有機ELの常識を覆す明るさ! 最上位4Kビエラ「HZ2000」の画音に惚れた

薄型軽量のイメージが強い「有機ELテレビ」。

確かに映像パネルそのものは薄型軽量だが、実際にテレビ製品となると堅牢な作りとする必要があるため、かなりガッチリとした作りとなる。TH-55HZ2000も最外周部分は実測で6mm程度の厚みだが、それ以外の部分は、本機よりも薄い液晶テレビもあるだろう。重量も同じで、4K有機ELテレビ製品は意外と重い。

TH-55HZ2000HZ2000シリーズは、65型と55型の2サイズをラインナップ

たとえば、TH-55HZ2000のディスプレイ部寸法は、122.5×76.1cm(幅×高さ)で、最薄部は0.63cm、最厚部は7.8cm。重量は、ディスプレイ部だけで約26.5kg、スタンド込みだと約34kgに及ぶ。同じ2020年モデルである4K液晶ビエラ「TH-55HX950」の画面寸法は123.1×71.6cm(幅×高さ)で、最厚部は7.2cm。重量は、ディスプレイ部だけで約23.5kg、スタンド込みで28.5kgだ。

有機ELテレビが厚く重くなっているのは、画面が歪まないようにするために堅牢なフレームと組み合わされていること、そして発熱と消費電力の大きさから放熱機構が大規模になりやすいところが起因している。有機ELには、液晶テレビの後に出てきたデバイスだけに、なんとなくエコなイメージがあるが、実はそうでもなかったりする。

大画面☆マニアでは、筆者はほぼ毎回一人で設置をするのだが、さすがにディスプレイ部だけで20kg代後半となると移動が困難なため、今回ばかりは2階の評価ルームまで担当編集と輸送することになった。重くなる一方の有機ELテレビだが、そろそろ軽量化の方向に舵を切ってもらえるといいのだが……。

2階への上げ下げ、スタンドへの合体作業はかなり体格が良くないと一人では無理。逆に二人いれば楽勝

スタンドは、ディスプレイ部の中央部と合体させる方式で、スタンド側の接地面は平板デザインとなっている。スタンドを設置場所に先において、ガシリとはめ込んでしまえば、ひとまずは重いディスプレイ部を手から離すことができる。あとはこの接合状態でネジ留めを行なえば完了。画面表示部をソファの座面などの柔らかい平面にうつぶせにおいて設置台と接合しなくていいのが救いか。

スタンド先進の転倒防止機構を搭載する

本機のスタンドは、どっしりと安定感のある平板タイプだ。

近年は「鳥足」のようなスタンドを画面の下辺両端に取り付けるタイプも流行しているが、この平板タイプは画面サイズよりも小さな設置台にも置けるのがありがたい。

設置台の接地寸法は実測で49.2×35.0cm(幅×奥行き)。画面が左右にはみ出していいのならば、このサイズの場所に置けるのだ。ちなみに、このスタンドは左右±15度のスイーベルに対応している。なお、チルト方向には稼動しない。

今回は面積的には小さめなテーブルに設置。画面が左右にはみ出ていいならば比較的小さい台にも設置は可能上から見た図公式サイトには「前後±15度」とあるが、前後移動するわけではない。正確には表示面が左右±15度に回転する

接地面からディスプレイ部下辺までの隙間は29mm。一般的なBlu-rayソフトのパッケージ2本分くらいの隙間になる。

額縁幅は実測で上約10mm、左右それぞれ約7mm、下約70mmとなっている。下はスピーカ部があるので大きい。低背のラックに接地する場合には画面が丁度いい高さに来そうだ。

表示面は(ハーフ)グレアといった感じで、部屋の情景は多少は写り込むがそれほどは強くはない。照明を暗めにすれば気にならないレベル。

蛍光灯照明下での視聴風景。画面の映り込みはあるにはある

本機は、スピーカーが凄い。

オブジェクトベースオーディオ技術のDolby Atmosを本機のみで再生出来るポテンシャルを有しており、なんと全15スピーカー・3.2.2chシステムを搭載する。内訳は、Dolby Atmosイネーブルドスピーカー2基(20W+20W)、ミッドレンジスピーカー6基+ツイーター3基(20W+20W+20W)、ウーファー4基(20W+20W)の総出力140W。標準的なサウンドバーを軽く凌駕する音響スペックを有している。

画面上部裏側に配置されるDolbyAtmosイネーブルドスピーカー部画面下部にはメインスピーカー群が配置される総出力140W、15スピーカーの配置はこのようになっている

オブジェクトベースオーディオに対応したスピーカーシステムということは、設置場所の音響特性の取得が必要になるわけだが、本機には専用AVアンプに見劣りしない音響キャリブレーション機能が付いている。

キャリブレーションには約2分ほどの所要時間が掛かり、調整中はマイクユニット変わりになるリモコンを自分の耳の位置に掲げておく必要がある。AVアンプ製品だとそうしたマイクユニットなどを固定しておく簡易スタンドが付くが、本機には付かない。調整を行なう際には自前でリモコンを視聴位置に固定するための工夫が必要だ。

キャリブレーションの設定画面キャリブレーション中は、マイクとなるリモコンを耳の高さに掲げ、静止していなくてはならない。筆者は椅子の上に載せた箱の上にリモコンを置いた。なおキャリブレーション中は、テストサウンドのインパルス音が大音量で鳴り響くので驚かないように

その音質だが、結論から言ってしまうと、これまでに聴いたテレビサウンドとしてはトップ5に入るクオリティだった。映画を見たときのサラウンド効果も素晴らしかったが(詳細は後述)、シンプルに音質がいい。

音楽番組の視聴に耐えうるのはもちろんのこと、評価期間中はPCを繋いで、本機をジュークボックス的に音楽再生機として活用させてもらったほどだ。「大がかりなサラウンドシステムを組む予定がなく、最新のサラウンド技術には関心がある」というユーザー層には、まず本機のサウンドシステムの体験から始めるとよいと思う。

バーチャルサラウンド機能関連の設定も充実している

定格消費電力は424W、年間消費電力量は205kWh/年。同画面サイズの4K液晶ビエラ「TH-55HX950」の場合は219W、131kWh/年なので、倍近い電力消費となる。まぁこれは、LGディスプレイのRGBWサブピクセル型有機ELパネルを採用した製品は、どれも同じ傾向なので仕方がない。

接続端子パネルは、画面向かって左側の側面と裏面にある。

側面側にはHDMI1・2端子がある他、ヘッドフォン端子、録画専用USB端子。そして背面側にはHDMI3・4端子、アンテナ端子類、光デジタル音声端子が並ぶ。最近の製品では珍しい赤白黄のアナログ系端子もある

HDMI端子は4系統。側面側がHDMI1~2、裏面側がHDMI3~4となる。なお、HDMI2のみがARC/eARC対応だ。

最近のテレビ製品にしては珍しく赤白黄のアナログビデオ入力端子を搭載している。SビデオやD端子などはない。赤白のアナログ音声入力端子はHDMI1~4の任意のアナログ音声入力用としても利用できるようになっている。以前のモデルにあったようなコンポーネントビデオ入力端子変換アダプタには対応しない。

USB端子は3系統。側面側のUSB 3.0端子は録画USBハードディスク接続用。背面側の2系統のUSB 2.0端子はカメラ機器、USBメモリーなどとの接続が想定されている。USBメモリーにHEVCやH.264で圧縮された4K映像動画ファイルを入れて本機に挿してみたところ、難なく普通に再生出来てしまった。また、試しにUSBキーボードとUSBマウスを接続してみたところ、これまためでたく認識。

ただ、対応度は十分とはいいがたい。本機のホームメニューからYouTubeアプリを起動したところ、YouTubeアカウント入力の際のメールアドレスの入力に“@”マークがUSBキーボードからは入力できなかった。英語キーボードでも日本語キーボードでもダメ。また、マウスカーソルは出現して動かせるものの、表示されているYouTubeの動画リストから直接再生希望の動画をクリックすることもできない。

ちなみに、マウスの右クリックを押すとソフトウェアリモコンが出現し、そこのボタンを押すことはできた。逆にいうとそれ以外のことが出来ない。最近は、テレビでもキー入力を求められる機会は増えているし、アイコンを選択する局面も増えているので、対応するのであれば、しっかりとした対応を希望したい。

この他、光デジタル音声出力端子、ヘッドフォン端子、アンテナ端子などが搭載されている。なお、デフォルトではヘッドフォン端子利用時はスピーカーから音が出なくなるが、設定することでスピーカーとヘッドフォン端子の同時出力も行なえた。

電源投入を行なって地デジ放送の画面が表示されるまでの所要時間は、実測で約4.0秒。HDMI間の切換所要時間は約2.0秒。まずまずの早さといったところだ。

リモコンは、ビエラ伝統の左右非対称デザインを採用最近は搭載機も減りつつある「2画面」機能を搭載。しかもリモコンから一発呼び出し可能。これは嬉しい。ただし、HDMI入力同士の2画面には非対応。必ず1画面分に放送画面を絡める必要がある

リモコンはビエラ伝統の左右非対称形状デザインのものを採用。上部に全体操作系、中央分放送チャンネル操作系、下段に録画操作系がレイアウトされる見慣れたものだが、左の付きだした部分に[AbemaTV]ボタン、放送種別切換に[4K]ボタンがあったり、と時代に合わせた改変がされている。

本体備え付けのスイッチ類

以前ビエラは、音声リモコンと通常リモコンが付属したこともあったが、現在は音声入力機能は通常リモコン側に統合され、[マイク]ボタンを押して離せばスマートスピーカー感覚で自然言語で操作ができる。「YouTubeで西川善司を検索」も普通に通じて、モードをYouTubeに切り換えて検索までを行なってくれる。テレビ本体にマイクはない。

ただし、そのリモコンでの音声操作も完成度は不充分。風呂上がりなどのタイミングで「BSテレ東を見る」「地デジのTBSを見る」と話しかけて見たが通らず。

有機ELの常識を覆す明るさ! 最上位4Kビエラ「HZ2000」の画音に惚れた

代わりに候補として近いものがアイコンで画面に表示され、結局それをリモコンの十字キーでカーソルを動かして選択しなければならなかった。「だったら最初からリモコンで操作すれば良かった」という“音声操作あるある”なUX体験から解き放たれるのは果たしていつの日か。

リモコン上部の小さな穴がマイク。マイクボタン(写真中央)を押して、マイクに話すと操作できるのだが……。できそうなことができない

ちなみにリモコンで「種別の違う放送へのチャンネル切換」は、まず「放送種別切換ボタン」を押してから「チャンネルボタン」を押すか、「番組表」を出してからでないと行なえず、こうした面倒なチャンネル切換が自然言語で一瞬でパッと切り換えられたら…と思う。

恐らく、多くの一般ユーザーはテレビ購入後、音声操作を絶対に試したがるはず。しかしそれが思い通りに動作しないことが数回あれば、二度と使う気にはならないだろう。誰もが使いそうな「当たり前な操作系」ほど「当たり前に動作できる」UX設計をお願いしたい。

以前のモデルで気になった操作レスポンスの“もっさり感”は、本機では全く感じられなくなっている。

Amazon Prime Videoアプリや、YouTubeアプリでの映像の再生制御もキビキビしていて、スマホやタブレット端末のそれと変わらない。こちらは素晴らしいUX体験が提供されていた。

前述したように本機は、スピーカーの音質もいい。評価期間中は、YouTube視聴を本機で積極的に行なっていた。ちょっと前まではテレビ製品でネットコンテンツを見るなんていう行為はまともにできやしなかったのだが、どうしてどうして。素晴らしい進化ぶりである。

主要なネット配信系サービスは[ホーム]ボタンから選択可能

画質面での設定項目は、概ね従来通り。PCやゲーム機、あるいはBD再生機器などを接続してモニター的な活用を考えている人は「オプション機能」の設定をチェックしたい。

「1080pドットバイ4ドット」は、フルHD映像の1ピクセルを4K映像パネルで2×2の4ピクセルで描画するモードでゲーム映像などで活用したい機能。超解像処理やアップスケール処理がキャンセルされて“ドットドットした(!?)”表示となるので、レトロゲーム映像などとの相性がよい。

「1080pピュアダイレクト」「4Kピュアダイレクト」は入力信号をYUV444であると見なし、クロマアップサンプリングなどを行なわないモード。これはPCやゲーム映像では絶対活用したい機能だ。デフォルトの「オフ」設定では色境界が曖昧な描写になることがある。

低遅延モードの「ゲームモード」は、オプション機能のところで設定できるピュアダイレクトON。画像データとしてはこの表示が伝送されているピュアダイレクトOFF。クロマサンプリングされると、余計な偽色がでる。映像ソースにあわせて選択したい

本機は、HDMI関連の設定をモニター機並みに細かく行なえるのが面白い。ただ、HDMI関連の設定メニューが「映像調整」側と「機器設定」側に分断されていて、やや分かりにくいのが難点。

まずは「映像調整」側の方だが、「HDMI画質連動設定」「HDMI EOTF設定」「HDMI Coloimetry設定」「HDMI RGBレンジ設定」「HDMI YCbCrレンジ設定」をいじることができる。

解説が必要と思われるものをピックアップして解説しよう。

「HDMI EOTF設定」はHDR映像の階調モード選択で「PQ」や「HLG」といった設定が選べるが、HDR10+を利用したい場合は「オート」と設定しなければならない点に注意。

「HDMI Coloimetry設定」は一瞬なんのことか分からないが、一言で言うと「色空間モードの設定」で、「Rec.709」「Rec.2020」などを選ぶことができる。「Rec.601」も選べるのがマニアック。

「HDMI RGBレンジ設定」と「HDMI YCbCrレンジ設定」は、HDMI階調レベルの設定に相当するのだが、RGBと色差で個別に設定できるというのがこれまたマニアックである。

オプション機能のメニューHDMI Coloimetry設定

「機器設定」側の方では「HDMIオート設定」「HDMI HDR設定」「HDMI2.1設定」が設定できる。

「HDMIオート設定」はHDMI伝送速度を選ぶもので、10.2Gbps対応の「モード1」か18Gbps対応の「モード2」を選択できる。UHD BDプレーヤーやPlayStation 5、Xbox Series X/Sなどの4Kゲーム機は「モード2」を選択しなければ性能を活かせない。

「HDMI HDR設定」は、「HDR設定」「HDR10+機能」「Dolby Vision」の各設定が行なえる。

「HDR設定」はHDR映像制御用のメタデータを無視するのが「ノーマル」で、対応するのが「ダイナミック」となる。「オフ」はSDR映像として処理する。「HDR10+機能」は「オフ」設定でHDR10+の映像が来てもHDR10映像として対処する設定となる。

「Dolby Vision」設定は少しイメージしづらいかも知れない。Dolby Visionは、ドルビーが独自に作ったフォーマットなので、本機でそのまま受け取って本機側でデコードするのが「モード1」、送出元でHDMI規格に則ったフォーマットにデコードして伝送させるのが「モード2」となる。「モード1」設定の方が懐が広い設定なので「モード1」にしておけばいいが、映像表示がおかしいと感じたときは「モード2」を選ぼう。

HDMI HDR設定Dolby Visionのモード設定

「HDMI2.1設定」は、HDMI2.1と共に誕生した自動低遅延モード「ALLM」と高帯域音声伝送に対応した「eARC」の有効/無効化設定だ。残念だが本機は、120Hz(120fps)入力や可変リフレッシュレート(VRR)には対応しないので、あしからず。

なお、PlayStation 5と本機を接続してみたところ、ALLMとeARCの正常動作を確認した。新世代ゲーム機ユーザーは要チェックの設定メニューである。

質問を受けることが多い、有機ELテレビの「焼き付き」問題についても触れておこう。

本機の「映像調整」-「画面の設定」に、焼き付き対策関連の設定が列んでいる。「画面ウォブリング」は、各ピクセルの経年劣化を平均化する目的で、画面全体を1ピクセル単位で微妙に動かすもの。PCやゲームの映像表示での使用頻度が高い人はオンで常用したい。なお、デフォルトでもオンだ。

「ロゴ輝度制御」は、放送局のロゴ表示輝度を制限させるものではなく、本機で静止画像を表示したままにしておくと、しばらくして起動するスクリーンセーバーの「VIERA」ロゴの輝度を制御するためのもの。

なお「高」設定とすると、逆に「VIERA」ロゴが“暗くなる”点に留意したい。にしても、この項目は「スクリーンセーバー輝度設定」とした方が分かりやすいと思うのは筆者だけではあるまい。

「パネルメンテナンス」は、焼き付いてしまった画面の焼き付き解消を試みる処理を行なうもの。所要時間は10分から80分に及ぶため、寝る前などのタイミングが適切だろう。

有機ELも液晶と同じで、同一色ピクセルを長時間表示すると、各サブピクセルを駆動するTFT回路上の駆動電極の電荷バランスが崩れてしまう。これが焼き付きの初期症状だ。「パネルメンテナンス」はこれを補正するもの。発光の源となる有機材質の経年劣化による焼き付きは解消できない点には留意したい。

「パネルメンテナンスメッセージ」は、システム側でパネルメンテナンスが必要とされるタイミングでパネルメンテナンスを促すもの。詳細は後述するが、本機のディスプレイは特別仕様ゆえ、高輝度な発光特性はあるものの、それと引き替えに焼き付きしやすいはず。PCやゲームの映像表示での使用頻度が高い人はオンにしておいた方が無難だ。

表示遅延については、今年から導入した新兵器「4K Lag Tester」で計測した。

計測画面モードは、解像度4K/3,840×2,160ピクセルの60Hz。計測結果は、映像モード(画質モード)が「スタンダード」の場合で119.5ms。60fps換算で約7.2フレームの遅延。「ゲームモード」を有効化すると、これが18.6msとなり、60fps換算で約1.1フレームの遅延となった。

この連載で何度も紹介しているが、LGディスプレイの有機ELパネルは、表示プロセスの最終段階で焼き付き防止機構が入る関係で、1フレームの遅延が免れない。その意味ではゲームモードの表示遅延が、理論値16.66msに極めて近い値になっているのは立派。

1フレームの遅延も許されないeSport系タイトルならともかく、1フレーム遅延は一般的なゲームであれば十分にプレイできる。

スタンダードの遅延は119.5msゲームモードの遅延は18.6ms。理論値に極めて近い値は立派