プラズマ処理の基礎知識
プラズマ処理について理解するためには、まずプラズマとはどんなもので、どんな特徴を有するのかを知ることがその第一歩となります。本連載では、全6回にわたり、プラズマ処理の基礎知識を解説します。第1回は、プラズマの基本概念と、その中で起こっている荷電粒子と分子との衝突、応用上重要な弱電離プラズマの特長である電子の衝突反応、その結果起こる電子温度だけが異常に高くなる非平衡プラズマの実現について解説します。
もくじ
第1回:プラズマの種類と特徴
ジェネラルエレクトリック(GE)研究所で、グロー放電と呼ばれる低ガス圧放電(蛍光灯を思い浮かべてください)の研究に没頭していたアメリカの化学者・物理学者であるアーヴィング ラングミュア(Irving Langmuir)は、1928年に発表した論文で、その均一に光っている物体をプラズマ(Plasma)と名付けました。ちなみに、ラングミュアはプラズマだけでなく、いくつかの異なる分野で画期的な成果を上げたスーパーマン的な研究者で、1932年には表面科学の分野でノーベル化学賞を受賞しています。また、彼の行った基礎研究はGEのビジネスに見事に貢献し、企業研究者のお手本ともいえる人物です。ラングミュアの業績について、調べてみることを是非ともお勧めします。
さて、プラズマと名付けられた物質はどんなものなのでしょうか。昔、理科の授業で「物質の三態」という言葉を聞いたことがあると思います。水(H2O)を例に取ると、1気圧の下で0℃以下のときは固体(氷)に、これを加熱していくと液体に、さらに加熱すると100℃以上で気体(水蒸気)になり、これを物質の三態と呼びます。
では、ここからさらに加熱を続けると、どうなるでしょうか。H2O分子は……
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プラズマ処理を考える上で、電子衝突による分子の解離反応は特に重要です。例えば、最も単純な水素分子(H2)の場合、これが解離反応により2つの水素原子(H)に分解されます。水素原子には未結合手があるため反応性は非常に高く、このような原子(分子の場合もある)をラジカル、またはフリーラジカル(遊離基)と呼びます。こうしたラジカルが、プラズマを用いた材料処理で重要な役割を果たします。
プラズマは、その電離度(中性分子、原子に対するイオンの密度比)により、性質が異なります。プラズマ処理には、電離度の低い(通常、1万分の1以下)弱電離プラズマを用いるのが一般的です。その場合、電子やイオンが衝突する相手としては中性の分子、原子を考えれば十分であり、荷電粒子同士の衝突は無視できます。衝突反応の中でも特に重要なのは、電子と中性原子、分子との衝突です。十分な運動エネルギーを持った電子eが原子Xに衝突すると、ある確率で原子から電子を弾き飛ばす電離反応が起こります。
e(高速)+ X → e(低速)+ X++ e
また、分子(仮に、二原子分子XYとする)に電子が衝突すると、……
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プラズマは電子、イオン、中性分子(原子も含む)で構成され、それらはランダムな熱運動をしています。粒子は、近似的にはマクスウェルの速度分布(熱力学的平衡状態において、気体分子の速度が従う分布関数)で決まるさまざまな速度を持ち、それらの粒子の平均運動エネルギーの大きさの指標は温度で規定されます。
平衡プラズマとは、電子温度とイオンや原子の温度が熱平衡状態、すなわち同じである状態を指します。電子、イオン、中性分子の温度をそれぞれTe、Ti、Tgで表すと、熱平衡状態にある平衡プラズマでは、Te=Ti=Tgです。
非平衡プラズマは、電子温度がイオンと原子の温度よりも高い状態を指します。プラズマ処理で一般的に用いられる弱電離プラズマでは、Te≫Ti≒Tgとなっています。例えば、蛍光灯のようなグロー放電では、放電管に触れても分かるように、TiやTgは室温より多少高い程度にもかかわらず、電子温度Teは数万度にも達します。
図2に、水素分子H2、窒素分子N2、酸素分子O2のガスにおける円筒放電管内のプラズマ部の電子温度と、pR(p:ガス圧、R:放電管の半径)の関係を示します。ここで、ガス圧の単位Torrは1Torr=1/760気圧、電子ボルト(eV)で表した電子温度は1eV=11,600Kに相当します。pR=1(Torr cm)(ガス圧1/760気圧で放電管の半径1cmの場合など)では、電子温度は約2万度になります。
図2:H2、N2、O2ガスにおける円筒放電管内のプラズマ部の電子温度と、pR(p:ガス圧、R:放電管の半径)の関係(参考:市川幸美他、プラズマ半導体プロセス工学、内田老鶴圃、2003年、P.20)なぜこのような状態が実現されるのかを、簡単に説明します。それは、イオンと電子の質量の差に起因します。質量m1の剛体球1が、質量m2の静止している剛体球2に衝突する、古典的な弾性衝突モデルを考えてみましょう。衝突には、正面衝突からかすかに触れ合う程度のものまで、さまざまな場合があります。1回の衝突で剛体球1が失うエネルギーの平均値を求め、それと衝突前の運動エネルギーとの比率を衝突損失係数fと定義すると、結果は次式のようになります。
電子と中性分子の衝突の場合には、電子の質量が中性分子の質量に比べてはるかに小さい(数千分の1以下)ため、上式はf=2m1/m2となり、1回の衝突で、電子は持っているエネルギーの数千から数十万分の1のエネルギーを失うだけです。それに対し、イオンの場合にはその質量は中性分子とほぼ同じであるため、上式はf=1/2となり、1回の衝突でほぼ半分のエネルギーを中性分子に与えることになります。
一方、プラズマ中に存在する電界によって、……
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第2回:プラズマの発生方法
前回は、プラズマの種類と特徴を紹介しました。今回は、プラズマの発生方法を説明します。放電条件や構造の違いにより、さまざまなプラズマが生成できます。本稿では、次回以降でふれる予定の、プラズマ処理技術に用いられる主要なプラズマ源について説明します。具体的にはグロー放電プラズマ、アーク放電プラズマ、大気圧低温プラズマに関して、それらの放電形態や電子温度、ガス温度の特徴を取り上げ、種々のプラズマ処理技術を解説します。
前回、弱電離プラズマの代表例として取り上げたグロー放電プラズマについて説明します。円筒放電管を例にとると、1,000分の1気圧(100Pa)程度に減圧されたガスを封入し、両端に置かれた電極に直流電圧を印加することで、グロー放電と呼ばれる構造を持つ放電が生成されます(図1)。グロー放電とは、低圧の気体中の持続的な放電現象です。放電管の長さを変えても陰極部分の構造は変化せず、陽光柱と呼ばれる一様に光っている部分(蛍光灯の光っている部分に対応)の長さだけが変化します。この領域では、イオンや電子の密度は長さ方向に一様(径方向には変化する)であり、電位の変化が直線的であることから、電界(電位変化の傾き)も均一です。
グロー放電は、古くから非平衡プラズマ(第1回3章平衡プラズマと非平衡プラズマ参照)の代表例として研究が進んでおり、また応用上でも重要なプラズマです。前回で述べたように、こうしたプラズマの中では電子温度がイオンや中性分子(ガス)温度に比べて2桁ほど高く、高速で動き回る電子と分子の衝突により分子が解離(分解)されます。その結果、反応性の高いフリーラジカル(遊離基)が生成され、プラズマ処理に応用されることになります。
図1:直流グロー放電プラズマの構造と電位分布陰極領域は、陰極から順に陰極降下部、負グロー、ファラデー暗部で構成され、その長さは数cmです(ガスやガス圧により変化します)。陰極降下部には大きな電位差(高電界)がかかっており、これにより正イオンは陰極に向かって加速され、高速で衝突します。高速イオンが衝突すると、陰極を構成している分子から電子が弾(はじ)き出されて電極表面に放出されます。これが、……
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アーク放電とは、放電管に大電流を流すことにより発生する放電です。グロー放電の代表的な放電電流密度の上限値は、数100mA/cm2程度です。ここから更に電流を増やすと、アーク放電と呼ばれる放電形態に移行します。アーク放電では、電極間の電圧が10V程度まで極端に低下します。その主な理由は、グロー放電の陰極降下部が消滅する、また電子密度の増加に伴う陽光柱領域の電気伝導度の増大により電圧降下が小さくなることです。
アーク放電では、イオン温度やガス温度が上昇して平衡プラズマに近づきます。図2は、水銀アーク放電を例に、ガス圧に対する電子温度Teとガス温度Tgの変化を示したものです。低ガス圧の時は、グロー放電のように、TeがTgに比べて極端に高い非平衡状態になっています。しかし、大気圧になるとTeとTgはほぼ同じになります。これは、……
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アーク放電の話と矛盾するにもかかわらず、Te>Tgの非平衡プラズマを大気圧で実現できることが、2000年代の初めに報告されました。大気圧でアーク放電を行う場合、電子衝突によりTgが高温になるためにはある特定の時間がかかります。そこで、ガスが加熱される前に放電を止めることを繰り返す(パルス放電)と、Tgはそれ程に上がらずTeだけが高くなる、非平衡な大気圧プラズマが実現されます。
こうしたパルス放電を実現するためによく用いられるのが、誘電体バリア放電です。誘電体バリア放電とは、絶縁体である誘電体を介して気体に交流電圧を印加し、気体中に発生させる放電のことです。その原理を簡単に説明します。図3に示すように、バリア放電では電極の一方、または両方をガラスのような絶縁物(誘電体)で覆った構造になっています。この上部電極に、十分に大きな正の直流電圧を印加してみます。そうすると、その電界により電子は上部電極に向かって加速され、電離衝突を起こして放電が起こります。一方、正イオンは下部電極に向かって移動します。しかし、……
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第3回:薄膜堆積技術
前回は、さまざまなプラズマの発生方法を紹介しました。今回は、プラズマを利用した薄膜堆積(形成)技術について解説します。非平衡プラズマを応用すると、基板やガスを高温にしなくても半導体薄膜や高分子薄膜を形成することができます。代表的な例が、アモルファスSi半導体膜です。他の製膜手法では実現が難しい高品質の材料が容易に得られるため、高性能太陽電池の実現にはなくてはならない材料となっています。
プラズマCVD(Plasma CVD、あるいはPlasma enhanced CVD)とは、プラズマを援用する型式の化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)の一種です。CVDは、LSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)などの半導体素子の作製に用いられる多結晶シリコンや窒化ケイ素Si3N4膜の代表的な薄膜形成法の1つです。通常のCVDでは、例えばSi薄膜を形成する場合には、外側を電気炉などで囲って加熱できるようにした石英管の中に膜を形成する基板を置き、そこにシランSiH4ガスを流します。管内の温度を600℃以上に加熱すると、SiH4分子の一部は熱エネルギーによりシリレンSiH2+水素H2のような解離反応により分解されます。
熱エネルギーによる解離機構は次のようなものです。温度を上げていくと、分子の運動速度が大きくなります。すると、それらの相互衝突により分子を構成する原子間の振動が激しくなり、そこから飛び出してしまうほど振幅の大きくなる分子が、ある確率で存在し始めます。その確率は、温度が高いほど大きくなります。この解離反応により生成されたSiH2のようなラジカルが基板まで拡散して行き、次々と付着して膜を形成します。このように、ガスの加熱により分子を分解して膜形成を行うことから、この製膜方法は熱CVDとも呼ばれています。
それに対し、ガスの分解にプラズマを利用する手法がプラズマCVDです。前回で説明したように、グロー放電では電子温度だけが数万度に達する非平衡状態が実現されています。その結果、ガス温度が低い状態でも高速電子との衝突で分子は解離反応を起こして分解されます。図1にプラズマCVD装置の一例を示します。
図1:容量結合型プラズマCVDの原理図真空容器内に平行平板型の電極を設置し、膜を付けたい基板を接地電極の上に置きます。減圧状態下で原料となるガスを流して放電させると、原料ガスはプラズマ中の電子衝突により分解されてラジカルが生成され、それが基板まで拡散し、膜として堆積します。従って、……
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アモルファスSi半導体(以下、a-Si)は非晶質Siとも訳され、結晶Siのように規則的な原子配列を持たない材料のことを指します(図2)。従来の熱CVDや蒸着により堆積したa-Si膜では、膜中に存在するシリコンの未結合手(ダングリングボンド)による欠陥が多数(~1020cm-3)存在し、半導体デバイスに必要となる高品質な膜は得られません。
図2:Si半導体の二次元モデルところが、プラズマCVDでa-Si膜を形成すると、低温製膜(通常は基板温度200°C程度)であるため、水素が放出されることなく膜中に多数取り込まれます。そのため水素化アモルファスSiと呼ばれ、厳密にはa-Si:Hと書きます。これらの水素がダングリングボンドと結合して欠陥を補償するため、欠陥密度が1015-1016cm-3まで低下し、p型、n型に制御可能な良質な半導体膜が得られます。しかも、p型、n型Siは、SiH4ガスに不純物を含むガス(p型ではB2H6、n型ではPH3など)をわずかに混ぜて放電させることで作ることができます。このことが発見されたのは、1970年代のことです。
さて、太陽電池は、基本的にはpn接合からなるダイオードです。プラズマCVDを用いると、電極さえ大きくすれば大面積のガラス基板上に太陽電池を形成することができます。また、液晶の画素のonやoffを制御する薄膜トランジスタを、……
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プラズマCVDと同じ原理を有機物に適用したのがプラズマ重合です。ポリエチレンのような高分子(ポリマー)材料を作るには、従来の方法ではエチレンC2H4のような原料となるモノマーを加圧・加熱し、触媒反応などを用いながら重合します。モノマーとはガスや液体の形で小さな分子が集まった単量体をいいます。
一方、プラズマ重合では、ガス状のモノマーを導入してグロー放電プラズマを生成し、中に置かれた基板にフィルム状の高分子を堆積します。例えば、エチレンガスを放電させると、ポリエチレン薄膜が形成されます。これが実現できるのは、非平衡プラズマ内では高速電子によりモノマーの結合が切られ、ラジカルが容易に生成されるためです。プラズマ重合には、以下の特徴があります。
一般にプラズマ重合膜は高密度で硬く、……
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第4回:エッチング技術
前回は、材料を生成させるプラズマ技術について説明しました。今回は、材料を削って加工するエッチング技術を解説します。エッチング液を用いた化学的なエッチングの代替にとどまらず、プラズマにしかできない超微細な加工が可能になるこの技術について、その原理と応用製品を紹介していきます。
ドライエッチングとは、反応性の気体(エッチングガス)やイオン、ラジカルによって材料をエッチングする方法をいいます。材料に溝を作ったり、パターンを彫り込んだりする加工をエッチングと呼びます。これは、半導体デバイスを作るためにはなくてはならない技術です。1960年代までは、エッチング液を用いるウェットエッチングと呼ばれる方法しかなく、デバイス作製にはもっぱらこの方法が用いられました。この方法は、装置が安価であり、一度に大量のシリコンウェハ(半導体素子製造の材料)を処理できるため高い生産性を実現しました。しかし、エッチング反応速度を一定にするための制御が難しく、またICやLSIの製造に必要とされる超微細加工にも適しませんでした。そこで、このウェットエッチングに代わる手段としてプラズマの応用が検討され、1970年代の前半から、ICの製造に導入されるようになりました。
プラズマを用いるエッチングはプラズマエッチング、あるいは液体を使わないことからドライエッチングと呼ばれます。その原理は、薬液によるウェットエッチングを気相に置き換えたものです。前回説明した、プラズマCVDと同様の装置を用いて、そこにエッチング用のガスを導入します。プラズマ中で電子衝突により解離、生成されたラジカルが、エッチング反応の主役になります。シリコン(Si)のエッチングを例にとると、四フッ化メタン(CF4)を含むガスを放電させ、プラズマ中で以下のような解離反応によりフッ素(F)原子を生成させます。
CF4+ e → CF3+ F + e
F原子はSi基板まで拡散し、表面で以下のような反応を起こしてSiをエッチングします(図1)。
Si(固体) + 4F → SiF4(気体)
図1:FラジカルによるSiエッチングの原理この方法を用いるとエッチング速度が安定し、しかも放電を止めればエッチングが停止するため、ウェットエッチングに比べて制御性が大幅に改善されます。しかし、このような電気的に中性なラジカルをエッチングに用いると、気体内での分子との衝突によりランダムな方向からウェハ面に飛び込んできます。そのため、深さ方向のエッチングに加えて、……
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反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)とはドライエッチングに分類される微細加工技術の1つです。LSIなどの超微細加工が要求される用途では、マスクの寸法通りに深さ方向のみにエッチング可能な、異方性エッチングが必要不可欠になります。これは、エッチングに必要なラジカルを、基板に垂直に入射させることで実現できます。プラズマ中には中性のラジカルだけでなく、イオン化したラジカルも多数存在します。イオンは、原子や分子との衝突で散乱されなければ、電界の方向に運動します。反応性イオンエッチングはこの性質を利用しています。
RIEの原理について説明します。第2回で紹介したように、直流グロー放電において陽極側ではプラズマとの間にほとんど電位差がなく、逆に陰極近傍には大きな電圧がかかっています。そのためプラズマCVDでは、製膜中に高速イオンが衝突して膜に欠陥を発生させないように、基板は陽極側に置きます。一方、RIEではイオンの指向性を積極的に利用するため、陰極側に基板を置きます。エッチング装置としては、一般的に平行平板電極を用いたRF放電(CCP)が用いられます。その場合には、接地電極が陽極に対応し、RF電圧を印加する電極が陰極に対応します。ここでは、詳細な説明は省略します。興味のある方は文献「プラズマ半導体プロセス工学」市川幸美 他、内田老鶴圃・2003年、第2章を参照してください。
RIEでは数10nm幅のエッチングも可能であるものの、イオンの指向性だけで細くて深いエッチング形状を垂直に掘り進めるのは限界があるため、Deep RIEと呼ばれる方法も開発されています。これは、1990年代初めにドイツのBosch社で開発されたことからボッシュプロセスとも呼ばれています。この方法では、RIEと膜堆積を交互に繰り返し行うことで、高アスペクト比の異方性エッチングを行います。例えば、厚さ数100μmのSiウェハに、直径数μmの貫通孔を開けることも可能です。図3にその原理図を示します。
図3:BoschプロセスによるDeep RIEの原理エッチングガスである六フッ化硫黄(SF6)を放電させると、プラズマ中で解離されてFやF+が生成され、これによりSiは……
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Si半導体の作製技術を転用し、電気的な機能と機械的な構造を兼ね備えたマイクロマシンを作る試みが、1970年頃から始まりました。このデバイスをMEMS(Micro Electromechanical Systems)と呼びます。その典型的な大きさはμmからmmほどで、人間の髪の毛の太さと同程度です。図4にMEMSの一例を示します。
図4:Si基板上に作製された歯車とチェーン(引用:Sandia National Laboratories.https://www.sandia.gov/media/NewsRel/NR2002/chain.htm)現在、MEMSはセンサ、アクチュエータ、振動発電など広い分野に使われています。スマートフォン一つ取っても、その中には加速度センサ、ジャイロセンサ、マイクロフォンなどいくつかのMEMSが組み込まれており、誰もがそれとは意識せずに利用しています。これらのMEMSの作製において最も重要な加工技術が、エッチング技術です。とりわけ、RIEやDeep RIEは、……
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第5回:表面処理技術
前回は、プラズマならではのエッチング技術を説明しました。今回は、プラズマによる材料の表面改質にスポットを当てて解説します。金属の表面硬化や樹脂材料の接着性・塗装性の改善において、プラズマ処理は重要な技術になっています。これらの技術の概要に加えて、こうした処理に適した新しいプラズマ源として期待されている低温大気圧プラズマジェットについて、その原理を紹介します。
プラズマ処理とは、プラズマを用いて材料表面の洗浄や改質、コーティングなどの処理をすることです。機械装置の軸受など、回転部品に用いる鋼材(鉄鋼やステンレスなど)には、耐摩耗性が要求されます。しかし、通常の鋼材では表面硬度が十分ではないので、炭素Cや窒素Nを取り込むことで表面を硬化させる手法が用いられています。例えば、表面を炭化する方法としては、数100℃に熱したメタンCH4などのガス雰囲気中で数10時間処理する「ガス浸炭法」が古くから用いられていたものの、処理時間が長く浸炭むらがあり、ステンレス鋼に使えないといった欠点がありました。
これらの欠点を克服すべく登場したのがプラズマです。まず、処理する鋼材を真空容器に入れ、減圧してCH4などの炭素を含むガスを流します。次に、鋼材を陰極にしてグロー放電を生成すると、プラズマ中で発生した炭素を含むイオンやラジカルが鋼材に取り込まれ、表面からの炭化が効率よく進みます。特にイオンは、……
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低温大気圧プラズマジェットとは、大気圧において生成される低温のプラズマジェットのことをいいます。これまで紹介してきたプラズマは、真空容器にガスを供給して減圧下で放電させるものが主流でした。半導体のように汚染を嫌うものや、面内における膜厚・膜質の高度な均一性を要求されるものでは、こうした装置が必須になります。しかし、大きく立体的な材料を処理しようとすると、真空装置ではさまざまな制約が生じます。もし、スプレーガンのように大気圧下でプラズマを照射できる装置があれば、プラズマ処理の用途が大きく広がります。では、どのようにしたらそのような装置が実現できるでしょうか。ヒントは、第2回で紹介したバリア放電にあります。バリア放電を用いると、大気圧でも低温の非平衡プラズマが生成できることを説明しました。この放電を利用すれば、安定した扱いやすいプラズマ源を作ることができます。
まず、Paschen(パッシェン)の法則から説明を始めます。パッシェンの法則とは、火花放電が起こる電圧(火花電圧)に関する法則です。間隔dの平行平板電極に電圧を印加して放電させた時の絶縁破壊電圧(放電開始電圧)VBは、ガス圧をpとするとpdの関数となり、図2に示したようなカーブで表されます。VBが最小になるpdの値は1~10(Torr・cm)(ガスにより異なります)となり、大気圧(760Torr)の場合でも、dを1mm以下にするとpdの値は数10Torr・cm以下になり、VBは数100Vになります。このように、大気圧でも放電空間を小さくすれば、比較的低電圧で放電が起こります。
図2:種々のガスにおける放電開始電圧(VB)とpd(p:ガス圧、d:電極間隔)の関係この原理に基づき、……
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私たちの身の回りには、高分子材料からなるプラスチック(合成樹脂)製品があふれています。しかし、製品化に当たっては、塗装したり接着したりする工程が欠かせません。そんなときに活躍するのがプラズマです。例えば、自動車のバンパーにはポリプロピレンと呼ばれる樹脂が一般的に用いられています。この樹脂は成形する際、表面にWBL(WeakBoundary Layer:弱境界層)と呼ばれる低重合物層ができます。この層があるために、塗料が付着しにくい、接着が難しいなどの問題が発生します。このため、従来は高分子材料の表面改質を目的として、酸やアルカリを用いた湿式表面処理、UVオゾン照射や火炎(フレーム)処理などの乾式表面処理が用いられてきました。
プラズマ内では、これまでに紹介してきたように、ラジカルやイオンなどの励起活性種を簡単に生成することができます。そこで、こうした処理にプラズマを利用する研究が行われました。すると、極めて短時間のプラズマ照射によって、材料のバルク特性に影響を与えることなく樹脂表面の親水性・印刷性・接着性・塗装性が改善されることが分かりました。プラズマが高分子表面に与える作用としては、以下の3項目が上げられます。
プラズマ中で発生したラジカルやイオンなどの活性種により、プラスチック表面上の有機汚染物質の洗浄やWBLの除去を行います。
プラズマを照射すると樹脂表面が電子により負に帯電し、……
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第6回:バイオ技術への応用
前回は、プラズマの表面処理技術を解説しました。今回は、プラズマのバイオ技術応用について説明します。前回紹介した、大気圧で容易に扱える低温プラズマの出現がバイオ技術にパラダイムシフトをもたらし、次々と新しい知見が得られています。バイオ技術へのプラズマの応用は、まだ研究の歴史が浅く、また生物を対象にすることから現象も複雑で、機構が十分に解明されていない事象も数多くあります。それでも、現在最も注目されている分野であることから、連載の最後に当たり、いくつかの事例を紹介します。
低温大気圧プラズマジェットは、生体への照射が可能なことから、バイオ技術との相性がよい画期的なプラズマ源です。これまで紹介したように、プラズマ中では高速電子や励起分子、ラジカルが発生します。そして、このプラズマジェットを大気中で生体に照射すると、下流域で空気を巻き込むため、これらの粒子と空気、および空気中の水蒸気が反応し、活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)や活性窒素種(Reactive Nitrogen Species:RNS)と呼ばれる、生体に影響を与える活性種が効率よく生成されます。ROSには、原子状酸素(O)、オゾン(O3)、ヒドロキシラジカル(OH)、過酸化水素(H2O2)など、RNSには一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(N2O)などが含まれます。
プラズマを照射すると、こうした活性種やプラズマから供給される荷電粒子、紫外光などが複合的に作用して、生物の細胞や農作物にさまざまな影響を及ぼすことが、2000年以降の研究から分かってきました。研究対象が生命体であることと、研究自体の歴史が浅いことから、詳細な機構まで十分に解明されていない事象もまだ多くあります。しかし、今後の進展に期待できる、興味深い数々の成果が挙がりつつあります。以下に、プラズマの医療応用と農業応用について紹介します(図1)。
図1:低温大気圧プラズマの応用プラズマ医療とは、プラズマを利用して人の細胞を直接治療することです。プラズマの医療への応用は、医療器具などの滅菌、ガン治療、止血、細胞への遺伝子導入、免疫治療、創傷治療などがあります(図2)。
図2:プラズマ医療の応用医療への応用としてまず取り上げられるのは、プラズマ照射による医療器具などの滅菌です。プラズマジェットを細菌やウイルス、カビなどに直接照射することにより、……
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農業におけるプラズマの応用も、研究が急速に進んでいます。プラズマ照射の効果としては、農作物の成長促進や消毒などが報告されています。高い生産性が期待できる植物工場での野菜生産は、これからますます普及することになると想定されます。そして、そこでは土壌を用いずに養液を循環させる水耕栽培が広く用いられます。この栽培方法は、農薬が不要という利点がある一方、もし一部の苗で病害が発生すると循環する養液を介して他の苗に感染が広がり、壊滅的な被害になりかねない欠点があります。これを避けるためには、養液の殺菌が重要になります。そこで、養液にプラズマを照射すると、それらの養液は細菌やカビを死滅させる強力な殺菌効果を持つということが確認されました。また、ROSやRNSなどの効果で、窒素が栄養素として溶液中に供給されることも確認されています。
作物の成長促進においても、プラズマ照射が興味深い効果を及ぼすことが確認されています。例えば、かいわれ大根の種にO2プラズマを照射すると……
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