電気自動車から電気を取り出す〜ニチコンが『パワー・ムーバー ライト』を発表

災害時などに活躍してきた外部給電器

ニチコンは2021年5月31日に、外部給電器の『EV パワー・ステーション』シリーズに『Power Mover Lite』(パワー・ムーバー ライト/型番VPS-3C1A)を追加することを発表しました。ニチコンが2017年に発売した『パワー・ムーバー』(型番VPS-4C1A)より小さく、軽くなっただけでなく、価格も約30%下がりました。本体価格は税別で45万円です。発売は8月で、年間に1500台の販売を目指しています。

電気自動車(EV)ユーザーにはもう広く知られた存在になっていると思いますが、外部給電器はEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)や燃料電池車(FCEV)などのバッテリーから電気を取り出し、家電製品などで使えるようにするものです。

東日本大震災の時に、復旧作業や避難所などに電力を供給するためにEVを利用する試みが始まり、その後も頻発した災害で徐々に活用範囲が広がって、V2HやV2LができるのはEVにとって大きなメリットになるという認識が共有されてきました。

そうした中、ニチコンは2017年に『パワー・ムーバー』(型番VPS-4C1A)を発売。複数の車種に対応し、接続するだけで電力を利用できる『パワー・ムーバー』は、2018年の西日本豪雨や北海道胆振東部地震、2019年の台風15号による災害、2020年の熊本豪雨などで利用されてきました。

今回、新たに開発した『パワー・ムーバー ライト』は、『パワー・ムーバー』を小型・軽量化して普段使いの利用も狙っています。

軽くなってカラーバリエーションも増えた

『パワー・ムーバー ライト』のいちばんの特長は、重量がこれまでの38kgから21kgへと40%以上も軽量化したことでしょう。対応出力を少し落としたことによる部品の簡素化が大きいのかもしれません。従来の『パワー・ムーバー』は100V/1500Wのコンセントが3口の最大4.5kWまで対応していましたが、『パワー・ムーバー ライト』はコンセントを2口にしています。

キャリングケースのようなコロコロは、今回も付いています。また、レジャーなどの利用を狙っているだけあって、これまでのベージュの1色のみから、イエローとブルー、2タイプのカラーバリエーションが用意されます。

電気自動車から電気を取り出す〜ニチコンが『パワー・ムーバー ライト』を発表

サイズや重量をざっと表にして比べてみました。大きさは、小型化とは言うものの、あまり変わっていないような気もします。でも重量の差が大きいので、持ち運びや移動は格段にラクになると思います。

スペック等比較表

パワー・ムーバー ライトパワー・ムーバー
最大出力3.0kW4.5kW
コンセントAC100V/1500W×2(50Hz/60Hz)AC100V/1500W×3(50Hz/60Hz)
変換効率88%(※それぞれのコンセントの負荷が1kWの時)
幅×高さ×奥行き(mm)553×456×292631×500×305
重量約21kg約38kg
給電コネクタケーブル長2m
12V電源ケーブル長5m
適用規格電動自動車用充放電システムガイドラインV2L版DC2.1版
価格45万円65万円
補助額(CEV補助金)15万円(予想)21万6000円(2020年7月時点)

ニチコンは『パワー・ムーバー ライト』について、「クリーンエネルギー自動車導入辞表費補助金」(CEV補助金)と、「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」の補助対象にするための申請を行う予定です。

このうちCEV補助金の対象になれば補助率は本体価格の3分の1なので、本体価格が45万円の『パワー・ムーバー ライト』の場合は15万円が補助されると思われます。ということは実質30万円でV2Lが可能になるということですね。

ちなみに今年度(2021年度)はまだ、CEV補助金を紹介している次世代自動車振興センターのWEBサイトに外部給電器の対象機種が掲載されていません。夏までには決まると思います。

『パワー・ムーバー ライト』の販売目標は年間1500台です。ニチコンによれば、『パワー・ムーバー』は主に自治体が災害対応のために購入していましたが、少しずつユーザー層が広がっているという印象を持っているとのことで、『パワー・ムーバー ライト』は一般ユーザーにも買ってほしいそうです。1500Wのコンセントが2口あれば、ホットプレートで焼肉もいけそうです。もちろん災害時に重宝するのは間違いありません。

あ、最後になりましたが、念のため。『パワー・ムーバー ライト』が発売されても、『パワー・ムーバー』の販売は続きます。大きな出力が必要な場合は『パワー・ムーバー』でということです。

ここまで書いていて、外部給電のための機器はけっこう高いものなんだということに今さらながら思い当たりました。数の問題もありそうですが、昨年までは、1500Wに対応している三菱自動車の外部給電器がいちばん安くて本体価格が14万2667円でした。

だとすると、少しでもコストを抑えたくてボルト一本の価格まで気を遣っている自動車メーカーにとって、数万円になりそうな給電機能をEVに搭載するのはハードルが高いのかもしれません。

これはただの願望ですが、いつかEVの数が増えて直流/交流変換のためのパーツの値段が下がって、100Vコンセントが標準装備になる日が来るといいなあと思います。その時には、災害対応のための大出力の外部給電器の値段も下がるでしょうし、社会にとってのメリットは大きそうです。

(文/木野 龍逸)