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未来戦略チーム 尾原崇也
4選を目指して静岡県知事選(6月3日告示、20日投開票)への立候補を表明している現職川勝平太氏(72)が24日、静岡市内で政策発表会見を開いた。発言の詳細(書き起こし、一部省略・要約)は次の通り。〈※文末に動画があります〉
知事選まで1カ月を切り、日頃コロナ対策に追われているが、自らの政策を発表する機会が巡ってきた。 キャッチフレーズは「東京時代から静岡時代へ」。なぜこういうことを言うかというと、国内の新型コロナウイルス感染者数の累計は70万人を超えている。1番多いのが東京都で約15万人。1都3県を入れると、その倍の30万人くらい。大阪は10万人。兵庫県と京都を入れると15万人。愛知県が5万人ということで、3大都市圏で感染者数が全体の7割を占めている。静岡県は目下7千人台。一桁二桁低い数字に抑えられている。これは皆様方が感染対策をしっかりとってくれている結果であると思う。 そうした中で、首都圏からの脱出というか、移住希望が増えていると、肌で実感している。移住希望のランキングで20代以下、30代、40代、50代、60代で静岡県が1位になった(※3月5日、認定NPO法⼈ふるさと回帰⽀援センター発表)。言ってみれば、静岡が憧れの地になると。ポスト東京時代を開くという10年来私が担ってきた県政が実を結び、静岡時代を堂々と唱えることができる時がきた。 国際連合が2015年に、2030年までに達成したいと示した17のゴール、これをSDGsというが、これを念頭に静岡県をつくろうということ。国際連合の目指すSDGsのフロントランナー、モデル県になろうと。つまり人類社会の一番の希望が、われわれをみればわかると。 ウーブン・シティ。世界のトヨタが富士山の麓に未来をここから開くという志があるから。SDGsというのは誰ひとり取り残さない、自然と、人間の活動との調和がポイントになっているが、みんなが安全で安心で誰も取り残されない。障害者も外国人もさまざまな宗教の方もいらっしゃるが、どなたも同じように扱うと。静岡県では1人も取り残さない。努力をすれば夢を実現できる。ドリームズ・カム・トゥルー・イン・ジャパンの拠点をつくっていくということで、差別のない社会をつくっていく。 何はともあれ、新型コロナ対策。コロナの克服には2つの柱がある。検査態勢を充実させること。それからワクチン。昨年の春以来、全国知事会などを通して繰り返し言ってきた。静岡県では検査態勢、PCR検査、あるいは抗原血液検査等々、さらに変異株が生まれてからは国立遺伝学研究所が三島市にあるので、国にお願いして、変異株の解析ができるということを承認してもらった。まずは検査をしっかりする。だいたい1日2千件くらいはゆうに検査ができる態勢になっている。コロナの出口というのはお金を配ることではない。ワクチン。これがなければ、感染は防ぐことはできない。日本は科学技術の先進国でありながら、残念ながら、ワクチンを製造するという方針にいかない。ファイザーと、最近はモデルナ。アストラゼネカも。これらはすべて1年ほどの間に外国で承認されたもの。日本はそれに頼る、と。しかし、とにかくワクチンを接種しないことにはらちが開かない。そうした中でどうするか。静岡県は人口当たりの医者の数が少ない。(人口10万人当たりの医師数は)全国40位前後で、下から数えた方が早い。そうした中で総理から7月末までに65歳以上のワクチン接種を終えなさいという指示があった。それで大混乱が起こった。それを受けて、県内35市町のトップとウェブで会談し、集団接種の会場を設営してほしい、また運営してほしいということで、場所の選定とやり方について話している。 医者が少ないので、ワクチンチームを静岡県でつくるということ。ワクチンチームをつくるということは、その方たちは、通常の医者の業務を外れることになるので、休業の補償が必要になる。これは国に強く求めているところ。そして、患者の自宅療養を支援する。自宅療養は不安を抱えることになる。脈拍と血中の酸素の濃度を測る。さまざまな形で自宅療養者を支援する。市町のワクチン接種と、われわれの方のロジスティックス(人、物、情報、資源)をしっかりすることで、なんとか6月中旬には態勢を整え、それでも4つくらいの市町が8月にずれ込む可能性があると言っているので、効率的に円滑に接種ができるようにするというのが、われわれのワクチンに対する考え方。 いずれワクチンは打ち終わる。雨が上がった後、虹が立つように。虹はSDGsのロゴマーク。2010年、尊敬する四本(康久)県議会議員と一緒に富士山に登った。ご来光を仰いでいたら、突然虹が立った。雨も降っていないのに虹が出て驚いた。駿河湾から段々上っていって、富士宮の本宮で止まった。ご来光を浴びて背景に虹を背負っている。富士山にレインボーがかかった。まさにSDGsのロゴマークが富士山にかかっている。「東京時代から静岡時代へ」のマークだが、期せずして一致した。 われわれのSDGs。世界を相手にしている。ヘルス、ウエルネス、カインドネス。ヘルスは和製英語になっていて、みんなが元気になるということ。健康ということ。ウエルネスは豊富。どの地域も、県中部も西部も東部も豊かになるということ。そして、今、バイ・シズオカとかバイ・ふじのくにとかいうように、相手の物を買って、そして自分たちも楽しむということで、そういう経済活動にも思いやりがある。カインドというのは親切なという意味だが、思いやりと言うことじゃないかと思う。みんな元気で、どの地区もそれなりに個性豊かにあって、思いやりのある人々によってつくられていく。そういう地域をつくっていくということを目指す。 私は今まで八つ、末広がりの八つの政策を掲げてきたが、東京時代から静岡時代へ、虹の架け橋をつくろうということでレインボーマニフェストという表現をした。レインボーだから政策は七つ。 何はともあれ、一番大切なのは危機管理。一番優先される。その中でも水の問題、自然の破壊の問題、それが最も象徴的に表れているのが南アルプスのトンネル工事であるリニア。ということから、リニアを(マニフェストの1番に)特出しした。 リニア問題とはどういうものか。基本的にわれわれの問題意識は、命の水の水源になっているのが南アルプス。そして、南アルプスそれ自体がユネスコエコパークで、人類の共有財産。生態系が豊かということ。命の水の水源と、命の水それ自体を守るというのがわれわれの問題意識。どうしたら守れるのか。事業するのはJR東海さんだから、JR東海さんと、本当に命の水はきちんと保全できるのですか、南アルプスの自然環境はきちっと保全できるのですかと、これを言い合うのではなくて、科学的に技術的に工学的にしっかりと対話をするということ。 静岡県では環境保全連絡会議の中に専門部会を設けた。いわゆる生態系、また、地質について2つの専門部会を設けてやってきたが、どうしてもデータが出てこない。そうした中で、国が乗り出してきて、(国の)有識者会議が開かれることになった。 さて、どういう問題があるかというと、私どもは永く、水をきちんと戻してください。トンネルを掘るときに出る水はすべて戻してくださいと言ったら、JR東海が「全量戻します」と約束して、公言して、本当に良かったと相成った。それからしばらくして、そのことを忘れたと思った頃に「戻せません」と突然言った。新聞でも大きく報道された。(さらに)約束違反ではないと(言った)。 JR東海さんは「全量は戻せませんけども、代替案がある」ということで、1回から11回まで、目下のところ、中間取りまとめという形で出ている代替案で、まずはトンネルを掘らしてほしいと。25キロのトンネル。そのうち10キロ余りが静岡県。トンネルを掘って、トンネルにしみ出した水を窯場という水をためるところにため込んで、それをポンプアップして20年余りかけて大井川に戻すという案を出してきた。有識者会議では、そうですか、そういうことなんですね、はい、わかりました、と言われた。座長コメントで出されて、事務局の国土交通省鉄道局がおまとめになった。JR東海のご提案を、国交省さん、有識者会議がそのままお認めになっている。それは問われてしかるべきではないかと思う。 問題は、トンネルを掘ってから返すというが、トンネルを掘るときに出る水はどうするかといったら、出っぱなしですと。トンネル掘るときは下から掘る。上から掘ると、突発湧水が出たときに、そこで働いている人が泥水に埋まってしまう。だから、下から上に掘っていく。水は上から下に流れる。年間、水は300万立方メートルから500万立方メートル出ると。これは出っぱなしで、永久に失われる。これが代替案の中身。300万立方メートルは100メートル四方の正方形で、深さが300メートルの深さのプール。それぐらいの水が失われる、戻ってこない。こう言っている。 後に雨が降ってたまってくる水を戻すので安心してというのが(JR東海の)案。これは安心して任せられる案だろうか。また、トンネルを掘ると水質が変わってくる。JR東海の資料で、300メートル以上地下水は低下すると言われている。そうすると南アルプスの上層の生態系は確実にダメージを受ける。トンネルを掘ると膨大な掘削土が出る。掘削土はどうするかというと、山から持っていくのが大変だから、上流の河原に積み上げると。そこでもし、ヒ素とか重金属、ウランとか出たらどうするのかというと、きちんと処理をしてそこで固めておいておくというのがJRの案。これも掘削中の問題として出てくる。最後に、もし被害が出た場合、被害者がトンネルを掘ったせいだと証明しないといけない。被害者が証明しないと補償されない。そんなことは不可能。泣き寝入りすることになる。 なにも水の問題、生態系だけの問題ではない。危機というのは。専門病院、新しく藤枝に環境衛生研究所ができた。素晴らしい施設。世界トップクラスの遺伝研が三島にある。これを活用しながら、感染者を治療するための感染症専門病院をつくれないかということを病院業界や、さまざまな団体が言っているので、国と連携して進めたいと思う。 コロナが起こるまでの静岡県の最大の危機というのは、南海トラフの巨大地震。何もしなければ10万人近くが犠牲になる。われわれは2013年から計画的に津波対策などをやってきて、今は7割近くが大丈夫と言うことになっている。しかし、想定犠牲者数をゼロにするのが目標。それから社会資本。例えば、水道管などは老朽化している。長寿命化していく。新規更新しなくても長持ちされるということで社会資本を維持させる。 そして、今一番関心があるのは医療だと思うが、静岡県は人口当たりの医者が少ない。私は当初から気付いていたが、そこで「バーチャルメディカルカレッジ」というのをつくった。学長はノーベル(医学生理学)賞を受賞した本庶佑先生。そこで、医学を学ぶ6年間、奨学金を差し上げるから、9年間静岡県で働いてもらう。その方の数が520人くらいになる。カレッジを通じて医者がだんだん増えてきているのが静岡県の現状。 だれもが生老病死、老いて病弱になる。そういうことがないようにしようということで、フレイル(虚弱)の予防。「ふじ33(さんさん)プログラム」を展開している。食生活の改善や社会参加、運動などを提案する。問題になっている認知症に対する理解も深めなくてはいけない。 それから、スポーツ。スポーツと医療は連動している。スポーツ医療を推進する。スポーツ大国にしようということと関わっている。静岡県は医薬品と医療器具の年間生産額が1兆円規模。最新の数字で1兆2千億円。ダントツの日本一。1兆2千億円もの健康産業を持っている。それに山梨県の(医療機器産業の基幹産業化を目指す)「メディカル・デバイス・コリドー」というのがあるから、富士山を行き来して、ふじのくにを健康地域にしていく。さらに発展していくことになるだろう。これによって、物が動き、医者も徐々に増やしていく。 そして、なんといっても人が一番大事。教育が大事。4月から萩生田(光一)文部科学大臣が35人学級をつくるといったが、私たちはすでに終わっている。35人以下学級は達成し、終えている。これを充実させていく。一方で、高校に行くと突然35人以下ではなく40人にしなさいとなる。これが(高校の)統合を進める要因の一つになっている。 これに対して、静岡県では総合教育会議に出るわけですが、自治体の長は、教育委員会に出席しなくちゃならない。私の指示が入らないように、6年ぐらいずーとやってきた。意見を教育委員会に持ってって、それを実現していく。これが、県立高校の統合のあり方について問題提起している。県立高校はオンリーワン、またはプロフェッショナルな高校をつくっていこうと。実学。学力だけでなく、オリンピックの精神では肉体、意思、そして知性、この3つのバランスのとれた人間をつくろうといっている。これを入れ込んだ形で、15歳以上ですから、いろいろな意味で自分たちが社会に役立つような実学を重視していく。 いろんな支障を持って生まれて、育ってくる子どもたちがいるから、その子たちが自立できるように特別支援教育を充実させる。通級指導というのは、通常の学級で、障害がある子を特別に指導して、障害がある子も普通の子も共存していく。学校レベルでつくっていくというのが通級指導。また、静岡県には128カ国もの国籍の人がいる。その人たちが一番困るのは言葉。今まで夜間中学といっていたが、アメリカでは「ナイトスクールプログラム」といっているが、これを設置し、日本文化の学習に役立てていく。 産業。先端技術を取り込んだグリーンイノベーションを巻き起こす。グリーンイノベーションをしながら、第一次産業のルネッサンスを図っていく。産業というのはあるときには、紡績、造船、自動車というように、ある産業がほかの部門を引っ張っていく。リーディング産業がある。これからの時代、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、ICTというのは確実に伸びる。われわれは県庁にデジタル局を設置して推進している。 脱酸素社会。静岡県は2050年までに達成すると県議会で明言した。そのためには二酸化炭素(CO2)を最も出す輸送機械をEV化(電気自動車化)しないといけない。県西部中心に、さまざまな試みをしている。例えば、外国から電気自動車を買ってきて分解して、どの部品が使えるかなど、次世代自動車の発展を支えていこうと思っている。 医療産業については、静岡県は医療産業のトップを走っている。しかし日本全体でみると、医薬品医療器具は4兆円の(貿易)赤字。赤字産業。これを国産化するために静岡県が引っ張っていく。 プラスチックの問題がある。CNF、セルロースナノファイバーという素材がある。鉄より5分の1軽くて5倍強いものがつくれる。富士市を中心に製造しているが、普及させることで社会が変わっていく。こうした新素材を見つけていきながら新しい産業に活用していく。 (環境を汚染しない)ゼロ・エミッションを図っていく。地球環境に優しいSDGsの基本的な考え方。推進している企業を優先的に誘致していく。サーキュラーエコノミー(環境経済)型の企業誘致を推め、新素材の活用を後押しする。頭のいい人がいて、構想はすごいけど金がないベンチャー企業と、県内企業をつなぐ「テックビートシズオカ」を継続していく。 なんといっても暮らし。子育て環境の充実と健康。10年余りの間に、市町の協力を賜って高校生まで医療費無料にした。これは継続する。しっかりと子どもが独り立ちするまで、病気、けがなどに対してできる限りの公的な医療をしていく。 女性の活躍の場を作り上げていく。働きがいのある産業は特別に優遇していく。今も子育てを大事にしている会社を表彰したりしている。 そして、健康長寿づくり。ダイバーシティ。多様性。インクルージョン。来る者を拒みませんよと。どなたも差別されない。障害者だけでない。LGBTという方たちもそれぞれ個性に応じた形で、かけがえのない存在ですということ。肌の色、宗教とか、それによって争うことは静岡県ではやらない。これがダイバーシティ。国際連合に対して発信している基本的コンセプト。 ラグビーワールドカップは(日本代表が強豪アイルランドに勝利した)「静岡ショック」で見事に成功した。静岡県で東京五輪の自転車競技が開かれる。これを契機にサイクルスポーツのメッカ作りを本格化する。県西部では、遠州灘海浜公園篠原地区で、市長さん、経済界、自治体のすべての方が野球場がほしいと言っている。草薙球場よりも立派な、勝るとも劣らないプロ野球に使用可能な野球場構想を持っている。それを皆さんとご相談しながら着実に進めていきたいと思っている。 高規格道路や港湾を整備していく必要がある。中部横断自動車道もそう。最近整備された国道138号線で山梨から静岡に簡単に来られるようになった。こうした高規格道路、静岡空港と新東名高速道を結ぶ連絡線。まだいくつかミッシングリンク(未整備区間)がある。こうしたものをしっかり整備し、人々がフェイスツゥーフェイスで交流できるよう観光産業につなげていく。 新しく、東京時代から、SDGsのモデル県となるべく静岡時代と。これは実は山梨県も入っているイメージだが、さしあたって静岡が移住希望1位になったから、あえて静岡時代とした。 ■質疑応答―県政最大の課題は何か。 「目下の課題はコロナ。命を守るというのは一番大切な仕事。命の元は水。命の水が危機にさらされている。それから、開催がどうかと国民の間で大きな議論になっているオリンピックパラパラリンピック。6月23日から万全の準備を整えて静岡県で聖火リレーをしていく。聖火リレーと自転車競技、どういう状況になろうと、われわれはきっちり準備し、継続していくのが大事。同じ時期に新型コロナウイルスワクチン接種を県と市町が協力してやっていく。(大井川の水資源に関する国の有識者会議の)中間取りまとめは、いきなり、これで大丈夫ですとそんな結論を大臣閣下がいわれたらたまらない。困りますと。この三つ(コロナ、大井川、東京五輪・パラリンピック)の問題は大きい」―以前、選挙活動は行わず、公務に専念すると言っていたが、どのように政策を訴えていくのか。 「このようにきょう記者会見を開いた。密を避ける対策が取られている。こうした形でいいから(政策を)聞きたいとおっしゃったときは拒む理由はない。6月3日から19日まで(の選挙期間中)は、訴える中身を聞きたいという方にノーとはいえない。1日、2日前、事務所で、オンラインでウェブ会議をやりたいという方もいて、小一時間、意見交換した。コロナ禍でもできる限りのことをして、選挙活動がクラスターとか感染に結びつくことはあってはならないという基本的な考え方で、できる限りは、この七つのレインボーマニフェストを訴えていきたい。世界の静岡になるべき時期ですよと。旧来の東京時代から新しい時代への幕開け。これを今、われわれは待っていると。間もなく、虹が立つように静岡時代の幕が開ける。しっかりと皆様にお伝えしたい」―投開票まで1カ月を切った。政策発表がこのタイミングになった理由は。 「4月のはじめに臨時議会があった。補正を69億円組んだ。観光関係者を援助するため。しかし、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が出て使えなくなった。そうした中で、300億円余りの大型予算が5月に組まれることになった。これは前代未聞。5月20日に無事(議会を)通った。今執行する段階。中身は、山梨県が始めたグリーン認証を静岡版にして、飲食店がこれを手に入れると優遇措置が取られる。優遇措置にかかるお金は80億円を超えている。換気扇を変えるとか、CO2をしっかり計るとか。そうしたものに(補助金が)使える。これを組む予算を先週の末にようやく通した。今はこれを執行する段階。早速週明け、ワンクッションというか、訴えるときがきたということ」ーリニアについて、トンネルを掘る前に対話することで解決策を見いだすという姿勢か。 「水の量、水質、生態系、土捨て場、監視というのもあるが、このうち流量だけについて暫定的な結論が出つつある。対話の結果出てきたもの。ただし議事録がない。全文公開されていないから正確に議論されたか分からない。暫定的結論は、掘ってから、トンネルからしみ出してくる水を返すもの。これは果たしてオーケー、青信号出せるようなものか。私は、限りなく赤信号に近い黄色だと。赤信号を青信号だというような取りまとめが今進んでいる。これはかなり厳しいなと思う。次に水質の問題が出てくる。単に量を戻すといっても、温度が違うと生息している生物がいられなくなるかもしれない。富士川のように生物が死に絶える。そして、河口の駿河湾が汚れる。水質の問題は極めて大きい。トンネルを掘れば、確実に水がなくなる。300万~500万立方メートルは流しっぱなしで返さない。山梨県だけで。長野県側も入れると500万立方メートル以上の水が永久に失われる、という案。これをOKといえるかどうか。ぜひ問題として生態系、水質、土捨て場というのは対策を必要とする。水に流れると人体に生物に影響を与えると。そうしたものを積み上げるわけにはいかない。それを河川敷に積み上げるのが今の案。さしあたって予想されるのは、極めて高い工学的、技術的なレベルが必要とされるということ。それが今の南アルプストンネル工事に関わる現状。さしあたって対話を続けるしかない。流量については暫定的な取りまとめ。(最終的な)取りまとめはどうやるか極めて重要。(JR東海は)水を守るとおっしゃるけれど、果たしてそれで守れるのか。20年後に水道水が少なくなったり、節水制限を多くしたりとか(になったら)、そうした状態はほとんど赤に近いと思っている。ともあれ、これは対話によって明らかになった。次は水質、生態系、土捨て場の管理、全体の監視体制について対話する。順次47項目ある。科学的、技術的、工学的なエビデンスに基づいて議論する。その態度は変わらない」―浜岡原発に関して。2050年までの脱炭素社会実現を掲げたが、原子力の活用は念頭にないのか。原子力規制委員会の審査に合格した後、乾式貯蔵施設がいっぱいになるまでの間の運転は検討の価値があるととらえているか。住民投票の是非は。2013年の知事選時、住民投票はやるべきだと掲げたが、その後数年間は住民投票のことを言っていない。再稼働(を判断する)際は住民投票をやるか。 「これは従来おっしゃられる通り。浜岡原発の現況というのは全部明らかになっている。静岡県は原子力学術会議というのを設置し、オープンで議論している。そうした中で、浜岡は、中部電力が安全基準を充足するのに4000億円あまりを使ってやっている。18メートルの防潮壁も22メートルに上げた。それでも津波の高さに対して不十分という議論もある。再稼働を考える状況にない。しかし一方で、この10年余り、浜岡を研究対象にして毎年10件くらい、公募で研究成果を発表している。廃炉に関わる研究が出てきている。廃炉技術でブレークスルー(障壁突破)ができれば、世界のどの原発もいずれ廃炉を迎えるわけで、そのときに役に立つ。さしあたって、(原発停止から)10年たって、電力が不足していることはなくて、節電あるいは自然再生エネルギーで賄えている。原子力を再稼働するという動きもない。ただ、いわゆる使用済み核燃料をどうするかと、もともとは六ケ所村でMOXにして再利用する案が、今は半永久的に中断している。だから、乾式貯蔵というのも一つの方法。自然の風で冷やすもの。場所があればそれをなさればいい。しかし、再稼働のためのものではない。中電さんが浜岡を再稼働させるという動きをされたとは全くみていない。燃料棒というのは、定期点検、入れ替えという作業がある。90%は容量が埋まっているので難しい。住民投票するまでもなく、世論調査で圧倒的に再稼働反対という方が多い。10年目ということで、各社が世論調査し民意はかなり正確に出ている」―田辺信宏静岡市長は川勝知事について「批判ばかりの方とは連携できない」と発言した。静岡商工会議所の酒井公夫会頭は「国とのパイプがある人に(知事に)なってほしい」と言った。静岡市行政、経済界からの発言をどうとらえるか。 「全国に政令指定都市は20あり、大半が県庁所在地に政令市が重なっている。昭和22年から二重行政を解消するためのさまざまな工夫がなされている。市政は非常に難しい。大阪都構想というのは、二重行政を解消するために政治の世界に入った。今、名古屋市と愛知県の関係も難しい。同じような問題は神奈川県と横浜市にもある。建前はともかく、政令市と県庁の所在地が同じというのは船頭が一つの船に2人いるようなもの。うまくいかない。信頼関係が大事だが、信頼関係が失われているのは誠に残念に思っている」―キャッチフレーズで「東京時代から静岡時代へ」と掲げた。現実には静岡県は転出超過の状況。どう分析しているのか。移住などについて数値目標はあるか。 「私も国土計画に携わり、地方創生、地域を自立させるための構想が出されている。しかし、東京一極集中が止まらない。FDAさんなどは東京と結ばないことによって地域間の連携を強くするという哲学。私もまったく同じ感覚。今日本の若者が大勢東京にいるが、コロナによって、大きくパラダイムシフト、意識の変化が急激に起こっている。だから、きれいな空気がある、体を動かせる、スポーツができる、おいしい食べ物がある、安心し手子どもが育てられるということを考えると、東京が果たしてふさわしいかと。私どもは『30歳になったら静岡県へ』というのを数年前に始めた。直近で静岡県に移住してきた千人以上の7、8割が30歳前後。流れが変わりつつあり、コロナの災いが今、1都3県に集中している中、本県は(感染者が)7千人と全体の1%。どうしてこれができるのか。安全だから。(人の)流れは変わるとみている。そしてもう一つ。外国の方の流入が増えている。われわれは意識して、19カ国で災害対応できるサービスを提供している。こうしたことが、外国の人たちにとって住みよい、差別されない、子どもを大事にしてくれるということで人口が増えていると思う。今10万人以上。コロナが収束するとさらに加速するだろう。若者もオンラインなどが整備されると、大学と行き来が簡単にできる。選ばれる県に確実になっているという認識を持っている。外国人は人口の1割くらい、36万人くらいになる。10人に1人くらいが外国人。静岡県庁にもモンゴル、アメリカ、中国、韓国の方が正規職員として働いている。多様性、ダイバーシティのシンボルとして、SDGsのモデル県として外国の方を大事にしたい」ーリニア問題について争点隠しだと言われている人もいる。立候補予定者2人の主張の違いが分かりにくいことについてどう考えるか。 「どなたも水を守るというのは当然。地域住民の理解を得るのは当然。わざわざ言うべきようなことではない。どのようにすれば水を守れるのかということ。JR東海は全量は戻せない、掘った後に戻すと。この戻し方がそのまま追認されたのが有識者会議。その取りまとめを座長さんと一緒にされているのが国交省鉄道局。この見方に対して、いくつも問題がある。JR東海さん、国交省さん、有識者会議。ほとんど同じ顔のように見える。今後、水質や生態系が議論されるが、最初の今回の取りまとめにおいて、この戻し方で命の水を守るというには、普通の方だとクエスチョンマークが出る。しかし、有識者会議、国交省鉄道局は『これでオーケー』とゴーサインを出している」ートヨタが裾野市で進めるウーブン・シティとの連携をどう進めていくか。また、メガソーラーについて、函南町や伊東市などで大きな問題になった。考えは。 「ウーブン・シティについて、特区にしたらどうですかという考えを差し上げたことがあるが、(トヨタ側は)まったくご関心がない。自分たちが実証実験していく都市だと。私はこの実証実験を非常に重視している。ここに最終的に2千人くらい住む。公用語は英語にすると。そうすると、教育はどうするのか、医療はどうなるのか。国籍、食べ物、ハラールのこととか、うちは日本一食材が多い県なので、それに対する偏見はまったくない。一番大きいのは教育。対話する時が来ると思う。こうした事柄は、ウーブン・シティにお住まいになる方が、安心してお子さんの教育を受けられるようになる方向で、全面的に協力したい。すなわち、ウーブン・シティは大輪の花。素晴らしい絵。額縁がいるし、絵を掛ける壁とか部屋とか周りの部分が必要。これを私はつくる。裾野市と一緒にウーブン・シティの進ちょく具合を見ながらつくっていく。二つ目の質問は極めて重要。伊東の問題は、実は、メガソーラーの問題であると同時に、八幡野の川が汚れるに違いないという問題。メガソーラーが設置される場所と漁場が2、3キロしか離れていない。そんなところで森を壊されれば、漁場がだめになる。だから反対される。地域住民の意向を大事にしなければならないという判決が出た。もっともな判決だ。下田はどうか。巨大なメガソーラーをつくる計画で漁民が反対している。水を汚すから。いずれも水の問題。栄養分のある川が海に注ぐことでプランクトンが発生し、魚介類が育つ。そういう仕組み。森は海の恋人。大井川、富士川、あるいは小さな河川とはいえ、基本的に水が汚れると命が危うくなる。21世紀は環境と生命の世紀。シンボリックに表れているのが大井川、南アルプスの問題。駿河湾が汚れる。狩野川、富士川、全部駿河湾に流れている。海を汚してはならない。相模湾もそう。メガソーラーについて私は基本的には反対。ただ、森林法というのがあって、森林を開発するような法律。だから、止めるのがなかなか難しい。地元の人が非常に苦労している。地元の理解が得られないまま進められているようなことがあれば、この間の伊東の判決が大きな意味を持ってくると思っている」―リニアの話に戻るが、知事が舌鋒(ぜっぽう)鋭すぎるというか、全国的にも、県民からも、ごねているという印象が出ている課題があると思う。自身のエゴともとられかねない状況をどのように思っているか。 「そうですね、言い方というのはいろいろあると思うが、静岡県はリニアの対策本部をつくり、そこでデータが上がり議論している。それをまた、地元の人に投げ返している。キャッチボールの中で『ここで工事させてほしい』『ここにヤードをつくりたい』と言われ、何を言っているんですかと厳しく言っていることがあるが、これはエゴではなく、皆さんの声を代弁している。いかに厳しい声を皆さんが挙げているかということ。例えば、流量が減っても後から戻すと言っているが、そもそも水が不足して、過去10年のうち6年くらいは渇水年といわれる年で、しょっちゅう節水をお願いしている。こういう水不足が常態化していることを本当に分かっているのかと。間違っていることを、なあなあで済ますのが対話ではない。はっきりと間違っていることは間違っていると。ただし、それが自分の利益につながっているようなことであれば、それはエゴといってもいいかもしれない。しかし、私の利害関係は皆無。だから、万機公論に決するということで。原点は、和をもって貴しとなすという聖徳太子の十七条憲法の第1条だと思いますが、広く会議を起こして万機公論に決する。事業者からの数字に対して「あなた、何を言っているんですか」というと厳しいご批判があったりする。それは、相手にけちをつけるためではなくて、正論を言って、間違ったことを言っていることをただす。相手を傷つける(ような発言をする)こともあったかもしれない。ただ、相手は役職と権限を持っている。実行する能力も持っている。それを、権限で、力で、ごり押しで来られると抵抗していかないといけない。だから、力を浴びているから、作用に対して反作用が出てくるとご理解いただきたい。最近の県庁の調査によると、いわゆる川勝はごねている、あるいは国策だから(リニア工事に)賛成というのは3割。むしろこれは大問題だといってるのが6割。したがって(私の姿勢は)県民全体の意見、県民の多数の意見になりつつある。頑張っているかいがある。(JR東海側は)立ち止まって1回考えるという姿勢は皆無。国交省、有識者会議はトンネルを掘ってから水を戻すから、受け止めろという態度。それは間違っているのではないか」―対立候補の岩井茂樹氏は、自分は国や各市町と対話ができるのが強みと言っている。川勝氏の一番の強みはどういったことだと思うか。 「万機公論に決するということ。個人で対話できる力を持っている。国土審議会や首相の諮問委員会などもしたし、国とのパイプはたくさんある。鉄道局とのパイプはなかったが。しかしながら、他のパイプはたくさんある。私たちは専門部会を設け、また、全部公開している。鉄道局はこれを決してOKしなかった。対立候補の方は鉄道局所管の副大臣をしていた。対話というのは1+1を半分にすることではない。平均を取ることではない。こちらは、多くの人の命と産業、また声なき声、南アルプスの生命の声を代弁している。そういう声が届いてなければ、相当強く言わなければならない。繰り返し、繰り返し言わなければならない。国は大きな力を持っている。国策事業なら、なおさら。そういうすごい力を相手にするときはみんながまとまらなくてはならない。1人の力では何もできない。そういう意味での対話というのは、みんなの声を代弁するということにおいて、自らを律している。それが広く会議を起こし、万機公論に決するということ」