家もクルマも。新形態スピーカー「SOUND MUG」を聴く
ソニーが4月24日に発売した「SOUND MUG」(RDP-NWV500)は、屋内だけでなく、車の中での使用も想定した新しいタイプのアクティブスピーカーだ。価格はオープンプライスで、4月28日現在、市場では2万円を切る、1万円台後半で販売されている。
ウォークマンと共にホームステーションに設置したところ |
車に乗る際は、ホームステーションからスピーカーとウォークマンを取り外し、そのまま車内へ持ち込み。スピーカーを車のカップホルダに入れて固定。車内でウォークマンの音を無指向性再生する事で、カーステレオの代わりになるというのが基本コンセプトである。
今回、このユニークな製品が生まれた背景を紹介するとともに、実際に車の中で「SOUND MUG」を使う機会にも恵まれたので、使い勝手や音質をレポートしてみたい。
そもそも、どうしてこのような製品が生まれたのだろうか? 発端としてはヘッドフォンやデスクトップオーディオなどを手掛けているパーソナルオーディオの開発部隊と、車載オーディオの部隊がタッグを組み、新しい形の製品を生み出そうという企画からスタートしたという。
どちらかと言うとマニアックな車載オーディオと比べ、“誰にでもわかりやすい”、“カラーバリエーションが豊富”、“小型・軽量化技術”などを持つパーソナルオーディオからのアイデアや切り口をベースに開発がスタート。車内で安全に使えるようにするため、車載オーディオ部隊の“熱や振動対策のノウハウ”、“車内における音圧や音質、音場に関するノウハウ”を取り入れながら、開発が進められたという。
タンブラーのような形状のスピーカーだが、パッケージデザインもタンブラーのようなものにするなど、楽しい演出も |
そうした機能が無い場合、FMトランスミッタを利用して、カーオーディオのチューナからポータブルオーディオの音を楽しむ場合が多いだろう。iPod/ウォークマン用のFMトランスミッタが多数販売されているのはご存知の通りだ。
しかしながら、ポータブルオーディオ連携機能を持ったカーオーディオは比較的新しい機種に限られる。純正カーオーディオでそのような機能が備わっているのも、新しい車種での話だ。そしてFMトランスミッタには、混信や音質などで不満が出る場合もある。
かといって、新しいカーオーディオを導入するにはお金がかかるし、新しい車を買うとなるとさらに出費がかさむ。お気に入りの古い車に乗りつつも、ポータブルプレーヤー内の楽曲を楽しみたいというニーズもある。SOUND MUGは、アクティブスピーカー自体を車内に持ち込む事で、カーステレオを新調するよりも低価格で、FMトランスミッタよりも安定した高音質再生ができる製品と位置付けられている。
開発にあたり、コンスーマープロフェッショナル&デバイスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部 パーソナルエンタテイメント事業部 シニアPEプロダクト コーディネーターの遠藤純也氏には「車載オーディオでは、どちらかと言うと大きなボリュームで、低音を前面に押し出したようなバランスが多いのですが、そういった方向とは違う音の好みを持ち、より手軽に車の中で音楽を楽しみたいと考えている人もいるのではないか?」という思いがあったという。
車の中の様々な設置場所をリサーチ |
しかし、「スピーカーをカップホルダに入れる」というアイデアに辿り着くまでには紆余曲折あったそうで「床に転がしたり、複数のパーツに分離して、例えばツイータはダッシュボードに設置して、ウーファは別の場所に置くなど、色々なアイデアが出ました」と、デバイスソリューション事業本部 オートモーティブ・システム部 2課の坂本章統括課長は振り返る。
だが、床に転がすとブレーキ操作など運転の妨げになる危険性があり、複数パーツに分けると商品としてのわかりやすさや、導入の簡単さを妨げるなどの問題があった。
そういった中で、自身が車中でマグカップを愛用していた坂本氏が、「マグカップやタンブラーのようなスピーカーを作り、カップホルダに入れれば、様々な車に気軽に設置できるのでは?」と考え、現在のような形にまとまっていったという。しかし、開発にあたってはカップホルダの位置やサイズが実際の車でどのようになっているのか、397台もの車を調べたり、安全性の面からサイズや重さをペットボトルと同程度になるよう工夫したりと、様々な苦労があったという。
では、実際に音を聴いてみよう。
まず、室内のテーブルの上に、ホームステーションと共に設置して再生すると、細身でコンパクトな筐体からとは思えないほど豊かな中低域が流れ出す。筐体が共振して低音の明瞭度が下がるような事もなく、骨格のシッカリとしたサウンドだ。
中高域も伸びやかで、部屋の中に自然に広がる。スピーカーは2ウェイで、筐体上部に搭載。向かい合う形で20mmのツイータと56mmのウーファを配置しており、その間に円盤型のディフューザーを配置。音を360度に拡散する無指向性システムとしている。細長い筐体内にはロングバスレフポートを内包。内蔵アンプはデジタルアンプで出力は総合16Wだ。
スピーカー部。赤いパネルがディフューザー。その下に、上向きにウーファを設置。ツイータはその上に、下向きに設置している | ホームステーションの背面。ステレオミニ入力を備えている | ホームステーション。左側にSOUND MUG、右にウォークマンを設置する |
360度に放出された音は、直接音以外に部屋の壁や天井、テーブルなどに反射した音も耳に届くため、頭の位置を移動させても“聴こえ方”にはあまり変化が無い。室内でBGM的にウォークマンの音を楽しむには十分なクオリティと言えるだろう。なお、ホームステーションの背面にはステレオミニの入力も備えているため、ウォークマン以外のプレーヤーも接続できる。
ちなみに、ホームステーションとSOUND MUGは、底面のDock端子で接続されているのだが、この端子が接続された状態では、相対的に“低音域を下げ、高音域を上げたバランス”の再生音になる。これは、室内利用時には、ユーザーがSOUND MUGのすぐ側にいないと想定し、伸びやかな高音再生をするためだという。
SOUND MUGの底面。Dock端子を備えている | 背面に電源端子とウォークマン接続用端子、ステレオミニの外部入力を装備。車内ではこちらを使用する |
一方、ホームステーションから外し(Dock接続の無い状態)、車内に持ち込むと、バランスは“相対的に低音域を上げ、高音域を下げるバランス”に自動変更される。これは、車内ではユーザーのすぐそばにSOUND MUGを設置する事になり、高音が強く耳に届くと、再生音がうるさく感じられるのを防ぐための工夫だそうだ。
ホームステーション設置と、車内使用の音作りの違い | 内部のユニット配置。緑の部分がディフューザー |
車内(マツダ・デミオ)に持ち込み、センターコンソールの前方寄り、シフトレバーとサイドブレーキの中間にあるカップホルダに設置。助手席に座って音を出してみると、驚く事に、目の前から音が聴こえてくる。SOUND MUGは自分の右膝の横にあるため、腰のあたりに音が広がる先入観があったが、音が聴こえてくる方向は顔の真正面である。
試聴用の車はマツダのデミオ | センターコンソールの前方寄りのカップに設置 |
これはSOUND MUGから発せられた音が、車内の様々な場所に反射して耳に届いているためだ。その中でもフロントガラスの面積が大きく、ガラスが中高音を反射しやすいため、正面からの音が目立つのだろう。また、思ったよりも付帯音が少なく、音のキャラクターはニュートラルだ。
一方、室内での再生で豊富なイメージがあった低音は、シートや床のマットなどに吸収されるためか、それほど強いインパクトは感じない。ただ、SOUND MUGとの距離が近いため、中低域の直接音も豊富に聴き取れ、それほどバランスが悪いとも感じない。体がゆすられるような重低音はさすがに無理だが、どちらかというと、このくらいの上品な音作りの方が落ち着くという人もいるだろう。
そのままの配置でリアシートに移動すると、中低域が減退するが、「トントン」、「タンタン」と下半身に響くレベルでの低音は伝わって来る。反射しやすい高域は、あまり変化なくシッカリと聴き取れるのが面白い。
リアシートに座ったまま、SOUND MUGをセンターコンソールのリアシート寄り、つまり車の中心付近に持ってくると、聴こえ方は前述の、助手席に座っていた時の印象に近くなる。ドライバーと助手席にしか人がいない場合は前寄りのホルダに、沢山の人が乗っている時は中央寄りのホルダと、状況に応じて音場を変化させられるのも面白い点と言えるだろう。
センターコンソールのリアシート寄りに設置。リアシートで聴く際はこちらのポジションの方が音が良かった | ウォークマン以外と接続した活用例として、ポータブルナビの音声出力と接続。ナビ側の音楽が再生できるほか、ナビ音声もSOUND MUGから出力。ポータブルナビの小さなスピーカーよりも、よい音で音楽&ナビを聴く事が出来た |
天面操作部での操作はあえてシンプルになっており、入力切替と電源、ボリュームのみ。楽曲選択などはウォークマン側で行なう |
また、ボリュームにも工夫がる。SOUND MUG側でのボリューム調節ができるほか、ウォークマン側のボリュームを操作するとゲインコントロールが可能。だがその場合、ウォークマンをSOUND MUGから外した際に、ウォークマン側のボリュームが過度に上がり過ぎている危険性がある。それを防ぐため、SOUND MUGから外すと、SOUND MUGに接続する前のボリュームに自動的に戻るようになっている。
なお、設置場所に関してソニーでは、センターコンソールのカップホルダを想定。ホルダがSOUND MUGよりも大きかった場合に、隙間を埋めるフィッティングクッションや、急ブレーキなどでの飛び出しを防ぐための結束ケーブルも付属しており、背面にはそれを通すための突起も備えている。安全性の面から、エアコンの前に引っ掛ける形のカップホルダへの搭載は推奨されていない。
ケーブルで車内のものと固定するために、本体に突起が設けられている | SOUND MUGの下に敷いてあるのが、フィッティングクッション。隙間を埋めてホルダから外れにくくするほか、共振も抑えるので音質にも有利だという |
カーオーディオとして斬新な製品だが、ホーム向けのアクティブスピーカーとしても「車の中でも使える」という訴求点は新しい。一見するとタンブラーにしか見えない形状や、深みのあるオレンジ(D)モデルの発色など、デザイン面でもインパクトがあり、ソニーらしい製品と言えるだろう。
自分の車のサウンド環境のアップグレード以外にも、例えばレンタカーなどで使用し、ホテルの部屋でもホームステーションと一緒に音楽を楽しむなど、従来のアクティブスピーカー/カーオーディオの常識にとらわれない使い方ができそうだ。
今回の試聴車では、このようにウォークマンをクリップ型の器具で固定 |
車内での使用で気になったのは、SOUND MUGにシガーソケットコードと、ウォークマン接続コードの2本を接続しなければならない事。バッテリの搭載は、高温になる車内への対応や、コストの増加、内部スペースの問題で低音とのトレードオフになる事などで見送られたという。
ウォークマンとSOUND MUGの直結も、製品サイズが大きくなってしまう事や、外れた時の安全性の問題などがあり、ケーブルで接続し、助手席の人が手に持つなど、「車内での携帯電話の設置場所と同様に、ユーザーが使いやすいと感じる場所に置いてもらったほうが良いと考えた結果」だという。このあたりも含め、例えばBluetooth対応など、今後の展開にも期待したい。
車内のどこに設置すると、どのように音が変化するのか? どの車で使うと、どんな音がするのか? 他にどんな使い方があるのか? などなど、ユーザーが工夫する楽しみがあると同時に、次期モデルへのアイデアが勝手に膨らむような、将来性のある“新しいスピーカージャンルの誕生”と言えそうだ。