耳鼻咽喉科医がすすめる、感染症対策のための鼻の粘膜の乾燥予防。
鼻や口のなかを覆う粘膜が乾燥や炎症によって荒れると、細菌やウイルスと戦う免疫力が低下してしまいます。液で適度に湿った「うるうる粘膜」を維持するには、どうすればよいのかを紹介します。
粘膜は外敵との戦いの最前線。
人間の鼻や口はのどの部分で合流し、そのまま食道、胃、腸、肛門まで一本の管(消化管)でつながっており、その内側は粘膜によって覆われています。粘膜はカラダの内側でありながら呼吸や食べ物に含まれる異物に接する場所でもあるため「内なる外」とも表現される部分で、細菌やウイルスなど人体に有害なものが侵入してきたときに備えて、高い免疫力を持っています。しかし、粘膜の免疫力が高いのは粘液によって常にうるおっているからです。乾燥や炎症によって粘膜がガサガサに荒れてしまえば、免疫力は低下してしまいます。そこで、粘膜のうるおいを保つためにはどうしたらよいのか、インドの伝統医学アーユルヴェーダを診療に取り入れている、耳鼻咽喉科の医師である北西剛さんに話を聞きました。粘膜を荒れさせる要因は複数あり、適度に湿った「うるうる粘膜」を維持するためのルールを紹介します。
肌と同じく鼻の粘膜もオイルで保湿できる
いつも湿っているイメージの強い鼻の粘膜ですが、湿度が低い厳しい冬になると乾燥することも多くなるので、肌と同じく保湿して乾燥を予防します。
オイルを使って、 鼻の粘膜をしっかり保湿する。
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●鼻呼吸のメリット。鼻毛がウイルスや細菌などをからめとって侵入を防ぐうえ、鼻で吸った空気はのどを通るまでに適度に加温と加湿され、のどの粘膜を冷やさずにすむ。
空気が乾燥すると鼻の穴も乾燥する。
室内の湿度50~60%をキープ。
日本では冬になると空気が乾燥するため、夏よりもスキンケアに時間を割く女性は多いでしょう。しかし、肌が乾燥する環境は粘膜にとってもよくありません。粘液によって常に適度に湿っている鼻の粘膜も湿度が低いと乾燥し、鼻をかみたいのに鼻水が出ない、鼻の奥がむずむずするといった症状のドライノーズ(乾燥性鼻炎)になってしまいます。悪化すると鼻血が出てしまうこともあるそうです。「冬に多い鼻の粘膜の乾燥を予防するためには、まず加湿器などを使って湿度を上げる必要があります。湿度が40%以下になるとウイルスの活動性が上がり、粘膜の繊毛運動が低下しやすくなる一方で、60%以上になるとダニやカビが繁殖しやすくなります。加湿器を使うと湿度が急激に上がることもあるため、湿度計で正確な湿度をこまめに測れるようにしておくとよいでしょう」ただし、貯水部分で細菌やカビが繁殖すると空気中にまき散らすことになるので、こまめな手入れも大切とのことです。なお、布団が湿りそうだからと寝室で加湿器をつけるのを敬遠する方もいますが、その場合はどうしたらよいでしょうか。「マスクを着けて寝る方法も効果的ですが、今は寝るときまでマスクは着けたくない人も多いでしょうね。水気を絞った濡れタオルを枕元に置くのが一番簡単で効果的ですね」加湿以外で北西さんがすすめる鼻の粘膜の乾燥予防は、セサミオイルを鼻にたらすアーユルヴェーダの治療法です。鼻炎の症状を改善させた臨床の報告もあるそうで、期待できます。ユーカリやペパーミントなど、抗炎症作用があり鼻やのどの粘膜にやさしいアロマオイル、コパイバマリマリという南米産のケアコスメ、さらに乾燥した口のなかで雑菌が繁殖しないように口呼吸を鼻呼吸にすることなども、鼻の乾燥や炎症の予防に効果があります。ちなみに、花粉症で用いられる鼻うがいはインフルエンザや新型コロナの予防に有効でしょうか。「残念ながら、鼻うがいによる新型コロナの予防効果については、現時点では研究がなされていないので何も言えません。ただ、インフルエンザやこれまでのコロナウイルスの予防や発症後の早期回復には、鼻うがいが有効であるという研究結果がすでにありますので、今後の研究が待たれますね」