Supermicroのオーバークロック向けマザー「C7Z87-OCE」を試す

ゲーミングやオーバークロックに注力して設計したマザーボードとは言え、C7Z87-OCEはSupermicroのDNAが受け継がれている。まず1つ目として挙げられるのは“サーバーレベル”の設計思想である。

C7Z87-OCEはコンシューマ向けながら、同社のサーバーマザーボードをデザインするチームが担当した。電源のデザインを始め、フェライトチョークコイル、日本製固体コンデンサなど、サーバークラスの品質が求められる部品を装備。静電気保護のレベルもサーバーと同等。また、0~50℃の環境下における稼働保証、20万時間を超えるMTBFなども謳われており、これらもサーバー製品を基準としている。

一般的なコンシューマ向けマザーボードは、部品レベルで寿命がわかっていても、製品全体としてのMTBFなどは謳われていないのが大半だし、0~50℃という広い範囲で動作を保証するといった記載も見当たらない。このあたりはSupermicroだからこそ謳えるポイントである。

電源もサーバーの設計思想そのものである。オーバークロック向けのマザーボードの多くで採用されているデジタルPWMコントローラを採用する点は共通だが、本製品はあえて多フェーズ化を進めず、1コントローラあたり1フェーズというシンプルなデザインに抑えている。1コントローラで2フェーズ以上並列化して電流出力を稼ぐ設計が多い中、1フェーズに留めたのは、性能の低下と温度の上昇を抑えるためだという。

Supermicroのオーバークロック向けマザー「C7Z87-OCE」を試す

本製品ではCPUに6フェーズ、メモリに2フェーズ使っている。いずれも統合型のDriver MOSFET(DrMOS)を採用することで効率を高め、余分な電力消費を抑える。DrMOSはInfineonの「TDA21215」で、1フェーズあたりの供給量は51Wのため、CPUには合計で306W、メモリには合計102Wの供給が可能。CPUを極限までオーバークロックした場合の安定性は未知数だが、空冷環境下におけるオーバークロックでは十分すぎる装備と言える。

PWMコントローラは、CPU側にはPrimarionの「PX3746DDQ」、メモリ側には同じくPrimarionの「PX3743DDQ」を採用。データシートがないので詳細は分からないが、Supermicroの言う通りなら前者が6フェーズ、後者が2フェーズのPWMコントローラとなる。なお、Primarionは2008年4月にInfineonに買収されているので、電源周りの半導体はすべてInfineonで固められているわけである。

「オーバークロック向けの機能を充実させた」とするパッケージ6フェーズのDrMOS採用PWM電源部CPU側のPWMコントローラはPX3746DDQDrMOSにはTDA21215を採用するメモリ側もTDA21215。PWMコントローラはPX3743DDQ

品質や電源設計のみならず、もう1つサーバーらしい設計は、PCBへのこだわりそのものでも見られる。

一般的なコンシューマ向けマザーボードは、PCB配線は設計の煩雑性を省くため、45度、90度、135度のいずれかで方向を変え、信号のタイミングを揃えるのに稀に蛇状配線を行なう程度だが、本製品の配線は指紋のように不規則なものとなっている。

PCI Expressバス周りは配線が最短となるように角度が細かに調節されているほか、2本の線が回り込み、信号が同時に届く必要があるようなところは、内側の線を小刻みにジグザグにし、内側と外側の距離を同じにするような工夫など、かなり手が込んでいる。背面も、部品のピンの間をすり抜ける配線、ピンを微妙に回りこむ配線など、もはや芸術品の域に達しているレベルだ。もし信号の流れを可視化できたら、さぞかし面白いマザーボードになるだろう。

また、一見してゴチャゴチャしたPCBだが、これは配線や部品が多いのではなく、部品1つ1つに番号を割り当て、シルク印刷しているからである。こうした点は修理や改修を強く意識しているのかもしれない。

いずれにしても、使わずとも眺めていて楽しいマザーボードである。ここまで部品1つずつまで細かくこだわり見えるのは、さすがサーバー/ワークステーションのチームが手がけたモノだけのことはある。