2020年代。テクノロジーと社会、生活はどう変わる?

キャンピングカーでノマド生活が若者の標準になる、のかも。

もう年末の声が聞こえてきたなーっていうか、あと少しで2020年代に突入です。この10年のテクノロジーやサイエンス関係では、スマホがものすごい勢いで普及したり、車が勝手に動くようになったりといろいろなことがあって、便利になったりちょっと不安だったりとこもごもですが、次の10年はどうなるんでしょうか?

米GizmodoのGeorge Dvorskyが各分野の専門家の予測を聞いていますので、以下ぜひ。


2010年代が終わりに向かう今、次の10年を見据えるときがやってきました。2020年代にはAIの発展やらあらゆるものの自動化、環境問題への対応、強力な遺伝子組み換え技術の実利用などなどさまざまなトピックがありますが、これらが一挙にやってくると世界はどんなことになっちゃうんでしょうか?

みんなAIに仕事を奪われるとかデザイナーベビーが生まれるとか、未来予測っぽいことはデタラメでも言えますが、専門家に聞いてみるともう少しトレンドがしっかり見えてきます。そんな大きな潮流を以下にまとめていきます。

新しい産業革命

まずこれまでもさんざ心配されてきたのは、AIが進化してさまざまな仕事が自動化され、人間の仕事が奪われることです。たしかに次の10年、世界中の働く人たちがAIやロボット技術によって破壊的な影響を受けるのは間違いなさそうです。

たとえば2018年の世界経済フォーラムの報告書では、オートメーションの結果として2022年までに世界で7500万人の職が失われるという結果が出ています。でもその報告書は、単に仕事がなくなるんじゃなく、関連して1億3300万人の職が生み出されるとも予想しています。つまり結果的には、5800万人分の仕事が増える見込みです。

ということはかなりの人が転職するはずで、その人たちは学び直しなり引っ越しなり、いろんな調整が必要になりそうです。AIか人間かの二者択一ではなくて、人間とAIが協調して仕事をこなすことがひとつの大きなトレンドになることでしょう。

『Ghost Fleet』『LikeWar』の著者で、『Burn-In: A Novel of Real Robotic Revolution』を近々刊行予定の作家P. W. Singer氏は、ロボットの反乱よりもロボティクス革命という視点で注目すべきだと言います。

「我々は今、蒸気機関や工場の誕生にも似た、産業革命の時代に突入しつつあるのです」Singer氏はメールで説明してくれました。「オートメーションとAIの波が社会のあらゆる分野に押し寄せ、農場から家庭から、戦場にまで応用されています。人間が自分自身では絶対に不可能だったほどの効率化やその道筋が生まれていくことでしょう。」

ある種の仕事がロボットやAIに取って代わられるとしたら、その主な理由は経済的なものです。経営者としては、オートメーションでお金を節約できるなら、結果として従業員を排除することがわかっていても、それを検討してしまうはずです。

Singer氏は、人類は最初の産業革命の痛みをすでに忘れていると言います。実際今、新しい技術が社会に浸透する中で、職場では仕事や役割が崩壊しはじめ、選挙では投票行動がさまざまな思惑に誘導され、あらゆる場面で法的・倫理的な難問が持ち上がり、新たな政治やイデオロギーが生まれています。次なる革命はもう始まっているんです。

「覚えていてください。前回の産業革命は、近代資本主義という概念から、社会主義、共産主義、その後数世紀かけて打ち消すファシズムといったイデオロギーまでも生み出したということを」Singer氏は語りました。

次なる「普通」に適応する社会

あらゆる動きにその反動があるように、2020年代の我々は社会や技術の変化に適応し、リカバーし、それをいかにフル活用するかを模索することになります。新しい働き方や、社会経済的な力関係の変化、今まで考えられなかったような住宅のあり方や交通手段、などなどに適応していく必要がありそうです。

ルイビル大学のAI研究者、Roman Yampolskiy氏は、今後10年間で人間と機械の能力差は開くばかりだと言います。

「機械は人間の監督なしでの車の運転も、心をつかむニュース記事の生成も、基本的な秘書のような仕事や投資といったさまざまな仕事の自動処理も、すべてできるようになります」とYampolskiy氏。「その進化の副作用として、人間と機械の間の認知ギャップも増大するでしょう。」つまりAIのほうが人間よりどんどん賢くなっていき、それは人間にとってうれしいことではない、ということです。

カナダの大手法律事務所・McMillanのプライバシー・データ保護グループとサイバーセキュリティグループの共同議長を務めるLyndsay Wasser氏によると、自動運転車、またはAV(Autonomous Vehicles)の普及の影響は「甚大」です。

「多くの産業が影響を受け、失業は避けられません。AVの影響が直撃するタクシーやトラックといった業界だけでなく、自動車保険やガソリンスタンド、駐車場といった関連産業も影響をこうむります」Wasser氏はメールで説明しています。

AVの幅広い普及は、人や家庭の交通機関に対するアプローチも変えていくといいます。

「近い将来では、AV所有のコストは低・中所得層にとって手の届きにくいものになるでしょう」とWasser氏。多くの消費者は自家AVの購入を見送り、AVを他の家庭とシェアするシステムを選ぶはずです。AVのメリットは、安全性向上や運転できない人への移動手段提供などいろいろと言われていますが、大きなリスクもあります。とくに、悪意のあるハッカーやサイバーテロリストが車のコントロールを奪えば、兵器にもなりえます。AVが作り出す膨大なデータは、深刻なプライバシー侵害の懸念にもつながります。評論家や政治家からは業界での自主規制にとどめるべきだという意見もありますが、政府・自治体によっては自動運転車を規制する何らかの法律を制定するところもあるかもしれません。」

NYU Rudin Center for Transportationのアソシエイト・ディレクター、Sarah Kaufman氏も、AVの登場は2020年代の目玉になると考えています。

「ヒトもモノも、すべてが車隊(fleet)として動くようになります」とKaufman氏。「タクシーも宅配便も、バイクもドローンも、全体としてコントロールされる車両群の一部として動きます。大都市では誰も車を持たなくなります。人は大きな知的ネットワークの一部として移動し、そのネットワークは利用者の予定や気分、体格や移動に求めるものをトラッキングしていて、それに合った乗り物をマッチングします。」

Kaufman氏は、たとえばスマートフォンが「あなたは昨夜ピザを食べすぎたので、今日は職場まで自転車で行ってくださいね」とか「今日はお子さんとその友だち3人をホッケーの練習に連れていくので、このSUVを使ってください」と指示してくる、といったことを予想しています。

路上の車同士はすべてお互いを検知し、衝突や対立を避けるべく完ぺきに調和して動く、とKaufman氏は予測します。そのため個々の動きは今より遅くなりますが、でもそれは「安全に、ユーザーのニーズに合わせて」行われると言います。

2020年代は家のあり方も劇的に変化し、多くの人にとって車上生活が普通になるとKaufman氏は予言します。

「21世紀のキャンピングカーは、都市の周縁が定位置となるでしょう」とKaufman氏。「キャンピングカーは新たなホームオフィスとなります。若い世代は常設の家を買うほどの経済力がなく、より多くの人がフリーランスで働き、ネット接続さえあればどこにでもいられるからです。すべての家はオフィスとなり、その逆も真となります。」

こうした2020年代のモバイルな開拓者たちは、転がる石のごとく定期的に引っ越し、行き先はそのときどきのシリコンバレーかもしれないし、気候変動による災害や悪天候を避けられる場所かもしれないし、砂漠で行われる新しい音楽フェスかもしれません。「新しい家兼オフィス兼キャンピングカーがノマドライフを可能にし、それは都市に新たな生命を吹き込むことでしょう。人々の流れは寄せては返しながら、今までになかったキャンピングカーライフを体験していきます。」

ディープフェイク、人間ハック…恐怖のテクノロジー

「AIの生成したフェイクニュースやディープフェイク動画は、人間が見分けようとしても、もはやあてずっぽうにしかなりません」前出のYampolskiy氏は言います。「このことは我々の民主主義や社会の団結にかつてない打撃を与えるだけでなく、プライバシーや安全性、セキュリティにおいても重大です。先進的なチャットボットがリアルで聞き覚えのある声を使い、パーソナライズしたプロファイリングを駆使して数十億人のユーザーをねらう、大規模なソーシャルエンジニアリング攻撃が爆発的に増えるでしょう。」

2020年代。テクノロジーと社会、生活はどう変わる?

Singer氏は、コンピューターネットワークでなく人間の意識を対象としたハッキングの急増を予見しています。いいねやシェア、真っ赤なウソを駆使して、アイデアをバイラルに広げていくのです。Singer氏にいわせれば、2016年の米国大統領選挙へのロシアの介入は、そんなハッキング工作がどこまでできるかの実験であり、その結果は「うまくいくし、有効である」という判断でした。

2020年代は、こうしたハッキングのターゲットである米国などの国が「相手の読みを覆し、押し返せるかどうか」の実験になりそうです。そこで求められるのは「(FacebookやTwitterのような)企業が、自身のプラットフォーム上の有害な勢力に対し、よりきちんと責任を取るようになること」、「民主主義国がデジタルの脅威から国民をよりよく守るために戦略を練ること」「市民が同じクズみたいな手法に何度も何度も引っかからないこと」だとSinger氏は言います。

ただ、2020年代にはハッカーもAIでますます強力になるので、押し返すのは簡単じゃありません。

ニューヨーク大学のメディア・カルチャー・コミュニケーションを専門とする准教授、Finn Brunton氏は、近未来に形になるふたつのテクノロジーを予見しています。

「ひとつめは、ほとんどまたはすべて合成の動画を作り出す技術です。その初期の産物としてディープフェイクがありますが、このような技術は急速に安価かつ容易になります。既存の画像や動画の自動分類技術も相まって、非常に小規模なターゲット、なんなら1回きりでも、カスタムのターゲティング動画をある程度オンデマンドで作れるということです。同様の画像が簡単なのは言うまでもありません」とBrunton氏。

これらフェイクの中には荒削りなものもあるでしょうが、それでも多くの人がだまされてしまうとBrunton氏は予想します。

この流れはBrunton氏いわく、「ボットやアルゴリズムが加速するサブカルチャーやコンセンサスによって激化」していきます。世論を操作したい人はTwitterに手を出すのではなく、「小さな隔離されたサブカルチャーを作り出し、強化し、増幅させることで自身の思想や信条をより広く、彼らが望む方向へと導いていく」とBruton氏は予想しています。さらに「この流れは、新奇な軍事的カルト誕生の前兆となります。DIYドローン爆弾などで武装しているかもしれません。リアルな世界と強いつながりを持たず、その必要も感じていない、そんなバラバラの個人からカルトが吹き出してくるのです」…ってBruton氏は淡々と語ってますが、背筋が寒くなります…。

僕個人的にも、2020年代には大物政治家または何らかの重要人物が、リモコン型や自律飛行型のドローンに殺害される事件が起こると思っています。こうした自律的殺人マシンを戦争で使うことや、そもそもそんな装置が存在していいのかという問題は、百家争鳴の議論を呼ぶことでしょう。

人工超知能への進化とAIバブル崩壊

AIの進化はますます予測しにくくなり、その挙動はときに説明不能、理解不能になっていきます。AIを理解できないのは一般人だけでなく、専門家も同様だとYampolskiy氏は言っていて、このAIブラックボックス問題は2020年代も引き続き大きなテーマとなりそうです。

AIがなぜどのように結論を出すのか、その全体像を解明するという課題は今後も大きくなるばかりだと考えられ、いずれ人間はAIの意志決定の輪から外されてしまいそうです。そうなれば問題はより巨大になり、より悲惨なことが起こってくるかもしれません。

AIの危険性という文脈では、汎用人工知能・AGI(Artificial General Intelligence)とか人工超知能・ASI(Artificial Super Intelligence)が話題になりがちですが、それらが2020年代に現れる可能性は非常に低いです。かといって完全に否定できるわけでもありません。

AGIとは、特定の能力(たとえばポーカーやチェス)だけでなくより幅広い能力を持つ人工知能です。AGIはいわば適応力、柔軟性、パワーと言う意味で、人間の知性と同じじゃないにしろ近いものです。いっぽうASIは人間レベルの知性より一段または数段インテリジェントで、とくにスピード、パワー、性能、リーチにおいて人間をはるかに超えてきます。AGIはコントロールできるかもしれませんが、ASIが登場したときに人間がそれを制御できるかどうかはまだ不明で、それが非常に悩ましいところです。AGIも2020年代には登場しないかもしれませんが、一応いつ来てもいいように準備はしておくべきです。

人間を超える知性を持ったマシンの登場時期については、1999年にフューチャリストのRay Kurzweil氏が「2045〜2050年頃までは出てこない」と予言したことが知られています。僕も可能性としてはそれくらいだろうと思います。それがもし2020年代に突如現れてくるとしたら、認知科学者なりコンピュータ科学者が、AGIでもASIでも生み出せる魔法の方程式をいきなり思いついた、みたいなとんでもない技術的飛躍が必要でしょう。

でもAGIが誕生すれば、機械が人間の脳をエミュレーションしたり複雑なアルゴリズム群を動かしたりする能力もますます高度化すると思われ、であればそこからASIまではそんなに間があかないはずです。ここでちょっと怖いのは、こうした次世代の考える機械の設計者は、人間でなく人工知能になるであろうということです。ASIは自分自身を生み出せるのです。

そんなわけで、2020年代にはパワフルなAIの危険性に対する社会の意識が急速に高まっていくでしょう。2010年代には環境保護とか気候変動対応の困難さが注目されていますが、それと同じような感じです。METI(Messaging to Extra-Terrestrial Intelligence、直訳:地球外知性へのメッセージング)のプレジデントで宇宙生物学者のDouglas Vakoch氏は、コンピューターが力を持ち機能的にも形態的にも人間に近づくにつれ、「我々はより脅威を感じ、我々の技術の産物が自分たちを超え、破壊すらするのではないかと恐れるようになる」とメールで語っています。

いっぽうSkypeの創業メンバーでのCentre for the Study of Existential Risk(直訳:存在リスク研究センター)の共同設立者でもあるJaan Talinn氏は、次の10年がこれまでの10年と「劇的に違うとは思わない」と言います。

「2020年代のテクノロジーのバックボーンは、いくつかの基本的かつ商業的価値のある技術の漸進的改善になると予測します。たとえばバイオテクノロジー、ナノテクノロジー、そしてAIです」とTalinn氏。「とはいえ、将来のテクノロジーによる潜在リスクを考えると、起こる可能性が高そうなことの分析で満足すべきではありません。可能性は低くとも、ありうることを考えておくべきです。」

Talinn氏が2020年代に起こるのを懸念しているのは、何らかの突発的なブレークスルーがあってAIが暴走すること、人工有機体の乱用や事故、そして技術の小型化によって「非国家主体(訳注:テロリストなど)が、名乗ることもなく大規模なダメージを与える新たな手段」が可能になることです。

「2020年代はおそらく、我々がAIをコントロールできる最後の10年になるでしょう」とYampolskiy氏は言っています。「AIの能力が高まるほどに、我々の日々の生活は、より深くそれに依存していきます。」

ジョージ・メイソン大学の経済学准教授でオックスフォード大学Future of Humanity Instituteの研究員でもあるRobin Hanson氏の予測は少し違っています。彼は2020年代、AIへの関心は今よりやや低下するだろうと考えています。

「自動化やAIに対する関心や懸念には、これまで大きなアップダウンのサイクルがありました。そして今は、1930年代頃のピークから数えて4回めのサイクルの終わりに近づいているようです」Hanson氏はメールで語りました。「なので次の10年に対する簡単な予想は、このサイクルがピークを超えたことをよりはっきり認識する、ということです。AIが騒がれすぎたという意見が出たり、投資やメディアでの露出が減ったりするでしょう。AI関連のカンファレンスやスタートアップ、AIの学科を履修する生徒などが少なくなるはずです。

ただしHanson氏は、2050年頃をピークとして次のサイクルがやってくるとも予測しています。

地球をハックせよ

AIの脅威は2020年代に増大しそうですが、気候変動も同じくです。残念ながら2020年代には、熱波や干ばつ、海水面上昇、暴風雨や洪水、山火事などなどといった自然災害と、災害まではいかなくても不快で不便な状況が、より頻繁になっていくと思われます。

世界各国は気候変動を防ぐために二酸化炭素排出量削減などの目標値を掲げていますが、結局それを守れずに現状維持が続く可能性は非常に高いです。米国は国際的な目標値の取り決めであるパリ協定から離脱してしまいましたが、そういう数値管理に代わり、未来っぽい(けどリスクもあるかもしれない)技術で環境をどうにかしようという試みが始まることでしょう。

提案されている手法には、雲の反射性を高める技術や、宇宙空間に巨大な反射板の建設、海に養分を流して二酸化炭素を吸収する生物を増やす海洋施肥、成層圏にエアロゾル(細かな粒子)を注入して太陽光を反射させる技術、などなどがあります。こうした「ジオエンジニアリング」(地球工学)といわれる手法の問題点は、失敗してかえって環境を悪化させるかもしれないことと、一度始めたらやめられないことです。それでも2020年代には、ジオエンジニアリングを試みようとする兆しや、具体的な手法が活発に議論されていくでしょう。

もちろん可能性としては、世界が力を合わせて二酸化炭素排出量を減らせるかもしれません。ただInstiture for the Futureの特別フェロー・Jamais Cascio氏によれば、もし目標値を達成したとしてもその効果はすぐには出てこないようです。そんな現象を「気候遅延」といいます。

「次の10年に直面し始める気候問題の難しさは遅延です。技術的には「履歴現象」というもので、つまり炭素排出量が減ってからそれが気温に影響するまでにはタイムラグがあるのです」とCascio氏。「熱慣性、土壌炭素、そして全体の複雑なシステムによって、炭素レベルに対する気温の反応は遅らされます。もし、今日人間がすべての炭素排出を止めたとしても、今後20〜30年ほどは気温上昇が続く可能性が高いのです。」

これは環境問題であると同時に、政治問題でもあるとCascio氏は指摘します。

「国民がときには何かを犠牲にしてまで生活を大きく変えることに合意しなきゃいけないのに、その成果が何も得られないとしたら、(政治家は)何を言えるでしょうか?」とCascio氏。「『もっとひどいことになったかもしれない』と言ってもめったに効果がありません。『信じてください、あなたのお子さんたちはきっと喜びますよ』でもたいして変わりません。」

より良く、パワフルなバイオテック

バイオテクノロジーも2020年代、進化を続けます。遺伝子を組み換えた「デザイナーベビー」の誕生までにはあと1、2世代かかると思われますが、今後10年間で重要な進歩があるはずです。米国など数カ国では実験目的なら人間の胚の遺伝子を組み換えていいことになりましたが、実験から数日以内に細胞を破壊することが条件です。この制限が2020年代に変わるとは考えにくいですが、2030年代になれば事情が違うかもしれません。

パーソナライズド医療、または精密医療は、2020年についに登場しそうです。パーソナライズ医療における医療者は、患者の病気の原因が遺伝でも環境でも生活習慣でも、処置や治療を患者のニーズに合わせて作ります。主に遺伝子分析を通じて行われ、ここでもAIが活躍するでしょう。機械学習アルゴリズムが巨大なデータからパターンを発見し、医療従事者は個人向けに調整した治療を仕立てます。

遺伝子編集ツールのCRISPRは今後10年にも引き続き波を作り出し、話題になりそうです。

CRISPR-Cas9の共同発案者でカリフォルニア大学バークレー校の生化学者トのJennifer Doudna氏は、今後10年で「CRISPRをベースに個々人に合わせた新しい薬やアプローチが生まれ、鎌状赤血球症や嚢胞性線維症といった非常に難しい遺伝子疾患の治療、もしかしたら治癒までできるかもしれない」と言います。また農業関連では、研究者がCRISPRを応用して「より栄養価が高くじょうぶな作物を作ったり、マラリアやジカウイルスのような感染症の伝播をコントロールすべく『遺伝子ドライブ』を作ったりするでしょう」と予言しています。

「遺伝子ドライブ」とは特定の遺伝子をより広く遺伝させるために有効とされる手法です。2020年代、蚊などの野生生物の集団の遺伝子操作を目的に最初の事例が出てくるかもしれません。ただ、こうした幅広い応用を責任を持って広げていくには、「(遺伝子ドライブの)使い方や規制について公の議論を続けることが不可欠です」とDoudna氏は言います。

新しい宇宙の見え方、そしてその中の人類

2020年代は宇宙への理解、もしかしたら地球外生命体への理解も、劇的に向上しそうな10年です。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や欧州超大型望遠鏡(E-ELT)といった次世代の望遠鏡は、我々の銀河に関する知識を再定義すること間違いなしです。前出のVakoch氏によれば、ここでもやはりコンピューティングの進化が地球外生命体探査をブーストする役割を担いそうです。

「宇宙の電波の中から明らかに人為的な無線信号をふるい出し、知的生命体を探している我々の天空探査は、今後間もなく加速できるでしょう」とVakoch氏。「2020年代末までには、人類は地球近くの100万星の調査を終えるでしょう。それだけ探査できれば、もし地球外生命体が存在して我々とコンタクトしようとしている場合、現実的にそれを発見するチャンスもあるというものです。」彼はこう付け加えました。「我々が宇宙で唯一の知的生命体なのかどうか、それを判定できる確率がこれほど高かったことはありません。」


そんなわけで2020年代には、すごく良いこと、すごく悪いこと、すごく奇妙なことがごちゃまぜでやってきそうです。退屈だけはしないですみそうですね。