意見わかれる福島の処理水放出の「安全性」 その議論の構図

Keiya Nakahara / BuzzFeed

 意見わかれる福島の処理水放出の「安全性」 その議論の構図

福島第一原発で、原子炉内の溶け落ちた核燃料を冷却するために水をかけることなどで生まれ続ける、高濃度の放射性物質を含む「汚染水」。そこから放射性物質を取り除く処理を施した「処理水」をどう処分するかという議論が、大詰めを迎えている。【BuzzFeed Japan / 瀬谷 健介】経産省は2019年12月23日、処理水の処分方法を検討する有識者会議に、放射性物質の除去処理を再度行い、薄めて安全基準を満たしたうえで1)海洋に放出する2)蒸気にして大気に放出する3)その両方の併用という、3案を示した。国はいずれの案でも「安全性に問題はない」としている。中でも、コストや先行実績などから最有力視されているのが、海洋への放出だ。これに対し、福島県漁連は「国や東電が風評被害などへの対策をきちんと取らない限り、放出は認められない」という立場だ。それは、処理水の放出への科学的な安全性よりも、むしろ福島県産の海産物の安全性を巡る消費者の理解が進まないうちに放出が決まってイメージが悪化し、ようやく上向きかけてきた水揚げと売り上げが落ち込むこと、つまり風評被害が起きることへの懸念に根ざしている。一方で放出には、環境団体などから風評被害への懸念とは異なる立場での強い反対論が出ている。どこに問題を感じるのか。それに対し、国や専門家はどう反論しているのか。処理水放出の安全性を巡る議論の構図を紹介する。

国側が示している方向性は

Keiya Nakahara / BuzzFeed

議論の前提となるのは、処理水の現状と、その処分を巡り国が示している方向性だ。処理水はすべて、原発敷地内に置かれたタンクで保管されている。19年12月12日現在、福島第一原発の敷地内に並ぶタンク991基のほとんどに処理水が入っている。国や東電は、このままでは2022年夏頃にタンクが満杯になるとしている。タンクをさらに増設して処理水の貯蔵を続けることは「用地確保の観点などからも現実的ではない」としたうえで、貯め続けてきた処理水の処分方法を検討してきた。汚染水はそのままでは危険なため、「多核種除去設備(ALPS)」などの浄化設備を通している。ただし、「トリチウム」という放射性物質は、ALPSの能力では取り除くことができない。トリチウムは水素の仲間(同位体)で、核実験や原発の稼働によって人工的に発生するほか、宇宙線の影響で自然界でも常に生成されている。そして、酸素と結びつき、水とほぼ同じ性質の「トリチウム水」となる。それが海や川、雨水、水道水、大気中の水蒸気に含まれ、人間は普段から体内に取り込んでいるという。