第730回:複雑化するカーオーディオ そして復活を切望する「究極のボタン」 【マッキナ あらモーダ!】

近年、筆者が各国でホテルに滞在するときの変化といえば、「テレビを見なくなった」ことである。理由は、ずばり「操作が面倒」になったことだ。

「ホテルTV」などと名づけられたそれには、家庭用のスマートTVに似た初期画面が現れる。施設によっては「Benvenuto Sig.OYA(大矢さま、いらっしゃいませ)」などと、わざわざ客の名前までうやうやしく表示される。

問題はそこからだ。地上波チャンネルを映し出すのに、家庭用のそれ以上にボタンがあるリモコンを何回も操作する必要がある。

「ボタンを押し間違えて、有料番組(ペイTV)が始まってしまったらどうしよう」という恐怖が頭をよぎる。他人がいないのをいいことに「もう、まいっちんぐ」などと、古い日本アニメのセリフが口に出てしまう。

ようやく操作を覚えたころには、チェックアウトの日がやってくる。アメリカの安モーテルに置かれた古くさいRCA製ブラウン管テレビのほうが、よほど扱いやすい。

クルマに関しても、昨今は同じことが言える。

気がつけば、オーディオ操作の大半を大型ディスプレイに依存するモデルが増えてきた。

廉価モデルにも変化が見られる。1DINスペースに収まる従来型パネルではなく、操作はステアリング脇のサテライトスイッチで、動作状態の確認はメーターパネル内のインジケーターに依存するモデルが現れるようになった。

困るのはレンタカーを借りたときだ。恐らく車両の清掃要員が作業のテンションを上げるためラジオをオンにしたあと、消し忘れるのであろう。イグニッションオンと同時にオーディオが大音量で鳴り始めることが、たびたびある。

第730回:複雑化するカーオーディオ そして復活を切望する「究極のボタン」 【マッキナ あらモーダ!】

どうやってオフにするのか、駐車場内で数分格闘しなければならないのは明らかに時間の無駄である。ステアリングパッドで操作する車種でも、メーカーごとに位置や表示が違うので、同様に戸惑う。

逆に、ラジオを聴きたいときにも数分を要する。

そうした場面に遭遇するたびに思い出すのは昔のカーラジオだ。ダイヤルを「押す」、もしくは「ボリュームを最低位置から右に回す」でスイッチオン、「もう一度押す」か「ボリューム最低位置まで左に回す」とスイッチオフ。筆者が勝手に命名した「回してポン」方式だ。

近年の音声コマンドやジェスチャーコマンド、そして「Apple CarPlay」「Android Auto」は、それ以上の操作性をアピールしている。

しかし欧州において実装しているのは高級車、もしくはポピュラーカーの上級仕様のみで、いまだマジョリティーとはいえない。

いっぽうでラジオ放送の技術も進化している。

イタリアでは周辺諸国と同様、デジタルラジオの運用が開始されて久しい。「DAB(Digital Audio Broadcast)」と呼ばれるそれは、今では進化版の「DAB+」に進化している。

丘陵地が多く、かつて取材したプロのオーディオ取り付け業者をして、「FM波の受信には最悪」と言わしめるわがトスカーナ州で、デジタルラジオは福音といえる。

できれば、すぐにでも愛車で楽しみたいところだ。

ただし、筆者のクルマは車齢13年で走行15万km。イタリアの多くのユーザーからすればまだまだいけるが、いつ大きなトラブルに見舞われて買い替えを迫られるか分からない。

ましてや、ダッシュボードには新車当時、円換算で40万円近くした2DIN型メーカー純正オーディオ&ナビがきれいに収まっている。

なんとか現状維持をしつつ、簡単操作で新しいことを楽しめないか、と考えるようになった。

「フェラーリ・ローマ」は、「Apple CarPlay」と「Android Auto」に対応している。助手席側には専用のオーディオ&空調操作用タッチパネルが。
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第722回で紹介した「ダチア・サンデロ」のオーディオ操作は、ステアリングコラム右側から生えたサテライトスイッチで行う。パッセンジャーは、かなり操作しにくい。
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「イタルデザイン・ランチア・メガガンマ」(1978年)のインテリア。当時はコンセプトカーといえど「回してポン」の1DINラジオが付いていることが多かった。
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「メルセデス・ベンツ190E」(1993年)のダッシュボード。欧州では高級車といえど、このころまでは基本的にオーディオ無しで売られていたモデルがあった。
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参考までに「ランチア・ストラトス ゼロ」(1970年)のコックピットには……
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このような大型ディスプレイが提案されていた。テスラ各車のダッシュボードよりも数十倍未来感がある。
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