【日本も例外じゃない】21世紀の地球規模の課題「水問題」のいま
「水なくして国家なし」――水ビジネスの気運が国際情勢に影響する
ここで世界における水ビジネスの事例に目を向けてみよう。
たとえば、先ほど例に挙げた台湾は、2020年度の半導体輸出額が過去最高の約36兆円を記録し、国・地域で見た半導体の生産能力が世界トップである。半導体産業には清浄な超純水が豊富に必要である。しかし、気候変動の影響で水資源が不足したことにより、世界の半導体需要を満たせない状態に陥っている。
台湾経済部は、行政府を挙げて半導体産業を維持するため、海水淡水化や節水率の引き上げなど、その関連対策費として約51億円を計上したことを明らかにしている。これは水資源の問題が、台湾域内の経済に直結するのみならず、世界経済に影響を及ぼす典型的な例である。
このように、世界の水ビジネスの動向は、国民の生活のみならず国際情勢に影響する可能性があるため、世界的にも大きく注目を集めているという。
「世界巨大水企業(ウォーターバロン)といえば主に水の処理事業を行う、フランスのヴェオリア社、同じくフランスのスエズ社、イギリスのテムズウォーター社などが挙げられます。2020年、ヴェオリア社が同国スエズ社に敵対的買収を仕掛けたというニュースが流れ、水業界を大きく驚かせました。フランス大統領はこれを歓迎しましたが、同国の経済大臣は、水道事業が1社で独占されると、料金の値上げやサービスの低下を招くとして反対の立場を表明しています。
2021年3月まで、独占禁止法などに違反するとしてパリの裁判所で係争中でしたが、2021年4月初めに両者の合併が報じられ、世界最大の水企業が誕生します。その他、各国のインフラ投資銀行や投資ファンドも豊富な資金源を武器に、世界の水市場を狙っています」
第二次世界大戦後から1960年代にかけては、国際石油資本と総称され石油の生産をほぼ独占状態に置いた7社が、世界経済に大きな影響を与えた。1995年、当時の世界銀行の副総裁は「20世紀の戦争が石油をめぐって戦われたとすれば、21世紀は水をめぐる争いの世紀になるだろう」と警告したという。水ビジネスの気運が、世界経済に一石を投じる可能性は想像できる。