日本政府の「ロボット政策」まとめ、全省庁の予算から施策まで網羅して紹介 森山和道の「ロボット」基礎講座|ビジネス+IT
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森山和道の「ロボット」基礎講座
前回は、既存の製造業以外のロボット、いわゆる「サービスロボット」の課題について、一般とメディアの期待とは裏腹に、かなり厳しそうだと述べた。目標とタスクが極めて明確な物流分野以外のサービスロボットの未来は不透明だ。そのほか、これまでの簡単な歴史を踏まえて今回のロボットブームの特徴をまとめて、今後の考え方について述べた。今回は、議論の前提として、日本という国としての方針をざっと見ておこう。
サイエンスライター 森山 和道
サイエンスライター 森山 和道
フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。
<目次>2016年9月12日、総理大臣官邸で第1回「未来投資会議」が開催された。第1回のテーマは第4次産業革命による『建設現場の生産性革命』で、ドローンの活用やいわゆる「情報化施工」の本格導入について議論されたようだ。生産性を2025年までに20%向上させるという。配布資料は未来投資会議のサイトで閲覧できる。連載一覧▲ 閉じる▼ すべて表示
この未来投資会議は、既存の「産業競争力会議」と「未来投資に向けた官民対話」を発展的に統合して成長戦略の新たな司令塔とする、というのが目的だそうで、「成長戦略の課題と今後の検討事項」という資料によれば、「イノベーションと構造改革による社会変革(Society5.0)」を目指す3つの成長戦略の切り口があげられている。そのうちの一つがロボットと人工知能で、「人工知能、ロボット、IoTなどの技術革新を社会実装し、産業構造改革を促す」とされている。今後も、国からのロボットへの投資は続きそうだ。前回までに、今回のロボットブームは歴史的、国内外、官民、市場、それぞれの事情を背景にした複合要因によって起きていると述べてきたが、要因の一つに「国の方針」もある。今回は日本の方針についてまとめて確認しておこう。安倍総理 ロボット活用現場の視察-平成26年6月19日2014年5月、安倍総理はOECD閣僚理事会で、世界に向けて「ロボットによる新たな産業革命」を表明した。曰く、こうだ。当時はそれなりに報道されたが、もう一度、確認しておこう。直接ロボットに関連している部分は以下である。日本がこれから挑もうとする構造改革へのチャレンジは、世界経済の将来にも、大きなインスピレーションを与えることができる、モデルとなりうる、と私は信じます。日本では、付加価値と雇用の7割を占めるのが、サービス部門です。しかし、労働集約度が高く、生産性を上げにくいことが、大きな課題でありました。例えば、食肉加工工場は、たくさんの労働者が、長時間にわたって単純作業を続ける現場です。日本ならば、ここで、ロボット技術を活用します。「ハムダス」と呼ばれる、自動で豚肉の骨を除去する日本製のロボットは、すでにここフランスでも活用されています。チキンには「トリダス」、七面鳥には「タキダス」と、ラインナップも充実しています。ハムダスに置き換わることで、現場の労働者が半分ですみます。そして人間にしかできない、もっと付加価値の高い労働を担ってもらえる。生産性の飛躍的な向上が可能です。サービス部門の生産性の低さは、世界共通の課題。ロボット技術のさらなる進歩と普及は、こうした課題を一挙に解決する、大きな切り札となるはずです。ものづくりの現場でも、ロボットは、製造ラインの生産性を劇的に引き上げる「可能性」を秘めています。ロボットによる「新たな産業革命」を起こす。そのためのマスタープランを早急につくり、成長戦略に盛り込んでまいります。日本では、すでに、介護をはじめ様々な分野で、ロボットを活用する試みが、始まっています。日本は、世界に先駆けて、ロボット活用の「ショーケース」となりたいと考えています。ロボットのみならず、あらゆるイノベーションを起こし続けることが、付加価値を高め、経済成長を牽引する鍵であることは間違いありません。ここで安倍総理は食肉加工のロボットについて言及しているが、これは前川製作所の、食鳥・食肉生産自動化システムの一環として使われるロボット「DAS」シリーズのことである。安倍総理が当時語ったとおり食肉加工工場で広く使われており、前川製作所によれば既にスーパーの店頭に並ぶ鶏肉の多くはトリダスで加工されているという。前川製作所 チキン骨付きもも肉全自動脱骨ロボット「トリダス」安倍総理が「ロボット活用の『ショーケース』」と語ったことを受けて、2014年9月には戦略を策定するための有識者会議「ロボット革命実現会議」が発足した。国によるロボットブーム創出は、ここから始まった。2015年1月に、ロボット革命実現会議での6回の議論の結果をとりまとめたアクションプランとして「ロボット新戦略」が公表された。ロボット新戦略は2月には日本経済再生本部で決定とされた。これには「ロボット革命」とは、あらゆるモノがロボット化して、製造現場から日常生活の場まであらゆるところでロボットが活用されるようになり、高付加価値を生み出し、利便性と富をもたらす社会を実現することだ、とある。そのための3本柱は以下のとおり。そして、2020年までの5年間、「政府による規制改革などの制度環境整備を含めた多角的な政策的呼び水を最大限活用することにより、ロボット開発に関する民間投資の拡大を図り、1000 億円規模のロボットプロジェクトの推進を目指す」とされている。ロボット新戦略では「多様なニーズに柔軟に対応できる「Easy to Use」なロボットの開発を推進」し、「2020年には製造業で市場規模を2倍(6000億円→1.2兆円)、非製造業で20倍(600億円→1.2兆円)とするともに、労働生産性の伸びを2%以上とすることを目指す」とうたわれている。介護分野では「2020年において、ロボット介護機器市場を500億円に拡大する」。医療分野では「医療関連機器の実用化支援を5年間で100件以上実施する」。インフラ点検や建設分野では「2020年までに情報化施工技術の普及率3割、国内の重要・老朽インフラの20%においてロボット等の活用を目指す」。農林水産業・食品産業分野ではやはり2020年までに「省力化などに貢献する新たなロボットを20機種以上導入することを目指す。」これらのために海外の動向も見据えた標準化や法整備を進め、次世代技術開発を推進し、環境整備、シーズ・ニーズのマッチングなどを行うとともに、「2020年にロボットオリンピック(仮称)を開催する。2016年までに具体的な開催形式・競技種目を決定するとともに、2018年にプレ大会を開催し、本大会に着実に繋げていく」ことも掲げられた。ターゲットは2020年、東京オリンピックの年だ。結果が伴うかどうかはともかく、「2020年までの期間に集中的に政策資源を投入することにより戦略の実現を図る。」という方針に基づいて、いろいろな予算が投入され、政策が実施されることだけは間違いない。ロボット新戦略を受けて、「産学官の幅広いステークホルダーを巻き込んだ」推進母体として「ロボット革命イニシアティブ協議会(Robot Revolution Initiative、RRI)」が設立された。なお、RRI自体は民間団体である。設立趣旨に積極的に賛同した一般社団法人 日本機械工業連合会が中心となり、政府と連携して、関係者間のマッチングやベストプラクティスの共有・普及の推進を目的として創立した。会員企業・団体・個人一覧はこちら。RRIでは、1)IoTによる製造ビジネス変革2)ロボット利活用推進3)ロボットイノベーションという3つのワーキンググループを設置している。IoTによる製造ビジネス変革ワーキンググループは、IoTをものづくりに適用するための各社間の技術の標準化や情報共有を行うグループである。ドイツの「インダストリー4.0」の推進母体である「Plattform Industrie4.0」と共同声明を出したりもしている。ロボット利活用推進ワーキンググループは、ロボット導入にあたって重要な役割を果たすシステムインテグレータ(SIer)の要請や事例の情報共有、環境整備などを行うグループだ。ロボットイノベーションワーキンググループには、さらに3つのサブグループがあり、プラットフォームや安全基準、2020年に本大会が実施される予定の「ロボット国際競技大会(仮称)」などが議論されている。9月に山形大学で行われた「ロボット学会学術講演会」でのオープンフォーラムでもRRIによる報告が行われたが、近日中に、とりまとめた内容がウェブサイトで公開される予定とのことだ。なお、RRIのサイトは今ひとつわかりやすいとは言い難いが、国内外のロボットに関連する事業やイベントを俯瞰できるデータベース「Japan ROBOT Database System」も運営しているし、日本ロボット工業会のサイトのなかにあるSIer一覧も必要な人には有用な資料だと思う。【次ページ】各省庁の動きを網羅して紹介お勧め記事
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