オムロン、台湾テックマンに出資 生産性向上を目指す新たな協調ロボット開発へ
オムロン株式会社は、台湾の協調ロボットメーカー テックマン・ロボット社(Techman Robot Inc.)への出資を合意したと2021年10月25日に発表し、翌26日に記者会見を行った。出資率は約10%。出資の完了は2021年12月を予定する。出資額は非公開。
オムロンとテックマンが10%の出資を合意オムロンは、テックマン社と2018年に戦略的提携を行い、同社の「TMシリーズ」をオムロンの販売網でグローバルに販売してきた。また、オムロンのモバイルロボット「LDシリーズ」とテックマンの協調ロボット「TMシリーズ」を組み合わせた移動型作業ロボット「モバイルマニピュレーター(MoMa)」を共同開発して、人と機械が協調するモノづくり現場の実現に取り組んできた。今回のテックマン社への出資を通じて、オムロンの各種ファクトリーオートメーション機器とテックマン社の協調ロボットをすり合わせた、革新的なロボットソリューションを共同開発することで安全性と生産性の両立における課題を解決し、製造現場における人手不足の解決につなげるとしている。■動画
作り方、作る人、作る場所の大きな変化と「i-Automation!」
オムロン株式会社 執行役員常務 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長 辻永順太氏オムロンの制御機器事業は2021年3月期連結決算で売上高 3,464億円。このうちロボットやサーボモーターなどの売上構成比は13%。オムロン株式会社 執行役員常務で、インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長の辻永順太氏は、「ものづくり現場では、作り方、作る人、作る場所の大きな変化が起きている」と背景を紹介。現場ではマスカスタマイゼーションによる超多品種変量生産への対応、労働力不足への対応、多拠点生産への対応などが求められている。加えて、新型コロナウイルス禍による新しい生産様式への対応が求められている。特にコロナ禍以降、「人のリスク」に関する意識が現場で高まり、レジリエンスを担保するために、省人化や自動化ニーズの拡大に繋がっていると感じているという。
モノづくり現場を取り巻く変化これらの課題に対してオムロンが提唱している独自の価値創造コンセプトが「i-Automation!」である。intelligent(知能化)、integrated(制御進化)、interactive(人と機械の協調)の「3つのi」で、製造現場を変えることを提案している。人と協調する賢いロボットが他の機器と連携しながら走り回るような工場だ。特にオムロンは、各種制御機器やロボットとの連携を強みとしている。
オムロン「i-Automation!」のアプリケーションオムロンのロボット事業
オムロンのロボット事業概略オムロンは2015年に米国Adept社を買収。現在のロボット事業は産業用、協調ロボット、モバイルロボットの3領域からなる。産業用ロボットの領域では「統合コントローラー」というコンセプトを導入。一つのコントローラーで各種機器を全て同期させて制御するという考え方だ。
統合コントローラーで機器を同期制御することでより高度なアプリケーションを実現「統合コントローラー」を使うことで、従来は人手でしかできなかった微妙な操作を自動化することや、完全なシミュレーション技術を確立した。ものづくりプロセスのDX化ニーズに応えるものだとしている。■動画
モバイルロボットについては交通管制ソフト「Flow Core」を使うことで最大100台のモバイルロボットを統合制御できるとアピールした。
モバイルロボットによる搬送工程の自動化8月末には新しいバージョン「Flow core 2.1」もリリースされている。■動画
協調ロボットとは、安全柵が必要なく人と同じ空間で作業ができるロボットだ。安全柵が入らないので面積あたりの生産性を上げることができる。オムロンでは2018年のテックマンとの提携以降、市場シェア1割程度を取っているという(オムロン ロボット担当者)。なおテックマンのロボットは他の代理店も取り扱っているが、オムロンからの販売分は「相応の割合」となっており、今回の資本提携に至ったとのことだった。なお、今回の提携について、テックマン社のホー・シーチー会長は次のようなメッセージを寄せている。
テックマン社のホー・シーチー会長
テックマンは、世界市場に浸透し、2018年に世界第2位の協調ロボットメーカーとなりました。 オムロンとの協働によりテックマンの協調ロボットは世界中での評価が高まっており、イノベーションを通じて人間の生活を向上させるという当社の使命の達成にもつながっています。私たちは、全てのビジネスの課題を解決し、人間と機械のコラボレーションに向けたスマートファクトリーソリューションを実現することを目指してきました。さらに、オムロンとの長期的な関係性を深める今回の提携は、両社にとって重要な機会をもたらすものです。両社で、急速に拡大しており、かつ要求水準が高いスマートマニュファクチャリング市場の課題解決に貢献できることを嬉しく思います。私たちのパートナーシップは、将来に向けて新しい革新への扉を開くと信じています。オムロンとテックマンは、柔軟性と拡張性に優れた協働ロボットソリューションを提供し、協働ロボットをスマートな製造現場において簡単かつ完全に統合できるよう、お客様をサポートしてまいります。
もっとも多い用途は工場内でのパレタイジング
テックマンの協調ロボットを使ったソリューションパッケージ例会見ではダイレクトティーチング、安全性、リレーソケット挿入のデモが行われた。ダイレクトティーチすることでフローチャートが自動で生成され、掴んだり離したりといった操作をハンドに対して教えることもできる。従来の産業用ロボットではこのような簡単な作業についても専門家によるプログラミングが必要だった。また、人と接触した場合には安全に停止することができる。また、カメラが標準搭載されており、別の工程の作業にロボットを移設することも容易となっている。
ロボットを直接動かすだけでフローチャートが自動生成されるこれまでの提携で多くのソリューションパッケージを生み出しているという。具体的にはマシンテンディング、パレタイジング、塗布、ネジしめ、研磨、バリ取りなどだ。もっとも多い用途は「工場内でのパレタイジング」とのこと。
新たな協調ロボットを2023年に市場投入へ
協働ロボットの市場推移予想オムロンとテックマンは今回の提携で新たなソリューションを生み出していきたいとしている。協働ロボット市場は今後2025年までの平均市場成長率25%で伸びると予想されている。だが、さらに大きな成長余地が残されている。協調ロボットは安全性を重視しているため速度が遅い。このスピードの課題をクリアすればもっと成長すると考えられている。また、柔軟な業務内容変更に対応させるためには、現状よりもさらに、より簡単な操作が求められる。辻永氏は「生産性と安全性の両立を実現できれば、新たな市場を創造できる。新たな市場を開拓するために新たなロボットを開発していきたい」と語った。産業用ロボットで築いた「統合コントローラー」のコンセプトを協調ロボットの世界にも持ち込み、安全性と生産性を両立し、同期しながら複雑な作業を行う世界を実現したいという。
統合コントローラーのコンセプトを協調ロボットに導入具体的にはシステム全体とのすり合わせ制御を実現することで新たなアプリケーションを生み出すことを目指す。また、Oneツールで立ち上げ時間短縮を目指す。
安全性と生産性の両立を目指すそして今後、2023年に新たな協調ロボットを市場へ投入し、2024年度にはロボット事業で600億円から700億円規模の売り上げ達成を目指す。
2024年度にはロボット事業で600億円から700億円規模の売り上げ達成を目指すロボットについては人と同じ作業ができることを目指すために、現状のおよそ2倍から3倍との速度を実現し、人と同じ速度で動作でき、かつ安全性を担保するようにする。他社に対する優位性については単体では簡易性を特徴とするが、「ロボット単体を販売するわけではなくアプリケーションとして販売する。周辺機器との組み合わせで幅と深さを広めていく。これは他社では実現できない方法だ」と語った。なお、これまでの販売実績などの具体的な数字は開示されなかったが、工程に沿った多くのアプリケーションを生み出しているという。新しい協働ロボットの販売形態等はこれから詰めていく段階で、現在は未定。また、テックマンのロボットアームとオムロンの移動台車を組み合わせた「MoMa」については、システムインテグレーター各社に提案している段階とのことだった(ciRobotics社の事例などを参照 https://robotstart.info/2021/04/14/moriyama_mikata-no126.html)。■動画
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