低すぎる尿酸値、病気なのか?

松尾洋孝さん 防衛医科大講師

60代の女性。血中尿酸値が1デシリットルあたり0・5ミリグラムです。30代の頃、低すぎると健康診断で指摘され、精密検査も受けましたが、原因が分かりません。低いだけなら大丈夫と言われたこともありますが、どんな影響があるのか不安です。(京都府・T)

【答える人】 松尾洋孝(まつおひろたか)さん 防衛医科大講師(痛風・尿酸関連疾患)=埼玉県所沢市

尿酸とは何ですか。

細胞の核にも含まれるプリン体が代謝されて生じる尿酸は、活性酸素を減らす作用などがあります。血中で溶けきれないほど高濃度になると関節にたまり、炎症が起きて痛風になります。成人では毎日700ミリグラムが肝臓でできます。尿がつくられる時に、大部分が腎臓内で再吸収されて、血中に戻ります。

尿酸値が低い場合は問題ですか。

女性はホルモンの影響で元々男性より低いですが、閉経すると上がります。低い分には問題ないと考えられてきましたが、「腎性低尿酸血症」という病気があることがわかってきました。尿酸を運ぶたんぱく質の遺伝子に変異があり、再吸収がうまくいかず血中にためられません。日本人に多く、有病率は男性0・2%、女性0・4%です。

どんな病気ですか。

 低すぎる尿酸値、病気なのか?

自覚症状はありませんが、人によっては、尿路結石や激しい運動後の急性腎障害といった合併症が起きます。4月に公表された診療ガイドラインでは、血中の尿酸値が1デシリットル当たり2ミリグラム以下で積極的に病気を疑います。さらに、尿中の尿酸値が高いかどうかなどを調べて診断します。

治療法は。

症状がなければ、治療は必要ありません。激しい運動をする場合は、その前に水分をしっかりとります。急性腎障害を起こしやすくする抗炎症薬をのんだら、運動を避けるようにします。短距離走などをした後、背中や腰が痛くなったら、急性腎障害の可能性があります。医療機関を受診してください。急性腎障害を防ぐ薬をのむなどの対策をとることもあります。

自衛隊員の健康調査で判明、腎性低尿酸血症

腎性低尿酸血症のガイドラインづくりに携わった四ノ宮成祥教授(中央)ら研究メンバー=埼玉県所沢市の防衛医大

血中の尿酸値が低い「腎性低尿酸血症」は、今年4月に初めて診療ガイドラインがつくられた。とりまとめの中心になったのが、防衛医大分子生体制御学講座のチームだ。

講座の四ノ宮成祥教授によると、激しい運動や訓練に取り組む自衛隊員の尿酸値を調べる中で腎性低尿酸血症に気づいたという。血中尿酸値の低い隊員が、筋肉痛などの痛みを和らげようと抗炎症薬(痛み止め)を飲んでいた。そうした隊員の中には急性腎障害を発症するケースがみられた。

尿酸値が低い隊員たちの遺伝子を調べると、尿酸を運ぶたんぱく質に関係した遺伝子が原因と分かった。2種類のうち、いずれかに変異があると、機能が落ちて尿酸の再吸収がうまくいかないことがわかった。低尿酸の原因を探る中で、痛風など「高尿酸」の原因遺伝子についての研究も進んだ。

松尾洋孝講師は「アスリートで低尿酸に悩む人もいる。激しい運動をする場合は、水分を十分にとったり薬を避けたりして、うまくつきあっていく必要がある。医療機関を受診してほしい」と話している。

腎性低尿酸血症のガイドラインは、日本痛風・核酸代謝学会のホームページ(http://www.tukaku.jp/guideline/1445.html)で見ることができる。(水野梓)

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