原発処理水、海洋放出で高まる漁業者の懸念 風評被害が深刻に、地元漁業に壊滅的な影響か
東京電力の福島第1原子力発電所事故で発生した放射性物質トリチウムが残留する処理水の処分をめぐり、10月27日とみられていた関係閣僚会議の開催は見送られた。
廃炉・汚染水対策の取りまとめに当たる梶山弘志経済産業相は23日、「(処分方針の決定までに残された)時間は限られている」と述べ、遠くない時期に方針を決定する考えを示した。原発の敷地内では多核種除去設備(ALPS)で浄化処理された水がタンクに貯蔵されているが、タンクを増設できる場所に制約があるというのがその理由だ。
だが、経済産業省の有識者委員会報告書で「現実的な選択肢」とされたALPS処理水の海洋放出は、水産業関係者の反対が強く、有効な風評被害の防止策が見当たらないのが実情だ。反対を押し切ってALPS処理水の海洋放出が実施されれば、「(福島県のみならず)日本の漁業に壊滅的な影響を与えかねない」(岸宏・全国漁業協同組合連合会会長)と危惧されている。
復興意欲をそぐALPS処理水の放出
「ALPS処理水を流したら、消費者は魚を食べないと思うよ。それが何よりも困るんだ。いちばん影響のあるわれわれにきちんと説明しないのはおかしいんじゃないか」
福島県新地町の漁師、小野春雄さん(68歳)は、国による説明不足を問題視する。ALPS処理水を希釈して海洋に放出する案が示されて以降、小野さんが所属する相馬双葉漁業協同組合でも国の説明会が開催された。
だが、「新地町の漁師約50人のうちで出席したのは5人程度。周知が不十分で、新型コロナウイルスも流行していた時期だったので、あまり集まらなかった」と小野さんは振り返る。
原発事故翌年の2012年6月以来、福島県では「試験操業」と呼ばれる漁業が続けられている。試験操業では、対象となる魚種や操業海域、漁法、操業期間、操業時間などが漁業関係者の合意によって決められている。獲れた魚介類にはモニタリング検査を実施し、放射性物質の値が自主基準値以下など、安全が確認された魚種に限って出荷されている。
しかし、販売先の需要回復の状況を見極めながらの取り組みであることから、福島県内3漁協の沿岸漁業の2019年の水揚げ高は原発事故前の14%、3640トンにとどまっている。
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