ろ過の基礎知識
ろ過とは、液体や気体に固体が混ざっている混合物を、細かい穴がたくさん空いたろ材に通して、固体の粒子を液体や気体から分離する操作です。コーヒーのドリップや空気清浄機などは、ろ過の原理を利用しています。ろ過の技術は、食品・医薬品・バイオ分野の製造工程で利用されています。本連載では6回にわたり、主に液体のろ過を対象として、ろ過の基礎を解説します。初回となる今回は、ろ過の適用分野や種類や特徴について紹介します。
もくじ
第1回:ろ過とは
ろ過は固液分離操作の一形態であり、液体中に懸濁している固体粒子をろ材によって捕捉して、液体から分離する操作です。子供の頃に理科の時間、ろ過の実験(図1)をした記憶はありませんか。ろ過は、人類が生み出した最も古い技術の一つです。技術が高度に進歩した現代でも、ろ過はさまざまな産業分野の基幹技術であり、重要な役割を担っています。
図1:ろ過の実験ろ過の特徴はシンプルかつ省エネルギーで、化学変化や熱的変化を伴わず、環境への2次汚染の影響が少ないことです。最近は高性能なろ材の開発により、より微細でより多様な物質がろ過の分離対象となっています。化学、食品、医薬品、バイオ、環境、繊維、紙・パルプ、鉄鋼、電池、ガラス、セラミックスなど、多岐にわたる産業分野でろ過技術は適用されています。
特に、環境(水処理)分野において、ろ過は高精度で、低コスト、大量処理が可能なため、欠かせません。水道水製造のための浄水処理では、主要な分離技術として厚い砂層による急速ろ過が使用されています。最近では、より高精度な分離のため、膜を利用した浄水処理や排水処理が盛んに行われています。その代表例は、膜分離活性汚泥法による排水処理です。従来の活性汚泥法は、……
>>第1回 第2章の続きを読む(PDFダウンロード)
ろ過は、さまざまな種類があります。効率的にろ過を行うため、方式や操作を正しく選択しましょう。
基本的なろ過方式として、ろ過圧力を一定に保つ定圧ろ過と、ろ過速度を一定に保つ定速ろ過の2つがあります。工業的には、変圧変速ろ過、定速から定圧への切り換え、圧力の段階的上昇などのろ過方式が取り入れられる場合もあります。また、ろ過の駆動方式の違いにより、懸濁液の自重を推進力とする重力ろ過、供給液側を高圧にする加圧ろ過、ろ液側を低圧(真空)にする減圧ろ過(真空ろ過)、ろ過器の自転によって生じる遠心力を推進力とする遠心ろ過などに分類されます。加圧ろ過はコンプレッサで圧縮空気圧を作用させたり、ポンプで懸濁液を圧送させ、減圧ろ過は真空ポンプなどを利用します。
……
>>第1回 第3章の続きを読む(PDFダウンロード)
ろ過装置を大きく分けると、ケークろ過器、ケークレスろ過器、清澄ろ過器の3種類に分類されます(図2)。
図2:ケークろ過器、ケークレスろ過器、清澄ろ過器ケークろ過器は、ろ液の流出方向(ろ材面に対して垂直方向)に懸濁液を供給するデッドエンドろ過方式の装置です。ろ過の進行とともにケーク層が成長します。加圧型の装置はバッチ式で操作されることが多く、所定量のケークが形成されたら、ろ過操作を終了してケーク排出が行われます。真空型の装置は連続式で操作されることが多く、ろ過操作を継続しながらケーク層をスクレーパーで削り取るなどの操作が行われます。よく知られる装置として、圧ろ器(フィルタプレス)、葉状ろ過器(リーフフィルタ)、円筒型真空ろ過器(ドラムフィルタ)などが挙げられます。
……
>>第1回 第4章の続きを読む(PDFダウンロード)
ろ材は、ろ過の際に用いる固液分離用の多孔性の材料です。ろ材の種類には、ろ紙、ろ布、膜などがあります。
ろ紙は、化学実験や一般家庭で使用されることが多いろ材です。一般的には高分子(セルロース)製であり、ガラス繊維ろ紙のように無機材料でできているものもあります。
ろ布は、織布と不織布のものがあります。織布は繊維を規則的に織り込んだろ材であり、その織り方は平織、綾織、朱子織の3種が基本です(図3)。
図3:ろ布(織布)の織り方平織は、最も緻密な織り方なので粒子捕捉性に優れ、耐久性も高く、その反面目詰まりを起こしやすくなります。朱子織は目詰まりが起きにくくケークの剥離性にも優れています。一方、空隙が大きいため粒子捕捉性が悪く、耐久性も低いです。綾織は、良い点も悪い点も平織と朱子織の中間的な性質を持ち、最もよく用いられています。不織布は、繊維を不規則に絡み合わせて接着させ、シート状に成形したろ材です。
……
>>第1回 第5章の続きを読む(PDFダウンロード)
ろ過では、分離される液体が、ケーク層やろ材の間を縫うように通過します。図4のようなろ過モデルを考えてみましょう。
図4:ろ過モデル流れの速さ(流速)は、流そうとする圧力(推進力)に比例し、流れを妨げようとする力(抵抗)に反比例します。すなわち、流速=推進力/抵抗で求められます。電気学におけるオームの法則(電流=電圧/抵抗)が、まさにこれに当てはまります。ろ過におけるろ液の流れについても、ろ過速度=ろ過圧力/ろ過抵抗が成立します。ろ過速度、ろ過圧力、ろ過抵抗の3つについて説明します。
ろ過速度q(m/s)は、単位ろ過面積当たりのろ液量v(m)(=ろ液量V(m3)÷ろ過面積A(m2))を時間t(s)で微分したものと定義されます。
ろ過の推進力となる圧力Δp(Pa)は、供給液側の圧力p1とろ液側の圧力p2との差圧(ゲージ圧)p1-p2で与えられます。加圧ろ過ではp2が、減圧ろ過ではp1が大気圧になります。
……
>>第1回 第6章の続きを読む(PDFダウンロード)
第2回:ケークろ過と閉そくろ過
前回は、ろ過の種類と原理、ろ過の基本モデルなどを説明しました。今回は、ケークろ過と閉そくろ過、ろ過の挙動の変化過程を記述する理論モデルを解説します。ケークろ過と閉そくろ過はどう見極めるのか、実際のろ過工程はどう考えるのか学びましょう。
ケークろ過は、ろ材の表面に粒子が堆積するろ過様式で、閉そくろ過は、ろ材の入口や内部で粒子が捕捉されるろ過様式です(図1)。閉そくろ過には、完全閉そく、標準閉そく、中間閉そくの3つの基本モデルが存在します。図1のモデルでは、ろ材を長さ・直径が一様な毛管の集合体と仮定しています。
図1:ケークろ過と閉そくろ過ケークろ過では、ろ過の進行とともにろ材の表面上にケークと呼ばれる粒子堆積層が形成され、これがろ過抵抗増大の主要因になります。ケーク抵抗の大きさは、ケークを構成する粒子群の質量に比例して増加します。
完全閉そくろ過では、毛管径より粒子径の方が大きい場合に、1個の粒子が1本の毛管入口で捕捉され、その毛管を完全にふさぐと仮定します。このとき、ろ過の進行とともに未閉そくの毛管数が減少し、これに比例してろ過速度が減少します。
標準閉そくろ過では、毛管径より粒子径の方が小さい場合に、……
>>第2回 第1章の続きを読む(PDFダウンロード)
前回、下記のろ過の基本モデル式が与えられることを説明しました。ろ過速度q(m/s)、ろ過圧力Δp(Pa)、ろ液粘度μ(Pa・s)、ろ過抵抗R(1/m)からなり、Rはろ材そのものの抵抗Rm、ろ材の閉そくによる抵抗Rb、ケーク層の増加による抵抗Rcの和で表されます。
ケークろ過の過程を分かりやすくモデル化したのが、ルースのケークろ過モデルです。ケークろ過では、時間の経過とともに、ケーク層の堆積によるろ過抵抗の増加のため、次第にろ過速度が緩やかになります。ここでは、そのルースのろ過モデルを解説します。まず、ケークの形成のみを考慮し、閉そくの影響は考慮しない式を立てます。ろ過の基本モデルにおいて閉そく抵抗を無視した場合、次の式が成り立ちます。
ケーク抵抗Rcは、単位ろ過面積当たりのケーク内の固体分質量w(kg/m2)(ケークの成長に伴い増大)に比例します。さらに、ろ材抵抗Rmについても、ろ材をそれと等価な仮想ケークに置き換えて考えると、同様に仮想ケーク内の固体分質量wm(kg/m2)(ろ過期間中一定)に比例します。比例係数をαav(m/kg)と置くと、次式が得られます。
αavは単に比例係数ではなく、平均ろ過比抵抗と呼ばれるケークの重要な特性値です。これについては、次回に詳しく解説します。実際の操作における測定を考慮すると、ケークとして堆積する固体量の変化を追うのは難しく、流出するろ液量の変化は容易に測定できます。そこで、単位ろ過面積当たりのケーク固体質量w(kg/m2)と単位ろ過面積当たりのろ液量v(m3/m2)、ならびに仮想ケーク固体質量wm(kg/m2)と仮想ろ液量vm(m3/m2)の関係から、次式が成り立ちます。
ここで、ρ(kg/m3)はろ液密度、sは試料液の固体濃度(質量分率)、mはケークの湿乾質量比(湿潤ケークと乾燥ケークの質量比)です。この式は、試料液質量(w/s)=湿潤ケーク質量(mw)+ろ液質量(ρv)という物質収支より導かれます。以上のRc、Rm、w、wmを、式1に代入すると、次式になります。
この式はろ材の影響を加味しているので、ろ過圧力Δpはケークの圧力損失Δpcとろ材の圧力損失Δpmの和(Δp=Δpc+Δpm)を意味し、ろ液量も(v+vm)で与えられています。一方、ケークの部分だけに着目すると、次のように書き改められます。
定圧ろ過の条件下での理論を考えていきます。式2において、ろ過速度qをろ液量の時間微分q=dv/dtで表し、ろ過圧力Δpが一定の条件下で、ろ液量vを時間tで積分します。定圧条件下ではαavはろ過期間中一定と見なすことができるので、次式が容易に導かれます。
この式より、定圧ろ過ではろ液量と時間との関係が放物線で表されます。なお、tmはvmを得るのに要する仮想ろ過時間です。K(m2/s)は定圧ろ過係数と呼ばれ、ろ過速度の大きさの指標となる値です。式4を微分すると、次式が得られます。
すなわち、ろ過速度の逆数(dt/dv)とろ液量vとは直線関係を示します。なお、式5は式2の両辺を逆数で表した式でもあります。また、式4を展開してvm2=Ktmの関係を用いて整理すると、次式となります。
グラフにすると、総括的なろ過速度の逆数(t/v)とろ液量vの関係は直線で表すことができます。図2は、定圧ろ過におけるdt/dv対vおよびt/v対vのグラフの一例です。2つのプロットは同じろ過データから得たものです。いずれも直線関係を示し、dt/dv対vの傾きはt/v対vの傾きの2倍になります。その傾きからKの値が2.72×10-6(m2/s)と算出されます。このプロット法はルースプロットと呼ばれ、定圧ろ過データの整理法として有効です。異なる定圧ろ過データをルースプロットで比較するときは、縦軸がろ過速度の逆数であることに注意しなければなりません。すなわち、ろ過速度が大きいほど傾きは緩やかになり、ろ過速度が小さいほど傾きは急になります。
図2:定圧ろ過のプロット法……
>>第2回 第2章の続きを読む(PDFダウンロード)
ろ材の閉そく過程を記述するモデルとして、ハーマンス – ブレディーにより提案された閉そくろ過モデルがよく知られています。ケークの形成過程は比較的規則的であるのに対し、ろ材閉そくの生じ方は不規則な場合が多く、ろ材の細孔構造も複雑なので、閉そくろ過過程を理論的に捉えるのは簡単ではありません。そのため、複雑な閉そく現象を簡略的に捉え、前述の3つの基本モデルのいずれかで表現する手法がよく用いられます。定圧ろ過において、3つの基本モデルをろ過速度式で記述すると次のようになります。ここでは導出過程は省略して、結論だけ示します。
完全閉そく:q=q0-K1v標準閉そく:q=q0(1-K2v)2中間閉そく:q=q0exp(-K3v)
また、次節に備えてケークろ過速度の式5も表記を変えて次に示します。
……
>>第2回 第3章の続きを読む(PDFダウンロード)
定圧ろ過におけるろ過過程が、閉そくろ過を記述した3つの式とケークろ過を記述した式6のいずれのモデルに従っているかを把握するためには、得られたろ過速度q対ろ液量vのデータを用いて、次のプロットを行います。完全閉そくはq対v、標準閉そくは√q対v、中間閉そくはln q対v、ケークろ過は1/q対vが直線になります。この4種のプロットを行い、どのプロットが直線関係を示すかを確認します。
図4に4種のプロットの一例を示します。いずれも同じろ過データをプロットしたものです。これらのグラフの中で、最も直線に近いのは√q対vのプロットであることが見て分かります。従って、このろ過過程は標準閉そくであると判断できます。
図4:閉そくろ過のプロット法1また、完全閉そく、標準閉そく、中間閉そくの3つの式とケークろ過の式6は、次の一般式でまとめることができます。指数iは、完全閉そくの場合は2、標準閉そくは1.5、中間閉そくは1、ケークろ過は0が当てはまります。
このことから、ろ過モデルの特定は、……
>>第2回 第4章の続きを読む(PDFダウンロード)
実際の閉そくろ過過程は、上述の閉そくろ過モデルでは説明できない複雑な挙動を示す場合が多く、閉そくろ過の3つの式のいずれかに必ず従うわけではありません。例えば、図5の直線の傾きが前述のi値のいずれかになるとは限らず、直線になるとも限りません。そのため、ハーマンス-ブレディーのモデルをベースにして発展させたモデルや全く新しいタイプのモデルなど、これまでに多数の閉そくろ過モデルが提案されています。
また、閉そくろ過とケークろ過の両方が生じるケースも少なくありません。例えば、ごく希薄な懸濁液を長時間ろ過したときのルースプロットでは、初めは曲線的に変化し、やがて直線に移行するという挙動がしばしば見られます。これは、初めは閉そくろ過が支配的で、やがてケークろ過が支配的になったことを意味しています。このような場合、閉そくろ過過程が標準閉そくであったとして、……
>>第2回 第5章の続きを読む(PDFダウンロード)
第3回:ケークろ過の解析と評価
前回は、ケークろ過過程を記述する理論モデルとして、定圧ろ過と定速ろ過の各モデルを説明しました。今回は、これらのモデルを活用し、ケークろ過特性を理解する上で必要不可欠なケーク構造の解析方法について、詳しく解説します。まずは、ケークろ過のデータ解析方法から見ていきます。
ケークろ過のデータ解析方法を説明する前に、まずは、前回解説した定圧ろ過モデルと定速ろ過モデルをおさらいします。
定圧ろ過モデル
定速ろ過モデル
次に、ケークろ過データのプロット法を見てみましょう。図1は、定圧ろ過のプロット法と定速ろ過のプロット法です。
図1:ケークろ過のプロット法定圧ろ過では、……
>>第3回 第1章の続きを読む(PDFダウンロード)
ケーク層は一般に圧縮性を示し、その構造は均質ではありません。図2は圧縮性ケークの内部状態です。ろ液は右から左に流れています。ろ液はケーク層内の粒子間隙の抵抗を受けながら透過するため、液圧ΔpLはろ材に近づくにつれて減少します。一方、ケーク内の粒子はその抵抗に相当する圧縮圧力を受けるため、圧縮圧力Δpsはろ材に近づくにつれて増大し、ΔpL+Δps=Δpの関係が保たれます。その結果、ケーク表面付近は湿潤で、ろ材に近づくにつれて緻密化し、ケークの空隙率は減少し、ろ過比抵抗は増大します。
図2:圧縮性ケークの内部状態ろ過圧力Δpを増加させると、ケーク内の各粒子にかかる圧縮圧力は増大し、結果としてケークの総括的特性値である平均空隙率εavは減少し、平均ろ過比抵抗αavは増大します(αavの定義は第2回を参照)。このαavの圧力依存性は、……
>>第3回 第2章の続きを読む(PDFダウンロード)
ケークろ過では、ろ材面上に形成されるケークがろ過性能を本質的に支配します。従って、その特性を明らかにすることが、ろ過プロセスを設計する上で極めて重要となります。これ以降は、基本的なケーク特性値である平均ろ過比抵抗αav、平均空隙率εav、圧縮性指数nの測定・評価方法について解説していきます。
平均ろ過比抵抗αavは、ろ過の難しさの指標となる値であり、1011m/kg程度までならろ過性は高く、1012~1013m/kg程度は中程度のろ過性、1013m/kg以上は難ろ過性と判断することができます。
平均ろ過比抵抗αavは、定圧ろ過の実験データにより容易に求めることができます。式1もしくは、式2が示すように、dt/dv対vをプロットすると傾き2/Kの直線が、t/v対vをプロットすると傾き1/Kの直線がそれぞれ得られます。その傾きの値を次式に代入すれば、αavの値が算出できます。
図1の定圧ろ過について考えましょう。前回も説明したように、直線の傾きから、K=2.72×10-6m2/sと算出されます。実験条件が、Δp=100kPa、m=1.60、s=0.0100、μ=1.00×10-3Pa・s、ρ=998kg/m3であったとします。これらの値を代入して計算すると、αavの値は、7.25×1012m/kgと求められます。この結果から、この試料のろ過性は中程度であると判断することができます。なお、試料液が希薄な場合には、1–ms≓1と近似しても差し支えありません。例えば、上記のケースでは、1–ms=0.984であり、1と近似しても許容できます。
また、次の方法でもαavの値を見積もることができます。まず、……
>>第3回 第3章の続きを読む(PDFダウンロード)
空隙率の評価方法には、ケークを取り出して測定する直接的測定法と、ケークを取り出さないで測定する間接的測定法があります。この2つについて説明します。
平均空隙率εavは、ケークの全体積に占める空隙(液体)部分の体積の割合として定義され、ケークの全量をうまく取り出すことができれば、直接的に測定することができます。先ほどから何度か出てきているmはケークの湿乾質量比で、取り出した湿潤ケークの質量Wwを測定し、これを完全に乾燥させて乾燥ケークの質量Wdを測定すれば、m=Ww/Wdが算出できます。平均空隙率εavは、湿乾質量比mと次式の関係があるので、これによりεavを求めることができます。
ここで、ρsは粒子の密度、ρはろ液の密度です。例えば、密度2,650kg/m3の粒子からなるケークの湿潤質量と乾燥質量がそれぞれ28.52g、17.38gであったとき、m=28.52/17.38=1.641と求められ、このケークの平均空隙率はεav=0.630と導かれます。
……
>>第3回 第4章の続きを読む(PDFダウンロード)
圧縮性指数とは、ろ過圧力とケーク比抵抗の関係から求められる実験値で、ケークの圧縮性の大小を示す数値です。式4で定義される圧縮性指数nにより、ケークの圧縮性の程度が評価できます。n=0のケークは非圧縮性であり、αavは圧力に依存せず、ケーク構造は全体的に均質になります。また、nが0.2程度までであれば低圧縮性、0.5程度までなら中程度の圧縮性、それ以上であれば高圧縮性と評価することができます。n=1というのは、圧力を2倍に上げると抵抗も2倍になるため、結果としてろ過速度の向上にはつながらないことを意味しています。さらに、nが1を超える場合には、圧力を上げるとそれ以上にろ過抵抗が増加するため、かえってろ過速度の低下を招く結果になります。変形能があるソフト粒子のろ過などで、このようなケースが起こり得ます。図5は、圧力Δpとαavの関係を示したグラフです。圧縮性指数nは、式4に基づき、このグラフを作成することで求められます。
図5:圧縮性指数nの求め方種々の圧力Δpで定圧ろ過実験を行い、前述の方法でαavを求め、これをΔpに対して両対数プロットして近似直線を引くと、その傾きがnとなります。例えば、……
>>第3回 第5章の続きを読む(PDFダウンロード)
第4回:膜によるコロイドのろ過
前回は、ケークろ過の解析と評価を説明しました。今回は、膜によるコロイドのろ過特性に及ぼす溶液環境の影響について、平均ろ過比抵抗と平均空隙率を踏まえ解説します。膜は、ろ紙やろ布では分離できない1µm以下の物質を分離する、極めて高性能なろ材です。1µm以下の物質はコロイドと呼ばれています。理論的には、第2回で説明したルースのケークろ過モデルや、ハーマンス-ブレディーの閉そくろ過モデルが適用できます。コロイドのような微細な物質は、pHやイオン強度などの溶液環境によって粒子表面のミクロな特性が変化します。結果として、ろ過特性というマクロな特性の溶液環境の影響を大きく受けます。
膜の種類は、分離する物質によりさまざまな使い分けができます。膜分離法は分離精度の違いから、精密ろ過、限外ろ過、ナノろ過、逆浸透に分類され、この順に分離精度は高くなります(図1)。これまでに説明してきたケークろ過の考え方が適用できるのは、精密ろ過と限外ろ過です。精密ろ過の分離対象は主に粒子(特に粒子径0.01~1µmの微粒子)であり、従来のろ過の延長線上に位置づけられます。一方、限外ろ過の分離対象は主に分子(特に分子量1,000~500,000の高分子)であり、イオンを分離する逆浸透の延長線上にあります。実際には従来のケークろ過の考え方がおおむね適用可能とされています。
図1:膜分離の分類と分離対象膜の性能を示す最も基本的な物性値は、細孔径、すなわち膜が持つふるいの目の大きさです。それを正確に評価することが実用上極めて重要です。細孔構造が単純であれば、顕微鏡画像から直接計測できます。実際には、膜の細孔は複雑な形状および立体構造を持つため、実用的には微粒子(高分子)透過法、バブルポイント法、水銀圧入法、純水透過法などの細孔径の決定方法が用いられます。
精密ろ過膜に対しては、粒子径が既知のさまざまな微粒子を透過させ、粒子径と阻止率の関係から細孔径を特定することができます。一般に、阻止率が90%になる粒子径を精密ろ過膜の細孔径と定義します。シュードモナス菌やセラチア菌などの細菌がよく用いられます。一方、限外ろ過膜に対しては、タンパク質、ポリエチレングリコール、デキストランなど、分子量が既知のさまざまな高分子が用いられます。限外ろ過膜の分離性能は、一般に細孔径ではなく分画分子量で評価され、分子量と阻止率の関係から阻止率90%の分子量を求め、これを分画分子量と定義します。
膜の細孔内を水やアルコールのような膜をよく濡らす液体で満たし、膜の片側に空気圧を加えて徐々に昇圧していきます。ある圧力pのときに細孔内の液体が押し出され、もう一方の側で気泡の発生が観察されます。このときの圧力pをバブルポイント圧と呼び、細孔径dに変換することができます。
……
>>第4回 第1章の続きを読む(PDFダウンロード)
コロイド粒子は、一般に正か負の電荷を帯びており、粒子間の静電反発によって液中で分散状態を保っています。コロイド粒子を取り巻く溶液は電気的に中性です。そのため粒子表面の電荷を打ち消すように反対符号のイオン(対イオン)が粒子表面に引きつけられます。このとき、粒子表面の電荷に強く引きつけられた対イオンが、粒子の周囲に固定されて固定層を形成します。さらにその外側に自由に動ける対イオンが、その反対符号のイオン(副イオン)とともに広がって拡散層を形成します。粒子を取り囲むこれら2つの層を電気二重層と呼びます。電気二重層内には電位分布が存在し、粒子同士の電気二重層が重なることにより静電反発力が発生します。よって、電気二重層が厚くなるほど粒子間の静電反発力は大きくなります。
電気二重層に電場を印加すると、コロイド粒子は表面電荷と反対符号の電極に向かって移動します。この現象を電気泳動と呼びます。このとき、固定層の影響で粒子と強く結びついた水分子も粒子と同伴して泳動し、その外側の液体と相対運動を生じます。この境界面のことをすべり面と呼び、この面での電位をゼータ電位と呼びます。電気泳動速度の測定データから算出される電位の値はゼータ電位です。粒子同士の相互作用を論じるときには、ゼータ電位が表面電位の代わりによく用いられます。ゼータ電位の絶対値が大きくなるほど粒子間の静電反発力は大きくなります。
図2は、電気泳動速度の測定データから求めたルチル型二酸化チタン(TiO2)微粒子と、タンパク質の一種である牛血清アルブミン(BSA)分子のゼータ電位を、pHに対してプロットしたグラフです。……
>>第4回 第2章の続きを読む(PDFダウンロード)
コロイドには分散と凝集の2つの状態があります。コロイドの分散と凝集のメカニズムは、DLVO理論によって説明することができます。DLVO理論によると、粒子間には静電反発ポテンシャルVA(正の値)とロンドン-ファンデルワールス引力ポテンシャルVA(負の値)がそれぞれ作用します。コロイドが分散状態にあるか凝集状態にあるかはこれらの和、すなわち全相互作用ポテンシャルVT=VR+VAによって判定することができます。ここでは、VRやVAの具体的な理論式の記述は省きます。VRは電気二重層が厚くなるほど、あるいはゼータ電位が大きくなるほど増大する値であり、VAはこれらの影響を受けない値です。また、VRとVAは、いずれも粒子間距離hの関数形で表されます。よって、VTもhの関数であり、VTをhに対して描いた線図をポテンシャル曲線と呼びます。
図3は、ポテンシャル曲線の例です。VRが支配的となるとき、正のエリアにはポテンシャル曲線の山ができます。この山が粒子同士が接近するのを妨げる障壁となって、コロイドは分散状態を保ちます。一方、VRが小さくなってVAが支配的になると、ポテンシャル曲線は常に負の値となって障壁がなくなり、コロイドは容易に凝集します。また、分散系と凝集系の変遷の間には凝集臨界点が存在します。
図3:ポテンシャル曲線図4は、コロイドの分散と凝集の変遷の模式図です。コロイドは、疎水コロイドと親水コロイドに大別されます。疎水コロイドとは、水とコロイド粒子との親和性が弱いコロイド溶液です。電気二重層を圧縮することにより、あるいは等電点付近のpHに調整することにより、分散系から凝集系へと移行します。電気二重層は、電解質を加えてイオン強度を高めることにより圧縮されます。一方、親水コロイドとは、……
>>第4回 第3章の続きを読む(PDFダウンロード)
ここまでは、pHや電解質濃度などの溶液環境の変化によって、コロイドの表面状態や相互作用がどのように変化するかを説明してきました。ここからは、こうしたコロイド特有の変化が、ろ過特性にどのような影響を及ぼすかを具体的に説明します。まず、疎水コロイドの代表例として、TiO2懸濁液の精密ろ過で得られたケーク層の構造について説明します。
図5は、TiO2ケークの平均ろ過比抵抗αavと平均空伱率εavをpHに対してプロットしたグラフです。まず、αavとεavとは負の相関があることが分かります。すなわち、疎なケークほどろ液が流れやすく、密なケークほどろ液は流れにくいことを意味しています。この図で最も特徴的なは、αavは最小値、εavは最大値を持つところです。そのときのpHに着目すると、およそpH8であり、TiO2粒子の等電点に一致していることが分かります。
図5:TiO2のケーク特性値図6は、pHが等電点のときと、等電点からアルカリ性側に離れたときのケークの状態を模式図で示しています。左はpHが等電点のときのケークの状態を表します。ゼータ電位が0となる等電点では、粒子間に静電反発力が働かないため、粒子同士が接近してロンドン-ファンデルワールス引力により凝集します。そのため、……
>>第4回 第4章の続きを読む(PDFダウンロード)
次に、親水コロイドの代表例としてBSA溶液の限外ろ過で得られたケーク層の構造について説明します。図7は、BSAケークの平均ろ過比抵抗αavと平均空隙率εavをpHに対してプロットしたグラフです。この図でも図5と同様の特徴的な挙動を示しており、BSA分子の等電点であるpH5近傍でαavは最大、εavは最小となります。一見すると、図5と同じ傾向ですが、よく見比べると、等電点でαavが最小、εavが最大となる図5とはまったく逆の傾向であることに気が付きます。両者の結果の相違は、BSAが親水コロイドであることに着眼すると説明することができます。
図7:BSAのケーク特性値図8は、pHが等電点のときと、等電点からアルカリ性側に離れたときのケークの状態をそれぞれ模式図で示しました。左は、pHが等電点のときのケークの状態を表します。BSAは親水コロイドであるため、ゼータ電位が0となる等電点でも、BSA分子は凝集せずに分散状態を保っています。分子間に静電反発作用が働かないので……
>>第4回 第5章の続きを読む(PDFダウンロード)
第5回:ケークレスろ過
前回は、膜によるコロイドのろ過を説明しました。今回は、ケークレスろ過について解説します。これまで、主にろ材表面にケーク層が形成されるろ過操作について解説してきました。固体の回収を目的とする場合はケークが必要になりますが、液体の清澄化を目的とする場合は必ずしもケークを形成させる必要はありません。むしろ、ケークはろ過性能低下の主要因であり、ケークの成長に伴ってろ過速度の低下やろ過圧力の上昇が生じます。これまでにさまざまなタイプのケークレスろ過技術が考案され、開発・実用化されています。クロスフローろ過をはじめとする主なケークレスろ過方式の実例をいくつか紹介します。
ケークレスろ過の原理と特長を、ケークろ過との比較から説明します。図1は、ケークろ過とケークレスろ過の概略を模式的に示しています(第1回参照)。ケークろ過とは、ろ液の流出方向(ろ材面に対して垂直方向)に懸濁液を供給するろ過方式です。ろ過の進行とともにケーク層が成長します。ケークレスろ過とは、供給液をフィルタ表面上で流体力学的な操作で高速流動させるろ過方式です。その動的な特徴からダイナミックろ過とも呼ばれます。ケーク層を撹乱して除去することにより高いろ過性能を維持でき、連続使用が可能です。典型的なものは、ろ過面に対して平行に供給液を流す方式であり、供給液流れと、ろ液流れがクロスしていることからクロスフローろ過と呼ばれます。もしくは、その動的な特徴からダイナミックろ過とも呼ばれます。その他、フィルタを高速で回転させたりフィルタに高周波の振動を与えたりしても、ケークは撹乱・掃流され、高いろ過性能が維持できます。ケークレスろ過技術は、特に高濃度で難ろ過性の試料液の処理に有効です。
図1:ケークろ過とケークレスろ過ケークレスろ過の効果がよく分かるように、ケークろ過の結果と比較しましょう。図2は、あるケークレスろ過におけるろ過速度の逆数(1/q)対、単位ろ過面積当たりのろ液量vのデータを示しています。ケークろ過は、ろ液の流出する方向が試料液の供給方向と一致します。そのため、ろ過の進行とともにケークが成長し、ろ過速度qは急激に減少して、1/q対vのプロットは直線的に増加します。一方、ケークレスろ過は、……
>>第5回 第1章の続きを読む(PDFダウンロード)
クロスフローろ過は、装置構造が比較的シンプルなため、それほど大きな動力を必要とせず、維持管理も容易です。そのため、最も広く適用されている代表的なケークレスろ過方式です(図3)。ろ材は、フラットなタイプもチューブ状のタイプも使用でき、多数のチューブ状の膜を束にした中空糸膜モジュールや、1本の円柱に多数の流路を設けたセラミックス製モノリス膜など、大流量かつコンパクトなフィルタ設計が容易です。
図3:クロスフローろ過のろ材後述する回転型ろ過や振動型ろ過と比較すると、……
>>第5回 第2章の続きを読む(PDFダウンロード)
クロスフローろ過性能を大きく改善するためには、他のケーク除去技術を組み合わせるのが有効です。供給液流動の制御や、圧力の制御、逆洗の併用は、定常的な供給液流れを非定常化させるため、周期的に流動状態を変化させる手法としてしばしば用いられます。また、らせん流の利用や、乱流促進体の設置、気液二相流の利用は、クロスフローろ過装置を大きく改良することなく、簡単な工夫で流動状態の不安定化や乱流の促進を図り、ろ過性能を向上させる手法です。電場の印加や、超音波の照射など、外場(電場や音場など)の導入も有効な手段となり得ています。以上の供給液流動の制御、圧力の制御、逆洗の併用、らせん流の利用、乱流促進体の設置、気液二相流の利用、電場の印加、超音波の照射の8つについて紹介します。
供給液流動の制御とは、例えば、ろ室内の流動状態を非定常化させるため、試料液をパルス流(振動流)で供給する手法です。その他、供給液の流れ方向を周期的に反転させて、ろ室内の流動状態を非定常化させる手法もあります。
参考文献Li H et al.、AIChE Journal、Vol.44、P.1950-1961、1998年Hargrove S C et al.、Separation Science and Technology、Vol.38、P.3133-3144、2003年
圧力の制御とは、例えば、供給液側を断続的に負圧にして、ろ液側から供給液側にパルス圧を作用させることにより、ケークの蓄積量を低減する手法です。
参考文献Rodgers V G J and R E Sparks、Journal of Membrane Science、Vol.68、P.149-168、1992年
逆洗の併用とは、クロスフローろ過中に周期的に逆洗操作を行い、ケーク除去を促進する手法です。周期逆洗型ろ過については次回に解説します。
参考文献Redkar S G and R H Davis、AIChE Journal、Vol.41、P.501-508、1995年
らせん流の利用とは、供給液がらせんを描くような流路を作る手法です。渦流が発生し、乱流による流動不安定化が促進されます。
参考文献Chung K Y et al.、AIChE Journal、Vol.42、P.347-358、1996年Kluge T et al.、AIChE Journal、Vol.45、P.1913-1926、1999年
……
>>第5回 第3章の続きを読む(PDFダウンロード)
高濃度・高粘性試料液を高度に濃縮したいとき、必ずしもクロスフローろ過のせん断力ではケーク剥離効果が十分に得られません。このような場合には、より高いせん断力を発生させることができる回転や振動を利用したケークレスろ過が有効です。特に、チキソトロピー性の強い試料液の高濃縮化には、回転や振動を利用したケークレスろ過が適しています。
ろ材を回転させながらろ過を行う方式は、ろ材の形状により、回転円板型と回転円筒型に大別されます。回転円板型は回転円板と固定円板との間に高いせん断力を発生させることができ、同軸上に回転ろ材を何枚も連ねることにより、ろ過面積を大きくすることができます(図4)。回転円板型には、ろ材を固定してろ材の近くで円板を高速回転させる方式もあります(図5)。この方式では、回転円板に溝を掘ったり突起を付けたりすることにより、流動状態を激しく撹乱させることができます。一方、回転円筒型は共軸二重円筒の構造を持ち、外筒と回転内筒ろ材の間に発生するせん断力と遠心力と渦流の複合効果を利用して、ケークを強力に除去します(図6)。
図4:回転円板型ろ過 (ろ材回転)図5:回転円板型ろ過 (ろ材固定)図6:回転円筒型ろ過振動を利用したケークレスろ過では、ろ材表面に存在する流体が粘性と慣性により複雑に運動し、ろ材表面の粒子の移動が活発になるため、ケークの成長が抑制されます。このケークレスろ過でも、……
>>第5回 第4章の続きを読む(PDFダウンロード)
第6回:さまざまなろ過操作
これまで「ケークろ過」、「閉そくろ過」、「ケークレスろ過」などの主なろ過操作について解説してきました。最終回の今回は、その他特筆すべきろ過操作についていくつかピックアップします。具体的には、前回も少し触れた「周期逆洗型ろ過」、「電場を利用したろ過」、「超音波を利用したろ過」、産業でよく適用されている「ろ過助剤を利用したろ過」、「遠心ろ過」の5つの項目について説明します。
逆洗とは、ろ材の逆側から高圧で洗浄液を流し、ろ材表面に溜まったケークを洗い流すことをいいます(図1)。ろ過操作と逆洗操作を周期的に繰り返す手法を周期逆洗型ろ過といいます。これも広義のケークレスろ過です。難ろ過性の懸濁液を処理する場合には、前回説明したケークレスろ過の適用が極めて有効です(第5回参照)。一方、ケーク比抵抗が小さい場合や、ごく希薄な懸濁液を処理する場合には、ケークろ過でも実用上支障がないことが多く、むしろエネルギー消費量が小さく抑えられる点で優位ともいえます。しかし、大なり小なりケークが生成され、ろ過効率が低下するという問題は避けられず、長時間にわたって安定的にろ過を継続するのは困難です。
図1:周期逆洗型ろ過の概念図図2は、周期逆洗型ろ過のろ過挙動の一例です。定速ろ過のケースを選択したので、ろ過圧力Δpの経時変化を示しています。ろ過の進行とともにケークが成長してろ過抵抗が次第に増加し、ろ材を通る前と後の差圧が増大します。そこで、ろ過圧力が各サイクルの初期差圧から+60kPa増加した時点でろ過操作をいったん休止し、洗浄液(ろ液の一部)を逆側から高圧で流す逆洗操作を起動するように設定しました。その結果、逆洗操作を起動させるたびにろ過圧力は清浄なろ材の差圧付近まで低下し、効率的なろ過操作を継続することができました。
図2:周期逆洗型ろ過の挙動しかしながら、各サイクルの初期差圧に注目すると、……
>>第6回 第1章の続きを読む(PDFダウンロード)
一般にコロイド粒子は電荷を帯びています。第4回で説明した通りコロイドのろ過では、コロイド粒子の電気的特性がろ過特性に大きな影響を及ぼします。ここで説明する電場を利用したろ過(電気ろ過)とは、電荷を帯びたコロイド粒子の動きを電場の印加によってコントロールして効率的にろ過を行う方法で、ケークレスろ過の一形態に当たります(図3)。
コロイド粒子は電界中で電気泳動する性質があります。すなわち、コロイドに直流電場を印加すると、正に帯電している粒子は陰極方向に、負に帯電している粒子は陽極方向に移動します。この性質を利用すると、コロイド粒子の堆積によるケークの成長を抑えることができます。図3は、電気ろ過の原理を模式的に示しています。この図では、負に帯電したコロイド粒子を対象にしています。従って、ろ材を挟んで供給液側に陽極、ろ液側に陰極を設置して電場を印加します。これにより、粒子は陽極、すなわち、ろ液の流れる方向と逆向きに電気泳動するので、ろ材面への粒子の移動が抑制されます。
図3:電気ろ過過程の概略粒子は、ろ過操作によって液体と一緒にろ液流れの方向にろ過速度q(m/s)で移動します。そこに直流電場を印加すると、粒子はろ液の流れる方向と逆向きに泳動速度uE(m/s)で電気泳動します。結果として、正味の移動速度がq– uEとなり、ケークの形成が緩やかに進むことになります。ろ過速度qはケーク形成の進行に伴って減少するのに対し、……
>>第6回 第2章の続きを読む(PDFダウンロード)
超音波は反応や分離などのさまざまなプロセスで応用され、容易に性能を上げられる便利なツールとしてしばしば注目されています。超音波の最もポピュラーな応用例の一つが超音波洗浄機です。超音波特有の高周波の微細振動や、キャビテーションと呼ばれる高温・高圧の気泡群の発生・圧壊現象により、こびりついた汚れ成分が効果的に剥離・除去されます。ろ過プロセスでもこうした効果がろ過の促進に活用できるため、多数の適用事例が報告されています。
図5は、超音波を利用したろ過(超音波ろ過)の原理を模式的に示しています。ろ過器に超音波を照射しながらろ過を行うと、……
>>第6回 第3章の続きを読む(PDFダウンロード)
ろ過助剤とは、ろ過の性能向上やろ材の閉そく防止に使う粉体をいいます。ろ過対象の試料液に加えると、そのろ過性が大きく改善されます。一般にはケイソウ土(珪藻土)を指しますが、他にパーライトなどが知られています。ケイソウ土とは、藻類の一種である珪藻が永い年月を経て化石になったものです。パーライトとは、火山活動で噴出した溶岩が急に固まり、ガラス状の岩石となったものです。いずれも非常に水はけが良いのが特徴で、ろ過比抵抗が小さく圧縮性が低いことからろ過助剤として機能します。ビール工業は、ろ過助剤を利用した産業分野としてよく知られています。ビールの精製過程でビールと酵母を分離するために、主にケイソウ土ろ過が適用されています。世の中のビールの大部分が生ビール(非熱処理のビール)であるのは、熱処理を行わなくてもケイソウ土ろ過で酵母を完全に除去できるためです。ケイソウ土ろ過はろ過能力が高くランニングコストが低いことに加え、食品の味や性状を変化させないという点においても優れたろ過方法です。一方で、使用済みのケイソウ土が産業廃棄物として多量に排出されるため、その処理の負担が大きいという短所もあります
ろ過助剤の活用法は、主にプリコート法とボディフィード法に大別されます。プリコート法とは、……
>>第6回 第4章の続きを読む(PDFダウンロード)
遠心ろ過とは、遠心力を用いてろ過操作を行う方法です。圧縮ガスやポンプ圧による加圧や、真空ポンプによる減圧を推進力として行われるものの他、遠心力を推進力として行われるものも主要なろ過操作の一つです。そのため、さまざまなタイプの遠心ろ過機が開発され、各種の産業分野で利用されています。第5章では、主に遠心ろ過の基本的なメカニズムに着目することとし、通常のろ過との比較を交えながら解説します。
図7に遠心ろ過操作中のろ過器内の典型的な状態を、一部を切り取った形で示します。この図から遠心ろ過の特徴で、なおかつ通常のろ過との相違でもある点がいくつか読み取れます。
図7:遠心ろ過過程の概略遠心沈降とは、粒子が遠心力を受けて遠心力の向きに液中を移動する分離形式です。ろ過によるケーク層だけでなく、遠心沈降による沈積層も同時に形成されます。図7のケーク層は両者が混合したものです。遠心沈降に伴い、図7のように清澄液層が発生することも大きな特徴です。
変圧変速ろ過とは、ろ過圧力とろ過速度の両方が時間とともに変化するろ過形式です。ろ過の推進力となる遠心力は、試料液の自重に比例して作用します。そのため、試料液を追加しない回分式で遠心ろ過を行うと、ろ液の流出に伴ってろ過器内の試料液が減少し、有効ろ過圧力が減少します。通常のろ過は、定圧条件か定速条件のいずれかで行われることが多いですが、遠心ろ過ではこれにより変圧変速条件(ろ過圧力とろ過速度がともに減少)となります。
……
>>第6回 第5章の続きを読む(PDFダウンロード)