カーリングにも破壊的イノベーション、ブラシをめぐる議論が熱い

ストーンのコントロールが簡単になりすぎるブラシが登場。

テクノロジーはスポーツにも多大な影響を与えていますが、ときには急激な進化によって、新しい道具が選手のパフォーマンスを向上させすぎてしまう場合があります。たとえば水泳では、全身を覆う水着「レーザー・レーサー」が禁止されたり、ゴルフでは高反発のドライバーが禁止されたりしています。そしてカーリングの世界でも、今まさにそんな問題が起きています。議論の中心になっているのは氷の上をこするブラシのニュータイプ、その名も「icePad」です。

ただ当事者であるカーリング選手たちは、新テクノロジーに反発しているわけではありません。ただ彼らは、icePadや同様のハイテク器具によって競技が簡単になりすぎ、カーリングの根本が変わってしまうのではないかと懸念しているんです。世界カーリング連盟は2015/2016年シーズンには暫定的にicePadを禁止していたのですが、現在新たなルールづくりを模索しているところです。

カーリングの競技は非常にシンプルです。4人チームのひとりが重いストーンを氷の上に滑らせると、他のふたりがストーンの進む方向の氷を「スウィープ」して、ストーンを円状の目標になるべく近づけようとします。

基本的にこのスウィープをたくさんすればするほど、ストーンはより長く、よりまっすぐに進みます。ただストーンは、ただ遠くにまっすぐ動けばいいというものではありません。なのでチームの中の残るひとりは、ストーンの滑り具合を見ながらスウィープの調整を指示する「スキップ」という役割を務めます。

それで新しいブラシがどれくらいインパクトがあるかというと、物理の問題、つまり慣性、推進力、摩擦が関係してきます。そしてカーリングにおいては氷の表面をあえて滑らかではなく、「ペブル」と呼ばれるザラザラした状態にしていることがポイントです。Scientific Americanにはこうあります。

ストーンが投げられてある程度の推進力を得ると、かなり長く滑り続けて、その後摩擦が大きくなって停止する。摩擦をより良くコントロールできれば、ストーンの曲がり方もうまくコントロールでき、ねらった場所に位置づけられる。氷も特殊なもので、表面に水滴を吹き付けたうえで凍らされているためペブルができ、摩擦が小さくなっている。またストーンは、底面の「ランニング・バンド」だけが、氷の表面に触れている。つまりストーンの重さは、通常の滑らかな氷の上よりはるかに小さな面積に集中している。

ブラシでこすることにより、摩擦はさらに少なくなり、氷が一瞬溶けてまた凍る。ブラシでこすらないままだと、ストーンはより大きく曲がる。スウィープの目的は、ストーンをよりまっすぐ長く滑らせることであり、ストーンをどこまで動かしたいかによってスウィープの度合いを変化させる。

カーリングにも破壊的イノベーション、ブラシをめぐる議論が熱い

この中でなぜ、icePadが問題になるんでしょうか? 上にあるように、カーリングのストーンはザラザラした氷の上を移動します。従来のブラシの先端には動物の毛とかナイロンのパッドが付いているのですが、それで氷をこすると、氷の表面以外の部分も含めてゴシゴシすることになって摩擦が大きくなり、スウィーパーの負担も大きくなっていました。でもicePadのメーカーであるHardline CurlingのWebサイトによると、icePadでは「ストーンが氷と接するペブルの表面だけに摩擦をとどめ、抵抗はほとんどなくなる」そうです。

つまりスウィーパーにとって、かつてないほどストーンの動きをコントロールしやすくなるということです。多くの選手は、コントロールできすぎると言うほどです。カーリングの世界では、個々のショットにおいて一番大事なのはストーンを投げる人であって、スウィーパーではないという考え方が根強いようです。

「それ(icePad)を使うことにより投げ手の多くのスキルが失われ、スウィーパーやスキップにスキルが求められるようになってしまったのです」と元五輪金メダリストのBrad GushueさんはNPRに語っています。「トップ選手であればコントロールがあまりに簡単になってしまい、微妙なショットでも逃しにくくなってしまったほどです」と別の金メダリスト、Ben HebertさんはOttawa Citizenでこう言っています。「ストーンを投げるのであれば、ショットを決めてほしいし、ストーンを投げない人には、ショットを決める資格はないと思います」。

というわけで、世界カーリング連盟は先日「スウィーピングサミット」を開き、トップカーリング選手11人とカナダ国立研究機関の研究者がここに結集しました。そこではレーザーとストーンを投げるロボットを使い、50以上のカーリング用ブラシがテストされました。そのデータは現在分析中で、その結果を元に規制のあり方が検討され、今年9月に投票が行なわれる予定です。

あのブラシにそんなイノベーションが起きているとは思いもよらないことでしたが、ともあれ選手の人たちがこれからも楽しくプレイできるよう、きちんと議論されるといいですね。

image by Paolo Bona/Shutterstock

source: Mental Floss

Jennifer Ouellette - Gizmodo US[原文]

(miho)