「ゴジラのインパクトは10年間」実際に襲来で不動産どうなる、住宅評論家が解説

映画『ゴジラvsコング』が7月2日(金)に公開された。コロナ禍で公開日が延期されたという事情もあり、首を長くして待っていたファンの方も多いことだろう。

さて、『ゴジラ』といえば何十年にもわたって愛されてきた人気シリーズだが、作中では当然ながらたくさんの建物を壊してきた。

そこで今回は、物件価格や市場に詳しい住宅評論家であり、Yahoo!ニュース個人オーサーも務める櫻井幸雄氏に、これまでゴジラが壊してきた建物の被害額、ゴジラの活動によって影響を受けそうな土地の価格などについて、話を聞いてみた。

※本記事は映画『シン・ゴジラ』の重大なネタバレを含みます。未視聴の方はご注意ください。

ゴジラが来ても10年で住宅の価格は戻る

- 櫻井さんはゴジラの熱心なファンだとお聞きしています。

いままでの作品はほとんど観ていますね。

私は昭和29年生まれなので、ゴジラと同じ年齢なんですよ。

- そうなんですね!

いまや死語になりつつありますが、少し前までこの世代は「ゴジラ世代」と言われていましたからね。

特に、私が子どもの頃の映画館は、一度入れば何度でも同じ映画を観ることができたので、お弁当を持って朝から夕方までずっとゴジラを観ていることもありました。

- いい時代ですね。

そんなゴジラ世代の櫻井さんにお聞きしたいのですが、歴代のゴジラが壊してきた建物とそのルートについて、住宅専門家としてどう思われますか?

大前提として、ゴジラは基本的に海からあがって海に帰る生き物です。しかも、陸にあがると、いわゆるランドマーク的な目立つ建物を目指してすすんで行くんですね。

- かなり厄介な動きをしますね。

ですから海側は、ゴジラの被害にあいやすい地域だといえるでしょう。

いままでの作品内で被害にあってきた地域を見てみても、山側は非常に少ないんですよ。どうもゴジラは坂道をのぼるのが難しいようで、『シン・ゴジラ』でも鎌倉あたりのきつい坂道をさけるように移動しています。

海の近くで平らな地域、東京でいえば大田区の高級住宅街や、世田谷区の平らな住宅地あたりは、きっとゴジラの被害が大きくなりやすいでしょうね。

- 皆がゴジラを怖がった結果、海の近くの平らな住宅街の価格がさがる、といったことはありえるのでしょうか?

3〜5年に1回ゴジラが来るようになれば、海側の地域が嫌われることはあると思います。

海で災害が起きると、海側の値段がさがって山側の値段があがるという傾向があるので、ゴジラが継続的に来るようなことになれば、同じような住宅価格の変動が起きると思います。

- 「ゴジラが1回やってきた」ぐらいでは価格は変わらないということでしょうか?

やっぱり海側は便利な場所が多いんですよね。だから住宅市場でも、いまはまさに「海側の平らなところ」が好まれています。

高齢化が進んで「坂道がつらい、平らなところがいい」という人が増えたことで、いままで人気だった田園調布のような高級住宅街から、平らなところへと人気が移ってきているという傾向もあります。

ですから、1回ゴジラが来ても3〜5年で人は海側に戻ってくるでしょうし、価格も10年ぐらいでもとに戻るはずです。

- ゴジラでさえも人の動きを完全に変えることはできないんですね...!

やはり、いま住んでいる場所には「通勤に便利」「子どもが学校を気に入っている」「仲のいい人たちがいる」といった事情もあります。そういうものをすべて捨て、みんなが新しい場所に住むというのは難しいでしょうね。

- なるほど。ところで歴代のゴジラ作品を観てみると、どうもゴジラは四国が好みではないようで、ほとんど上陸していません。この場合、四国の土地の価格はあがったりするのでしょうか?

ゴジラが定期的な災害として定着すればありえない話ではないですが、それでも「いきなり四国の土地の価格が急騰する」というようなことはないと思います。

先ほど説明したように「ゴジラは山の方にはあまり来ない」という習性があるので、都心部に近い山の価格があがったり、いま海の近くにある都市を近くの内陸の街に移したり、という流れになるでしょうね。

- 現状に近い形で、ゴジラと共生していく流れになるということですね。

ゴジラは国内外にファンも多い人気シリーズですが、逆にゴジラが来たおかげで「聖地」になって価格があがるようなことはありえますか?

ありえると思います。「ゴジラにつぶされた家です」といえば世界中から見に来る人がいると思うので、ゴジラ特需は起きるでしょうね。

ちなみに、私が子どもの頃は「ゴジラに壊された会社は栄える」といううわさがあって、映画の中で壊されるとみんな喜んだんですよ。

 「ゴジラのインパクトは10年間」実際に襲来で不動産どうなる、住宅評論家が解説

私自身も、父の勤務先がゴジラに壊されたことがあって「お父ちゃんのところだ!」と弟と手をたたいて喜んだ思い出があります。

- なるほど...!住宅のお話だけでなく、長年のゴジラファンのリアルなエピソードが聞けておもしろいです!

シン・ゴジラの襲撃は埼玉県に有利

- 続いて、大ヒットを記録した映画『シン・ゴジラ』に絞ってお話をお聞きしたいと思っています。

『シン・ゴジラ』ではゴジラが首都圏を破壊しましたが、この被害総額はざっくりいくらぐらいになるのでしょうか?

総額の算出は難しいですが、関東大震災だといまの価値に換算して350兆円程度の被害があったと言われています。

阪神淡路大震災の10兆円、東日本大震災の20〜30兆円と比べると、とんでもない数字です。これは、首都圏に建物が密集していること、当時は火災の被害がいまに比べて大きかったことが原因です。

いまは昔ほど火災被害が大きくならないだろう点を考慮すると、おそらく同じ規模の災害が起きたとしても、被害は最大で50〜100兆円ぐらいでしょう。

しかも、ゴジラは地震と違い、基本的に自分が移動したルート上でしか破壊活動をしないので、実際は2〜5兆円ぐらいの規模におさまるのではと思います。保険でカバーできるぐらいの被害総額ですね。

- 保険ってすごいんですね。

ただ、ゴジラが一度出現してしまうと、その後の保険料はあがってしまうでしょうね。

あとは「ゴジラ保険」が新しく設けられ、その分のお金を余計に払わないといけなくなるということも考えられます。

- なるほど…!続いて、『シン・ゴジラ』ではゴジラが東京に2回やってきますが、この2回の襲撃のうち、どちらの被害総額が大きいのかお聞きしたいです。

金額でいえば最初のほうです。

東京湾をまたぐアクアラインを壊しているのは大きいですね。

- 東京側と千葉側を海底トンネルでつなぐ、巨大な高速道路ですね。

冒頭で「アクアラインの海底トンネルに亀裂がはいった」「水蒸気爆発が起きている」と報告が入るシーンがありますが、これは国土交通省からしたら本当に腹が立ったでしょうね。

このゴジラは、ものすごくお金がかかっているところを、集中的に壊したんですよ。

たとえば、東京都庁の総工費は1600億円、六本木ヒルズは2600億円、横浜ランドマークタワーは2700億円。大きな建物って、だいたい2000億円ぐらいなんですね。

これに対して、アクアラインは1兆4000億なんですよ。

- ちょっと想定外の金額でした...。

アクアラインを壊したあと、ゴジラなりに気をつかったのか被害が少ない川の中を歩いてくれているんですが、アクアラインを壊しているのでもう遅いです。

- 最初に登場した場所が悪すぎたんですね

そうですね。

最初のルートは工場地帯が多く含まれるため、住宅への被害は少ないのですが、最初に壊したアクアラインのおかげで、被害総額はずっと大きくなります。

- 逆に、二度目のルートでは大きく目立つ被害はないのでしょうか?

そうですね。ルート自体は長いのですが、意外と住宅が密集していないところを選んでいます。

ここでもやはり坂道をさけて歩いているので、それがよかったんでしょうね。

- 『シン・ゴジラ』では二度目の襲撃の最後に、東京駅にゴジラが封印されてしまいます。これによって住宅価格に影響などはありますか?

東京駅の近くにはオフィスビルが集まっているので、それらがすべて壊されたとなると、新宿・品川などにオフィスが移ると思います。いまでも人気が高い渋谷が、さらに脚光をあびることもありえます。

そう考えると、東京駅は千葉の近くにありますが、新宿・品川・渋谷は埼玉や神奈川の方にあるんですよ。

つまり、東京駅にゴジラが封印されてしまうと、千葉がかなり不便になって、埼玉と神奈川が便利になります。

ただ、神奈川は海に近いので、ゴジラが来るかもしれません。

なので『シン・ゴジラ』で東京駅が壊されたとなると、最終的には埼玉がうるおうことになります。

- ゴジラが来ると埼玉がうるおうとは...!

埼玉としては「ゴジラ様歓迎キャンペーン」とかやってもいいと思いますね。

- なるほど。映画だけでなく実際の生活にもつながるようなお話が聞けて非常におもしろかったです。今日はありがとうございました!

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】