「エコ軍艦」続々 イギリスが進める“海軍の環境対応”最前線 船内の生活環境にも徹底
船舶の環境規制に対応した「軍艦」英に登場
イギリス海軍の哨戒艦「Tamar」(画像:イギリス海軍)。
船舶の運航によってもたらされる大気と海洋の汚染を防ぐため、海運業界では環境に配慮した船型の開発や舶用機器の導入が進められているが、軍艦でも同様の動きがある。【写真】イギリスらしい? 動物を守る海軍の環境保護活動とは イギリス海軍は商船分野で先行している環境規制に適合した艦艇の新造整備に取り組んでおり、2020年にはNOx(窒素酸化物)の排出を大幅に削減する舶用SCR(選択的触媒還元法)システムなどを搭載するリバー級哨戒艦「Tamar」と「Spey」を竣工させた。建造中の26型(シティ級)フリゲートでは省エネ技術を活用したGHG(温室効果ガス)の排出削減など、さらなる環境性能の向上を図っている。
国際的なNOx規制に適合した艦
国際海事機関(IMO)はMARPOL(海上汚染防止)条約に基づき、光化学スモッグや酸性雨、オゾン層破壊の原因であり、人体や植物に悪影響をもたらすNOxの排出規制を実施している。IMOによるNOx 3次規制(ティア3)では、排出規制海域(ECA)を対象に2000年比で80%の排出削減を要求しており、2016年には北米の指定海域で、2021年には北海とバルト海で規制が適用された。 前出したイギリス海軍の「Tamar」と「Spey」は2隻ともに舶用SCRを搭載し、IMOのNOxティア3に適合している。舶用SCRは、NOxを含んだ排気ガスに尿素水を噴霧し、脱硝触媒を通過させることでNOxを無害な窒素と水に分解するシステムで、NOxの排出量を最大97%削減する。このため2隻は、常駐展開するインド・アジア太平洋地域で、北米ECAのような最も厳しい環境規制を遵守しながら運用できる。 さらに船内のタンクに有害な水生生物や病原体、外来種を持ち込み寄港地で排出するのを防ぐため、バラスト水はUV(紫外線)照射方式のバラスト水処理装置(BWMS)で殺菌。船内のトイレで出るし尿は、バクテリアによって分解され、安全な水として海に排出される。
新造フリゲートでも環境対策
建造中の26型フリゲート(画像:イギリス海軍)。
建造中の26型フリゲートではNOxなどの対策に加えて、環境に優しい防汚塗料を採用。船底への海洋生物の付着を防ぎ、水の抵抗を減らすことで、燃料消費量の削減やCO2(二酸化炭素)排出の削減につなげる。船体は流体力学的な設計によって可能な限り滑らかになっており、艦尾に付加物「スターンフラップ」を装着することで、余分な力を必要とせずに速度を1ノット増やすことができるようになっている。 艦内の照明は蛍光灯ではなく、長持ちするLED照明を使用するほか冷蔵庫の冷却には地球温暖化係数(GWP)が低い冷媒を使用し、生活排水もより高い基準で処理を行う。また、26型フリゲートの主な任務である潜水艦の探知を考慮しつつ、作業によって生じる海洋生物へのリスクを乗組員が評価するシステムも搭載している。 26型フリゲートは8番艦まで計画されており、現在BAEシステムズのガバン・ヤード(スコットランド)で、1番艦「Glasgow」、2番艦「Cardiff」、3番艦「Belfast」の建造が進んでいる。
ペンギンを守る軍
英国海軍は、基地周辺の清掃活動から太平洋の島々に蓄積されたプラスチックのモニタリング、持続可能な漁業資源の管理といった、環境保護に関する活動に取り組んでいる。2021年には砕氷艦「Protector」を使用した、サウスサンドウィッチ諸島におけるペンギンの個体数と気候変動に関する国際研究の支援を実施した。「Protector」は英オックスフォード大学動物学部と米国の科学・教育団体Oceanitesによる研究者の輸送だけでなく、南極海域の科学的データを収集し、船員が使用する海図の作成などを行っている。2022年4月まで南極地域に留まる予定だ。
深水千翔(海事ライター)