識も必要となります。汚れの種類が特定できていれば、その汚れの性質を調べ、汚れの知識を得ることができます。住まいの汚れで例を挙げると、ほこり汚れ、油汚れ、水あか汚れ、カビ汚れなどがあります。汚れの性質については、本やインターネットで調べてみましょう。

2. 汚れの分析手順概要

汚れは、一つの汚れに見えても、実際には複数の汚染物質の混在により汚れを形成しています。例えば、キッチンの換気扇に付着した油汚れは、料理に伴う油煙や空気中に混在するさまざまなほこり汚れ、さらに経時変化に伴い酸化した別の物質などを含みます。このように油汚れは多くの物質で形成されています。

同じ汚れであっても、付着状態や形態などにより掃除方法も変化します。汚れの名前はその主成分により付けられているともいえます。しかし、汚れの名前だけで掃除方法は決定できないので、……

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3. 汚染原因

汚れを知る上で始めに確認することは、なぜ汚れたのか汚染原因を知ることです。このプロセスはとても重要なことです。原因を調べることで、汚れの付着するメカニズムや主成分を予想できます。原因が分からないために掃除方法を誤って、無駄な作業を増やしたり、建材の損傷を招いたりもします。原因を理解して対策および予防をしない限り、また汚れの付着する可能性が高いということにもなるのです。

建築物に異物が付着する原因を考えると、大きく分けて自然的要因と人為的要因の二つあります。自然的要因として、住まいは使用していなくても、相当の期間を経過すれば汚れていきます。例えば、……

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4. 汚れの種類

汚れの種類は無数にあります。汚れに含まれる物質を大きく分類すると、水溶性物質(水になじむ汚れ)、油溶性物質(水をはじく汚れ)、その他汚染物質などがあり、汚れの種類によって使用する除去力もそれぞれ異なります。汚れの種類特定のための基本的な識別調査方法は次のようになります。

はじめに、汚染原因や周囲の状況から分析します。ここで、だいたいの予想を立てられます。次に、目視や臭いや感触によって分析します。見ることで色や形や混在している汚れを確認し、臭いで分かる情報もあります。感触では、硬さや粘度などを確認できます。汚れの硬さや粘度は作業への影響も大きくなります。

次に、水になじむ、または水をはじくかを分析することによって、主な汚れを判別することになります。例えば、……

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5. 付着状態

汚れの付着状態は、汚れ物質の性質によって異なるだけでなく、付着されている素材などの性質によっても異なり、付着後の時間的経過によっても変化します。汚れの付着状態は、簡単なものから複雑なものまであり、付着に働いている力もさまざまです。

図2は汚れの代表的な付着状態です。付着状態の解説は以下になります。

1:のるただのっている状態なので付着力は弱い。
2:吸い付く静電気により吸い付いたり、換気扇フィルタに付着するほこりなど。類似状態としては、貼り付いている。のっているよりも付着力は強い。
3:固着する経時変化などにより固着した汚れの付着力は強く、頑固な汚れに多い傾向にあります。
4:入り込む素材表面に凹凸があって伱間や凹み部分に汚れが入り込んだり、軟らかい素材に硬い汚れが刺さるように入り込んでいる付着状態。汚れの付着力は、汚れや素材の状況で変わります。
5:染み込むカーペットや布製ソファーなどの、吸水性のある素材に、液体汚れが染み込んで付着している状態。汚れの付着力は、経過時間や状況で変わります。
6:生えるカビなどの生物汚れの付着状態です。汚れの付着力は、汚れや素材の状況で変わります。
7:その他材質と化学的に結合し付着している状態の汚れもあります。代表的なものとしてトイレの尿石やさびにおかされるなどです。

それ以外にも、……

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6. 経時変化

……

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第3回:場所・素材の知識

前回は、掃除の方程式における現状分析「どんな汚れ?」を説明しました。今回は、現状の分析を行うための場所・素材の知識について解説します。掃除の方程式は、掃除方法決定=現状分析×作業法となります。現状分析では「どんな汚れ?」の次に、汚れが付く場所や素材を分析する「どこに?」を行います。

1. 場所・素材の分析手順概要

掃除方法の決定では、汚れが付着している場所や素材の種類、化学的性質および物理的性質など、「どこに?」に当たる、場所の情報や素材の知識が必要となります。汚れを除去するとき、「どこに?」を知ることで汚れが落としやすくなり、素材へのダメージも軽減できます。

掃除の方程式における「どこに?」とは、掃除対象となる場所と、汚れが付着している素材に分類できます。分析項目は、大きく4つに分けられます。1つめは、場所の情報分析。2つめは、素材の種類と使用部位。3つめは、耐水性・耐洗剤性などの化学的性質。4つめは、表面形状・硬度や吸水性・吸湿性など物理的性質です。図1は場所・素材の分析手順をフローチャートで表したものです。各項目の分析手順を解説します。

図1:場所・素材の分析手順フローチャート

2. 場所の情報

掃除の対象となる場所の情報によって、汚れ付着のプロセスが理解しやすくなります。掃除対象とする場所は、建物の室外なのか室内なのか。さらにその中のどこを掃除するのか。掃除場所の地域や周辺情報など、視野を広げていくとその情報量は多くなります。まずは、汚れの付着している素材はどんな場所にあるのかなど、目に見える身近な情報から集めると分かりやすくなります。

掃除対象となる場所が特定できている場合、掃除の方程式の現状分析に当たる「どこに?」に対する知識として、掃除方法を調べることができます。住まいの場所で例を挙げると、……

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掃除学の基礎知識

3. 素材の種類と使用部位

同じ場所であっても、汚れの付着している素材の違いにより掃除方法も変化します。素材について調べることはとても重要です。近年、製品や建築に使用される素材の種類も多様化・複雑化しており、一見しただけでは判断を誤る素材もあるので注意が必要です。図2は、バスルームのシャワーバーに見られる類似素材の例です。

図2: 類似素材の例

材質を知る前提として、使用されている部位について確認しておくことも求められます。汚れは同じ素材に付着していても、……

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4. 化学的性質

素材の耐水性・耐洗剤性は、掃除をする上で知っておきたい化学的性質です。汚れの除去を行う際には、水や洗剤を使用することが多く、水になじむ(親水性)素材なのか、それとも水をはじく(親油性)素材なのかは確認すべきポイントといえます。その他、静電気を帯びやすい素材なのかなども知っておくとよいでしょう。

水になじむ親水性の素材は、水にぬれやすいため、水に溶けたり混じったりする汚れが付着しやすくなります。また、吸水性の素材であると、汚れは内部に侵入し除去することが難しくなります。そのような素材に水や洗剤を使用する場合は十分な注意が必要です。

水をはじく親油性の素材は、水にはぬれにくく、油脂類の汚れは付着しやすくなります。一般的にプラスチック系の素材は親油性であるため、油脂性の汚れが付着しやすいです。また、ほこりは帯電しているものも多く、……

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5. 物理的性質

素材の表面形状や硬度、吸水性、吸湿性は、掃除をする上で知っておきたい物理的性質です。素材の物理的性質は、作業方法に影響を及ぼし、同じ用具や洗剤を用いても素材を傷めたり、汚れを拡散したりすることにもなります。素材表面に凹凸の多いものは作業しにくく、軟らかく弱い素材は傷が付きやすい傾向にあります。また、吸水性のある素材は、水分を含んだ汚れが内部に浸透して除去が困難になるなど、素材の物理的性質によって掃除の方法は大きく変わります。

素材表面は平滑・密であれば、汚れは付着しにくく、付着しても除去しやすいです。逆に素材表面に凹凸や伱間の多いものほど、汚れは付着しやすく除去するにも負担がかかります。図3は、素材表面の粗さで分類した断面図です。素材に近づいてよく見たり、顕微鏡で見てみるとその表面はさまざまな形状をしています。表面の粗さという観念だけではなく、凹凸の頻度とともに、凹凸の形状も掃除の上では問題となります。凹凸の程度が同じであっても、その突起やくぼみの形が鋭く、複雑な物ほど汚れは付きやすく、付着した汚れは除去しにくい傾向にあります。

図3:素材表面の粗さを分類した断面図

作業方法を決める際には、……

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第4回:掃除用具の知識

前回は、汚れが付いている場所や素材を分析する「どこに?」を行うために、場所・素材の知識について解説しました。掃除の方程式では、次に現状分析の分析結果を考慮して作業法を決める「何を使って?」を行います。今回は、汚れを落とすための物理的除去力の、掃除用具の知識について解説します。

1. 除去力の分類と物理的な除去力

除去力は、物理的な力と化学的な力に分類され、相互を効果的に活用して汚れを除去することになります(図1)。

図1:除去力の分類

一般的に掃除は、力を入れてごしごし、急いでせかせかなど、何かと大変なイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、力を使うことも、急ぐ必用もありません。汚れは除去力となる用具や洗剤の力が落としてくれるものだからです。むしろ、……

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2. 用具の知識と選定方法

掃除用具は多種多様であり、現状分析の結果に伴い必要とされる用具を選出します。また、作業を行うために間接的に必要な用具もあります。例えば、高所の作業を行うのに、踏み台や脚立が必要になります。電気で動く機械類を使用する際には、コンセントが必要です。コンセントが近くにない場合は、延長コードが必要となります。

除去力の選出を行う際は、……

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3. どんな用具があるのか

掃除用具の種類は、住まいに限定したとしても数多くあります。掃除の目的に応じて選出し、各商品の使用方法に従って活用することが求められます。また、掃除用具ではない物でも、物理的な除去力として活用できる物もあります。

住まいの代表的な掃除用具を例に挙げると、……

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4. 物理的な除去力の種類

図2は、物理的な除去力の掃除作業を表します。

図2:物理的な除去力の掃除作業例

掃く:ほうき類などを使用しての掃き掃除。主に床面や机の上などで行う。拭く:雑巾やマイクロファイバータオルなどのウエス類で行う拭き掃除。はたく:はたき類を使用。布製の物から、近年では静電気や特殊加工で吸着させる物もある。吸う:代表的な掃除用具は掃除機。磨く:……

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5. 用具の使い方や応用

用具の力を最大限に引き出すなら、人の力はかえって邪魔となることは述べました。正しく用具を使うには、スポンジ類やブラシ類なども、押し付けるのではなく優しく手を添える感じで使用します(図3)。スポンジの場合は、汚れの度合いに応じてスポンジの種類を選び出します(図4)。

図3:用具の使い方の基本例(スポンジとブラシの力の強弱)図4:汚れの度合いによるスポンジの種類 (左から、スポンジ・メラミンスポンジ・茶色パット・焦げ取りスポンジ)

掃除用具の応用例として、水に圧力を加えることで別の効果を得ることもできます。例えば、ホースと散水用のアタッチメントを使い、水に圧力を加えて散水形状を扇形にすることで、ほうきのように水で床を掃くことや、さらに水圧を高くして擦る、削るなどの効果を得ることもできます。さまざまな用具を組み合わせることで、無数の物理的な除去方法が生まれます。

また、ガラス用ワイパーなどは、素材表面に凹凸がなく平滑な素材であれば、ガラスでなくとも応用ができます。浴室の壁面や凹凸のない室内扉の掃除の他に、ちりとりと併用することで床面の液体を集めて取ることもできます。

さらに、身の回りの日用品や掃除とは無関係に思われるものも、……

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第5回:洗剤の知識

前回は、現状分析の分析結果を考慮して作業方を決める「何を使って?」を行うための、汚れを落とす物理的除去力と、掃除用具の知識を説明しました。今回は、汚れを落とすための化学的除去力と、洗剤の知識について解説します。

1. 化学的除去力とは

除去力は、物理的な力と化学的な力に分類され、相互を効果的に活用して汚れを除去することになります(図1)。

今回は、化学的除去力について紹介します。

図1:除去力の分類

掃除で使用する代表的な化学的除去力といえば洗剤です。掃除のプロの世界でも、除去力の主役です。合成洗剤は、界面活性剤を主とし、助剤や添加剤などで目的の汚れが早く除去できるよう作られており、さまざまな種類の洗剤が身近に購入できます。

洗剤は、界面活性剤の働きにより汚れを除去するものが多いです。洗浄剤は、……

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2. 洗剤の基礎知識

一般的に洗剤とは合成洗剤のことです。洗浄作用の主な成分は界面活性剤です。家庭用品品質表示法では、洗浄作用の主な成分が界面活性剤の場合を石けんや合成洗剤とし、酸剤やアルカリ剤の化学作用によるものを洗浄剤と分類しています。一般家庭においては、合成洗剤と洗浄剤が分類されていることはあまり認識されていないので、両者をまとめて洗剤とし、石けんとは区別して説明をします。

水を使って汚れを落とすとき、洗剤を一緒に使うと汚れは良く落ちます。水になじまない油汚れを落とすのには、洗剤の助けを必要とします。市販されている洗剤の多くは、界面活性剤が使用されています。界面活性剤は、1つの分子に親水基と親油基という、2つの全く相反した性質からできています(図2)。

図2:界面活性剤の構造

界面活性剤の分子には以下の性質があります。

界面活性剤は、親油基を油の方に、親水基を水の方に向けて配列します(図3)。本来は、水に溶解または混和することのない油は、水の中に粒子として分散して乳状になります。付着していた素材からも除去されていき、1つのグループになっていきます。

図3:界面活性剤の汚れを落とす仕組み

界面活性剤は、水に溶かした時のイオン(原子が電気を帯びている状態)の形式により、イオン分解するもの(イオン性界面活性剤)、イオン分解しないもの(非イオン性界面活性剤)の2つに分類され、さらに、……

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3. 洗剤の上手な使い方

洗剤選びで大切なことは、掃除をする場所や汚れに対応した洗剤を、目的に応じて選ぶことです。洗剤は、製品の示すpH値の違いによって、中性洗剤、アルカリ性洗剤、酸性洗剤に分類できます。洗浄補助剤や添加剤などによっては、溶剤入り洗剤、研磨剤入り洗剤、酵素入り洗剤などに分類することもできます。

掃除は、人が力を入れて行うのではなく、除去力を利用します。洗剤を上手に使うことができれば、今まで以上に掃除が楽になります。洗剤を上手に使うポイントは7つあります。

・取扱説明書は必ず読む

必ず使用上の注意や使用方法などの説明書きを読み、使う洗剤に伴った使用をします。消費者庁の家庭用品品質表示法により、洗剤の成分や使用に関する注意事項などが表示されています。

・洗剤の使用濃度

洗剤には最適の使用濃度があり、家庭用品品質表示法およびその他の法規でこれを表示することが定められています。ほとんどの市販されている家庭用洗剤はそのまま使用できます。一方、業務用や原液を薄めて使用するタイプのものなどは、適切な希釈倍率で薄めて使用します。濃度が高すぎ(臨界ミセル濃度を超える)ても、界面活性剤による表面張力低下率や、洗浄力は変わりません。

・洗浄時の温度

……

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第6回:作業方法の知識

前回は、作業方を決める「何を使って?」を行うための、汚れを落とす化学的除去力と、洗剤の知識を説明しました。今回は、作業方法の知識について解説します。掃除の方程式では、除去力の活用法における「どのように?」を行います。作業方法は、全体の情報をまとめて、効率的な掃除を行うのに役立ちます。また、作業方法の知識があると掃除方法を決定しやすくなります。

1. 掃除の付加条件

作業方法を決める際、付加条件を考慮しなければなりません。キレイに対する感じ方は人それぞれ異なります。掃除する物や場所への思いなどの感情も異なります。また、ライフスタイルや経済的(金銭的)な理由、環境的条件など、重視すべき付加条件により掃除の作業方法も変化します。

付加条件を満たすためには、必要な知識を持って検討し、仕上がりの質をイメージします。そうして全体の作業から見ると、個々の事情を考慮した掃除方法が決定できます。掃除の付加条件は、基準化の難しい個人衛生における大切な項目です。中には、掃除において汚れ除去を最優先とし、多少素材に傷がつくのを承知で掃除を行うことを選ぶ場合もあります。表1は、掃除の方程式の各知識項目で起こり得る付加条件例を示します。

表1:掃除の方程式での知識と重視すべき付加条件での作業方法
必要とする知識内容
素材の知識傷を付けたくない思い出の品や大切な物、高価な物、壊れやすい物など、素材を傷めないことを最優先にした作業方法
汚れの知識頑固な汚れをどうしても除去したい場合、素材を多少傷めてでも汚れ除去を最優先にした作業方法
用具の知識アレルギー症状緩和のためほこりが舞わないよう水拭きするなど、用具選択が重要な作業方法
洗剤の知識アトピーやシックハウス症候群など、建物利用者の健康被害を重視する場合、洗剤成分や化学薬品の使用制限などを最優先にした作業方法
作業の知識夜遅いので大きな音を出せない、またはマンションの規約(バルコニーで多くの水を流せないなど)による条件物件など、作業音や使用に制限のある作業方法
予防の知識多忙のため掃除の時間を確保しにくい場合や、バルコニーのハトのフンの被害における再汚染防止など、掃除後の予防を重視した作業方法

2. 作業方法決定手順概要

作業方法を決める際、掃除の付加条件を考慮しつつ作業手順を決めていきます。その際の基本的知識として、始めに作業区分により作業の内容を決めます。次に、区分内容に基本的な作業手順を取り入れ、掃除の全体的な実施方法を組み立てます。作業方法を決定する際には、汚れの付着している場所はどこなのか、その素材は平面または凹凸面なのか、水や洗剤の使用はできるのかなど、現状分析で調べた内容を活用します。分析内容から適した除去力(用具や洗剤)を選び、作業手順などの知識を組み合わせて掃除方法を決定します。また、素材を傷めないようにするため、……

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3. 作業区分により内容を選定する

表2は、作業区分により内容を選定する際の基本項目を示しています。基本項目はいずれか1つを選ぶのではなく、互いに矛盾しないように組み合わせて効率良い作業方法を選びます。

表2:作業区分により内容を選定する際の基本項目
区分内容
ほこり、油汚れ、カビなど汚れの知識が重要。汚れの性質への理解が、効果のある洗剤や用具の選定に役立つ。例えば、油汚れと生物による汚染とでは、対処方法に大きな違いがある
木、鉄、プラスチックなど素材の知識が重要。素材の性質への理解が、使用できる洗剤や用具の選定に役立つ
天井、壁、床、高所など素材や場所の知識と汚れの知識が重要。素材や汚れへの理解や部位による作業性への考慮が、使用できる洗剤や用具の選定に役立つ
台所、居間、浴室、トイレ、玄関など素材や場所の知識と汚れの知識が重要。作業を行う場所の使用目的により、衛生性などに違いが出る

ほこり、油汚れ、カビなどは、汚れ別で作業方法を決定し、木、鉄、プラスチックなどは、素材別で作業方法を決定します。また、……

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4. 掃除の基本的な作業手順

基本項目で作業内容を選定した後、全体的にどのように進めるのか、基本的な作業手順項目を解説します。

・実施の手順

建物を空間として区分した場合、汚れは重力により下に落ちていくため、2 階建て以上の家ならば上階より掃除を行います。また、空間の大きさからいうと、広い所より狭い所での作業はしにくいため、先に狭い場所の作業を行い、広い場所で最後の後処理などをする方が効率的です。進行方向でいうと、奥の方から入り口に向けて作業することで、作業後の再汚染を防ぐことになります。建物でいうと、屋内から屋外へと作業します。

このように、それぞれの理由から効率よく掃除を行うための、基本的な実施手順を知ることは大切です。

図1:掃除実施の手順

・部位別の手順

……

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第7回:予防の知識と掃除が楽になる法則

前回は、作業方法の知識について解説しました。今回は、掃除の方程式における予防の知識と掃除が楽になる法則について解説します。掃除学の真髄は予防の知識にあり、予防掃除は予防医学でもあります。住まいを例に予防の知識について解説します。

1. 予防の知識

予防を考えるに当たり、掃除の方程式展開図を逆から見てみましょう(図1)。作業方法の知識においては、簡単で効率の良い作業方法により掃除が楽になります。洗剤の知識では、強力で洗浄効果がある素材に優しい洗剤の活用、用具の知識では、素材に優しく取り扱いが簡単な物理的除去力の強い用具により、掃除が楽になります。

また、経済性、安全性などを考慮していくことで、より質の高い予防対策を行うことができます。さらに、現状分析から見ると、汚れ付着のプロセスとその原因に、掃除を楽にする予防対策の本質があるといえます。

図1:掃除の方程式展開図

汚染原因と改善対策について考えてみます。建築物の汚染におけるさまざまな掃除問題は、利用者(居住者)と建物の両方に影響を与えます。予防掃除は、人と建物の健康を守る最も身近な対策です。まずは、汚れた原因を考えることから始めます。

汚染原因とは、故意に汚す場合でない限り、生活の中で必然と存在するものです。つまり環境によるものであるといえます。その環境改善対策は、予防掃除において重要です。対策を大きく3つに分類してみると、住まい方、住まい、その他の改善に分けることができます(図2)。このうち、その他の改善に関しては、周辺地域の環境改善なども含まれるので、個人衛生として専有部となる住まいに関して解説します。

効率的な予防掃除では、……

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2. 掃除が楽になる法則

掃除を楽にするための法則は4つあります(図4)。各法則は、それぞれが互いに矛盾しないよう組み合わせて使用することで大きな効果を生みます。法則の内容は、言われてみれば当然のことですが、意外にできていないものでもあります。各法則について解説します。

図4:掃除が楽になる法則図

掃除を楽にするための法則の1つめは、汚れにくい環境を作ることです。汚れにくい環境を作ることで掃除を楽にします。極論をいうと、汚れなければ掃除をする必要がありません。しかし、現時点で汚れない環境を作ることはおそらく不可能です。従って、掃除を楽にするための最も重要なことは、汚れにくい環境を作ることです。他の項目も、汚れにくい環境を作るためにあるともいえます。

2つめは、……

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3. 掃除学の基礎知識まとめ

掃除学は、健康のための予防医学でもあり、基礎理論の集約は掃除の方程式です。そして、予防の知識は新たなビジネスツールにもなり、予防掃除の究極理論である掃除が楽になる法則は、さまざまな世界(業界)に変革をもたらす可能性を秘めています。

建物を作った後ではなく、建造前の企画および設計の段階から、住まい方(使い方)を含め掃除のことを考えて作ることは大切なことです。掃除が楽な建物は、……

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