多様化するパワーエレクトロニクス試験に対応「大容量スマート交流・直流安定化電源」開発者に聞く【菊水電子工業/PR】 | 日刊工業新聞 電子版

THE STRONG 6Uで6kVAを実現

パワーエレクトロニクス市場が拡大の一途をたどっている。自動車、航空機、環境・新エネルギー、通信などの領域で大容量の電気機器開発が活発化。開発時の性能試験などに欠かせない電源装置のニーズが多様化している。菊水電子工業は電気機器の各種試験に対応可能な小型で多機能の大容量スマート交流・直流安定化電源「PCR-WE/WE2」シリーズを6月末に発売する。電力容量別に9タイプ、回生機能付きを含めた全15モデルをそろえる。製品開発一部開発一課の井口豪巳課長に製品の特徴と強みを聞いた。

電力容量別に9タイプ、回生機能付きを含めた全15モデルをラインアップ

―交流・直流両方に対応できるパルス幅変調(PWM)スイッチングアンプ方式の試験用電源「PCR-WE/WE2」シリーズを開発しました。

「当社はインバーター方式の試験用交流電源を20年以上にわたって販売してきた。近年は海外メーカーの攻勢などもあり競合製品とサイズや性能、価格面で競争力をつける必要が出てきた。そこで新たに世界戦略モデルとして小型で大容量の試験用電源を開発することにした」

―さまざまな分野で大容量の試験ニーズが高まっています。

「自動車関連市場のほか、冷凍空調市場もビル空調システムなどで電力を多く使うことから大容量の試験ニーズがある。当社のPWMスイッチングアンプ方式で既存機種の『PCR-W/W2』シリーズは電力容量の上限が12キロボルトアンペアとなっている。多機能モデルでリニアアンプ方式の『PCR-LE/LE2』シリーズは81キロボルトアンペアまで対応できるが、より大きな容量を求めるユーザーの要望が4、5年前あたりから出てきた」

―売り込み先として想定している市場を挙げて下さい。

「自動車関連市場は車載充電器などの電力容量が年々大きくなってきており、重要な市場の一つと位置づけている。一方、2020年の東京五輪・パラリンピックの開催に合わせ、ホテルや商業ビルなど建設が急ピッチで進んでいる。それに合わせて省エネルギー型のインバーターエアコンなどの需要が高まってきており、冷凍空調市場において性能試験やエージング(寿命)試験も増えてくるだろう。当然ながら試験用交流電源の需要も見込まれることからエアコンメーカーに売り込んでいきたい。成長市場である航空機の部品メーカーなどにも提案していきたい」

製品開発一部 開発一課 課長 井口 豪巳氏

―6Uサイズで既存機種の3倍となる電力容量6キロボルトアンペアという高電力密度を実現しました。

「開発当初は同サイズで電力容量4キロボルトアンペアを想定していた。ただ、国際競争力を考えた時に6キロボルトアンペアは必要と感じて開発方針を変更した。新製品は回路ブロックなどの設計をゼロから見直した。入力のAC/DCインバーター、中間のDC/DCコンバーター、出力のDC/ACインバーターを高効率化、小型化するための工夫を行った。さらに、双方向型で設計することで回生可能なモデルも開発した」

―具体的にはどのような工夫を実施したのですか。

「回路を小型化するためにスイッチング周波数を従来の機種に比べて引き上げ、LCフィルターを小さくすることで回路全体の小型化につなげた。また、小型化するには高効率化と放熱の最適化を図る必要があった。そこで出力部分で炭化ケイ素(SiC)の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を採用した。これによって電力損失低減と、1素子で大電流を対応できるようになったことも小型化につながった」

―設計の見直しや小型化によるメリットを教えて下さい。

「回路の中間にあるDC/DCコンバーターにLLC共振コンバーターを採用して高効率化を実現した結果、部品点数の削減に寄与することができた。また、安全性を確保するための入力の系統側と出力側の絶縁が容易にできるようになったこともLLC共振コンバーターを採用したことで生まれたメリットだ。2次側の同期整流回路では、既存機種は許容損失の大きなリードタイプのMOSFETに熱対策のアルミニウムのヒートシンクを付けていたため、その分の回路スペースを取っていた。だが、PCR-WE/WE2は高効率化によって表面実装のMOSFETだけで済む。その結果、ヒートシンクが不要となり小型化に貢献できた」

―電波暗室やシールドルームでの使用を想定して伝導妨害波電圧が低く、電圧歪み率を小さくするようにしています。

「もともと新製品の開発時には電磁環境適合性(EMC)試験、連続したノイズ試験において試験用交流電源を電波暗室やシールドルームの外に設置し、ノイズフィルターを介して使用することを考えていた。しかし、電源を設けるスペースが限られる場所もあり、電波暗室やシールドルームの室内に試験用電源を持ち込んで試験するというニーズも出てきた。試験時にはノイズフィルターを使用するが、試験用電源から生じるノイズのレベルも小さくする必要があった。その点を意識してPCR-WE/WE2の設計を行った」

―三相200ボルト入力モデルに回生機能を設けました。構内回生が可能なため、電気試験での省エネルギー化に貢献できます。

「昨今の省エネニーズに対応し、太陽光発電システムやコージェネレーションシステム向けパワーコンディショナーなどの系統連系模擬試験に使う交流電源で回生機能を求める声が出てきた。そこでPCR-WE/WE2に回生機能付きモデルを設けた。こうしたケースの場合、当社ではパワーコンディショナーから電源に電力を受け入れるまでを逆潮流と呼んでいる。既存機種のPCR-LE/LE2は逆潮流が30%だったが、新製品のPCR-WE/WE2はインバーター方式ながら逆潮流が100%可能となった。電力会社の系統へは回生できないが、構内回生することで省エネに貢献できるようになった」

―並列運転が可能となり電力容量を最大で三相144キロボルトアンペアまで拡張できるようになりました。

多様化するパワーエレクトロニクス試験に対応「大容量スマート交流・直流安定化電源」開発者に聞く【菊水電子工業/PR】 | 日刊工業新聞 電子版

「1台当たりの電力容量が最大36キロボルトアンペアという機種を開発するのは当社にとって初めての試みだった。これを並列運転ケーブルによって4台つなぐことで最大144キロボルトアンペアまで対応できる。試験用電源1台の小型化を実現したことで、4台分の大きさは高さ約1040ミリメートル、幅は約1800ミリメートルとなった。これは電力容量が同規模の他社製品に比べても非常に小さい。大容量でありながら設置場所を従来に比べて減らせるため、限られた試験スペースを有効に活用できる」

―交流電源としてだけでなく、直流電源としても使えます。

「有望市場に位置づけている航空機は直流電源と交流電源の両方が搭載されて成り立っている。そのため交直流両方の各種シミュレーションに使えるPCR-WE/WE2は最適と言える。また、航空機分野での試験ニーズに対応し、出力周波数を最大5キロヘルツまでに設定した。今回、開発したPCR-WE/WE2は小型・大容量で多機能の自信作だけに、全世界の多くのパワーエレクトロニクス関連の開発現場で使ってもらいたい」

(聞き手 日刊工業新聞社横浜総局・渡部敦)

開発の背景と特徴

産業界ではそれぞれの業態に問わずエレクトロニクス関連の開発競争が激しさを増している。自動車業界では電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)などの次世代自動車の開発が進む。EVやPHVに充電するための家庭用エネルギー管理システム(HEMS)などの高度化も求められている。

2020年開催予定の東京五輪・パラリンピックを前に都市再開発などによる新築需要も高まっている。これに伴い業務用空調システムの受注も拡大している。近年は技術革新により人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)を活用した空調や保守管理などのシステム開発も進みつつある。こうしたシステムを支える装置や機器の需要も増えている。

菊水電子工業はこうした搭載装置や機器の開発を支える試験用装置や電源を数多く手がけてきた。このたび需要拡大が見込まれる自動車関連、冷凍空調関連、通信機器関連、電力機器関連、航空機関連の各市場や各国の電磁環境適合性(EMC)試験機関向けの試験用電源を開発した。

6月末に発売予定の大容量スマート交流・直流安定化電源「PCR-WE/WE2」シリーズは市場ニーズが高い『小型・大容量=高電力密度』を反映したモデルだ。電力密度を現行機種に比べ3倍に高め、コンパクトにした上でシミュレーション機能を搭載した。

電力容量1キロボルトアンペア、2キロボルトアンペア、3キロボルトアンペア、6キロボルトアンペア、12キロボルトアンペア、18キロボルトアンペア、24キロボルトアンペア、30キロボルトアンペア、36キロボルトアンペアの9タイプを用意。特に6キロボルトアンペア以上のモデルの小型化を実現した。三相200ボルト入力モデルは構内回生を可能とする回生機能を搭載。この機種を含めると全15モデルをシリーズ化した。

PCR-WE/WE2は交流、直流の両方に対応できるのが特徴だ。一般的に各種試験で多く使われる交流安定化電源は電波暗室やシールドルームで被試験機器(EUT)の駆動電源として使われることが多い。特に電磁妨害(EMI)測定の伝導性エミッション測定では交流電源を電波暗室やシールドルーム用のノイズフィルターに接続した状態でも安定的に動作しないといけない。

中でも伝導性エミッション測定の一つである電源雑音端子電圧測定は、電波暗室およびシールドルーム内でEUTから発生するノイズを検出し、EMIレシーバーなどを使って周波数やノイズレベルを測定する。このような商用測定の周波数レンジは地域によっても異なるが、一般的に9キロヘルツから30メガヘルツの範囲となる。

同じく伝導性エミッション測定の雑音電力測定は、EUTから発生するAC電源ライン上の妨害電力の強度を測定する。このような商用測定の周波数レンジは30メガヘルツから300メガヘルツの範囲となる。それぞれの測定ブロックは交流安定化電源→ノイズフィルター→電波暗室→測定室となる。

使用する測定機器は電源疑似回路網(LISN)を介して雑音端子電圧測定にEMIレシーバー、出力波形の歪み率測定に高調波/フリッカアナライザー、電圧/電流波形測定にオシロスコープを使用する。その際、無負荷時、R(抵抗)負荷時、ノイズフィルターの有/無の条件下で電磁妨害波の自主規制安全規格「VCCI」の「クラスB」基準をクリアした情報技術装置の電源ポート伝導妨害波の許容差に対し、交流安定化電源自体の伝導妨害波電圧が十分に低い値にならないといけない。加えて出力波形の歪み率が小さいことが望ましい。

PCR-WE/WE2は伝導妨害波電圧が低いのが特徴。さらに負荷接続時の電圧歪み率が非常に小さいことから、電波暗室やシールドルームに使用する交流安定化電源に適している。

また、試験用の交流安定化電源は電波暗室やシールドルームの外や地下の電源室に設置されることが多い。この場合、電源室から測定室までの距離が数メートルから長いと20-30メートル離れることがある。従来の交流電源は光有線ケーブルを使い、専用リモコンで制御するなど使い勝手がよくなかった。

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PCR-WE/WE2はLAN、USB、RS232Cといったデジタルインターフェースを標準装備している。オプションでGPIBにも対応できる。中でもLANはLXI対応なのでパソコン、スマートフォン、タブレットなどのウェブブラウザーからの制御や監視が可能となる。そのため別の建屋にある交流安定化電源を容易に遠隔制御、管理することができる。

交流安定化電源はEUTの駆動用電源として使用する一方、国際電気標準会議(IEC)が定める低周波イミュニティ試験の規格試験への対応が求められている。規格には使用する電源に対する要求事項が規定されており、例えば「IEC61000-4-11規格」では付属書A.3にEUTのピーク突入電流の要求事項を満たすことが義務付けられている。ピーク突入電流供給能力が定格電流500アンペア未満の交流安定化電源では同能力の70%未満のEUTであれば評価可能で、500アンペア以上であればどのEUTも試験できる。

そのためEUTのピーク突入電流に応じて使用するモデルを選択すれば、IEC61000-4-11規格の要求を満たす交流安定化電源として使うことが可能となる。

市場ニーズに応えるべく、操作性や機能性の充実を図った。電力容量3キロボルトアンペア以上のモデルは、1台で単相/単相3線/三相出力を本体パネルで切り替え出力できるような一体型モデルとした。電力容量6キロボルトアンペア以上のモデル同士を組み合わせて並列運転できるため、使用ニーズに合わせて分割や統合といった使い方ができる。

優れたメンテナンス性とエコ運転機能も備えた。電力容量6キロボルトアンペア以上のモデルは6キロボルトアンペア単位のユニット構造となっているためメンテナンスが容易だ。供給負荷に応じて必要なパワーユニットだけの運転も可能。さらに出力を一定時間しないと休止状態になるスリープ機能を装備しており、省エネルギー化に貢献できる。

ユーザーの大容量ニーズに対応して、電力容量36キロボルトアンペアのモデルを4台つないで並列運転することが可能だ。その結果、標準で三相144キロボルトアンペアまで電力アップできる。これによってビル空調システムや航空機部品など電力を多く使う分野での試験ニーズに対応できる。三相200ボルト入力モデルについては省エネニーズに対応し、構内回生ができる回生機能を設けた。既存機種では逆潮流30%が限度だったが、PCR-WE/WE2は100%可能となった。

今後は小型で大容量、多機能を特徴とした強みを生かし、ますます拡大が予想される次世代自動車や省エネ家電、業務用空調システムといったものに搭載する装置や機器の電源環境試験ニーズに対応する。菊水電子工業はこれからも多様化する試験ニーズにフレキシブルに対応し、電源に関するイノベーションを支えていく。