日産「アリア」を生産する「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を詳説 マイクロソフト「製造/自動車業界DXフォーラム2021」

「ニッサン インテリジェント ファクトリー」の先進性を解説

日産自動車株式会社 常務執行役員 パワートレイン生産技術開発本部長 村田和彦氏

セッションでは最初に、日産自動車 常務執行役員 パワートレイン生産技術開発本部長 村田和彦氏が登場。今年度から栃木工場で導入した新しいクルマ作りのコンセプト「ニッサン インテリジェント ファクトリー」(NIF)で進めている次世代のクルマ作りについて解説を行なった。

村田氏は現在、自動車業界では生産事業を取り巻く環境が大きく変化しており、かつてフォードがモデルTの生産において作業員を工場に集約し、流れ作業で作業していく「フォード生産方式」を生み出したことは画期的なできごとで、自動車産業にとどまらず製造業の基礎になっていると紹介。しかし、時代の移り変わりによって現代ではこういった仕事に従事したくないと考える人も増えており、加えてパンディックの発生により、こういった「労働集約型」のスタイルを維持することが難しくなっていると説明した。

さらに、日本社会で少子高齢化が進んだことによって工場での労働環境を改革する必要があり、新型コロナウイルスの感染拡大によるパンデミックで予期せぬ事態の発生に対する柔軟性が求められていると述べたほか、COP26での取り決めを実現してCO2を削減し、気候変動に対応する具体的な施策は最も重要な点であり、自分たちも貢献していかなければならないと強調した。

製品となるクルマは加速度的に進化が進み、日産では「電動化」「知能化」「コネクテッド」といった技術を「ニッサン インテリジェント モビリティ」のコア技術に位置付けて注力。こうした複雑化、高度化を遂げたクルマの生産に対応し、さまざまなバリエーションのあるクルマ作りを実現するには生産体制の強化が要になるとの考えを示した。

日産「アリア」を生産する「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を詳説 マイクロソフト「製造/自動車業界DXフォーラム2021」

NIFで最初に生産されるモデルとなる新型クロスオーバーBEV「アリア」は、2種類のバッテリ容量と前輪駆動、e-4WDを用意する駆動方式を持ち、計4種類のパワートレーンをラインアップ。さらに高速道路でのハンズオフ走行を実現する「プロパイロット 2.0」、2つのワイドディスプレイを駆使するコネクテッドサービスにも対応する先進的なモデルとなっている。

自動車産業を取り巻く環境は大きく変化しており、主に4点について対応が必要複雑化、高度化を続けるクルマに生産現場も対応が迫られているアリアは「ニッサン インテリジェント ファクトリー」(NIF)で最初に生産されるモデル

こうした高度化した車両生産を実現するNIFでは、「未来のクルマをつくる技術」「匠の技で育つロボット」「人とロボットの共生」「ゼロエミッション化生産システム」という4つの柱を用意。

具体的な内容では、生産技術で「SUMO」と日産で呼称するパワートレーンの一括搭載システムについて紹介。これまでパワートレーンの組み付けは作業員が手作業で行なってきたが、不自然な作業姿勢が求められて作業員に高負荷を強いる工程となっていた。SUMOでは組み付けるパワートレーンの種類に合わせて使い分けられるよう、フロント、センター、リアで分割された3つのパレットを全車共通のパレットに載せる2層構造を採用。3×3×3で27通りのモジュール構成が可能になり、実際にアリアで求められる4種類のパワートレーンについても1つの設備で対応できる。

ルーフ部分の内張トリムであるヘッドライニングの取り付けも、これまでは作業員がラインに設置されたクルマの車内に入り込んで不自然な姿勢で作業する肉体的負荷の高い工程だったが、NIFでは国内工場で初めて自動組み付けを採用。ヘッドライニングはエンジンなどとは異なり、ボルトではなく柔らかい樹脂製のクリップを使って車体に固定しており、作業員は指先の感覚で固定完了を確かめていた。自動化のロボットではアーム部分に力覚センサーを設置。挿入力の変化値をデータ化することで自動組み付けを実現している。

世界初の技術となった「ボディ&バンパー一体塗装」では、塗料メーカーと共同開発したまったく新しい水系塗料を採用。これまでは塗装後の焼き付けで樹脂製のバンパーは85℃、鉄製のボディは140℃の熱を加えており、別々に塗装してから組み付けていたが、一体塗装ではすべての焼き付けが85℃で可能になったことからボディにバンパーを組み付けた後の塗装が可能になった。一体塗装によってボディとバンパーの完全な色合わせを実現することに加え、使用するエネルギーを25%削減。ゼロエミッション化に向けたエネルギー削減を推し進める技術となっている。

NIFで掲げる4つの柱パワートレーンの一括搭載システム「SUMO」ヘッドライニングの自動組み付けでは、ロボットのアーム部分に力覚センサーを設置して作業を可能にしたボディの塗料焼き付けもバンパーと同じ85℃で実現可能にする新たな水系塗料を開発

アリアの駆動力を生み出す「新世代EVパワートレーン」についても解説を実施。日産では2010年に初代「リーフ」を発売して以来、心臓部である「e-パワートレーン」を進化させ続け、エンジンと組み合わせる「ePOWER」にも採用を拡大してきた。しかし、アリアではNIFでの生産を視野に入れたまったく新しいパワートレーンを開発。滑空走行時などに磁力調整が容易な磁石レスの「8極式巻線界磁ローター」を採用して静粛性、高速走行性能を高めている。

新世代EVパワートレーンを構成するローター、ステーター、ハウジング、PEB(インバータ)などは専用の組み立てラインで一括生産。車載用モータで量産世界初となる8極式巻線界磁ローターでは、従来品で使っていたレアアースを必要とする永久磁石を高精度の巻線技術に置き換えてローターから排除。ローターには直径1.2mmの銅線を118周させて350m分巻き付けた極を8個組み合わせて使用する。銅線の巻き付け作業には「ノズル式巻線装置」を使い、8極分の計944周を20分で巻き上げ、モータ8基分を同時に作業できるという。

アリアの駆動力を生み出す「新世代EVパワートレーン」では磁石レスの「8極式巻線界磁ローター」を採用新世代EVパワートレーンの組み立てライン8極式巻線界磁ローターではレアアースを使う永久磁石を不要とした

こうした先進技術を取り扱う難しい作業について、従来は紙資料やビデオを使って作業員が工程などを学んでいたが、NIFではマイクロソフトと共同開発した「IOSS」(Intelligent Operation Support System)を活用。「HoloLens 2」によるMRなどのデジタル技術を活用し、実際のラインで現物を見ながら作業訓練ができるようになり、直感的な操作で早期の作業習熟が可能になっている。

なお、IOSSなどについて村田氏は「この後、デジタルを担当するメンバーから、『デジタル活用での業務革新』『MR技術を活用した作業支援システム』について説明を行なわせていただきます」とバトンタッチして解説を終えた。

NIFではマイクロソフトと共同開発した「IOSS」(Intelligent Operation Support System)を採用している栃木工場で培った技術を国内外の工場に順次展開していく