メガネをかけるだけで、目に入る花粉の量を半減できる…産業医が提案「花粉症でも仕事効率を下げないコツ」

3/11 15:16 配信

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

花粉症による業務効率の低下を防ぐには、どうすればいいのか。産業医の池井佑丞さんは「花粉症患者の割合は国民の25%と言われている。集中力や判断力の低下は無視できない問題だ。個人と職場の両輪で対策をしたほうがいい」という――。■国民の25%は花粉症患者と言われている 近頃は暖かい日も増え、ようやく春の訪れを感じられるようになってきました。寒さが落ち着きはじめるこの季節、多くの方が気にされていることといえば、花粉症ではないでしょうか。 日本において、花粉症患者の割合は国民の25%ほどとも言われています。花粉症は花粉を原因とするアレルギー疾患の総称です。アレルギー症状を引き起こす花粉はいくつか種類があり、一年を通して各地で飛散しています。ですが、圧倒的にスギ花粉・ヒノキ花粉による花粉症に悩まされる方が多いため、それらの花粉が多く飛散する春先が主に花粉症シーズンと捉えられています。 この季節、花粉症にお悩みの方にとっては生活の質(QOL)だけでなく、集中力や判断力といったパフォーマンスの低下も無視できない問題となっています。■薬を飲んでも飲まなくてもパフォーマンスが落ちる 花粉症がどれだけパフォーマンスに影響を与えているのかについて、製薬会社のノバルティスファーマが行った調査の結果をご紹介します(ノバルティスファーマ「【グラフ集】花粉症重症度調査」2020年)。こちらの調査によると、花粉症により仕事や勉強、家事などに支障があると答えた割合は6割を超えています。症状がある時に集中力低下を自覚している割合も6割近くに上りますし、3割が仕事でのミスが増えると回答しています。 別の研究では、アレルギー性鼻炎による労働生産性低下に伴う経済的損失は年間4兆円を超えるとも試算されています(岡本美孝「鼻閉を伴うアレルギー性鼻炎に係わる経済的損失」医薬ジャーナル 50巻3号 2014年3月)。 パフォーマンスに影響する主な症状は、鼻水や鼻づまり、目のかゆみ等が挙げられます。これらの症状が睡眠を妨げ睡眠不足につながることで、日中の活動に影響を与えるケースも多いです。薬で花粉症の症状をある程度抑えることは可能ですので、花粉症対策として薬を用いている方は多くいらっしゃいます。ですが、花粉症の薬で眠気を感じた経験をお持ちの方や、眠くなりやすいので薬の使用をためらうという声も多く聞かれます。薬を使用してもしなくても、パフォーマンスへの影響度が大きいことが、花粉症のやっかいな点とも言えます。

メガネをかけるだけで、目に入る花粉の量を半減できる…産業医が提案「花粉症でも仕事効率を下げないコツ」

■抗ヒスタミン薬によって眠気や集中力低下が起きる ここで、花粉がアレルギー症状をどのように引き起こすのか、簡単にご説明いたします。花粉が目や鼻から侵入すると、くしゃみや鼻水・鼻づまりなどを引き起こす原因となる物質が分泌されます。その物質がヒスタミンです。一般的にアレルギーの薬は抗ヒスタミン薬が使用され、ヒスタミンの働きを抑制することで症状を抑えます。 次に、薬の使用がパフォーマンスに影響を与える仕組みも確認しておきましょう。人の体には受容体という構造があり、ここで外界からの刺激を受け取っています。体内でアレルギー症状が起きるのは、ヒスタミンを目や鼻の細胞にある受容体で受け取った場合です。 一方で、ヒスタミンの受容体は脳にも存在しており、こちらで受け取ったヒスタミンは全く違った働きをします。実は、ヒスタミンは脳においては覚醒や集中力・学習能力を高めるなどの重要な働きを担っており、抗ヒスタミン薬は脳におけるその作用をも妨げてしまうことがあります。花粉症の薬によって眠気や集中力の低下などの影響が出るのはこのためです。 このような、抗ヒスタミン薬の副作用としてパフォーマンスが低下する現象は「インペアード・パフォーマンス」と呼ばれています。眠気については自覚ができますが、集中力や判断力に関しては本人が気づかないままに影響が出る場合があるので特に注意が必要です。服用時の車や自転車等の運転・緻密な作業は禁止されている場合もありますので、薬の使用上の注意をしっかりと確認し従う必要があります。■メガネの使用で、目に入る花粉の量を半分以下にできる 以上をふまえ、花粉への一般的な対策を確認しつつ、パフォーマンスを下げないためにという視点でも、意識したい対策を考えていきたいと思います。 <基本の対策> マスク、メガネの使用 対策の基本は体内に花粉を侵入させないことです。外出の際にはマスク・メガネを装着し少しでも花粉が目や鼻に付着しないようにしましょう。コロナ対策としてマスクは当たり前となって久しいですし、花粉対策メガネも手軽に入手可能になっています。近年では一見通常のメガネと変わらない見た目のものも増えていますので、検討してみてはいかがでしょうか。また、通常のメガネでも、着用していない時と比べ目に入る花粉の量を半分以下に減らすことが可能です(厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業「的確な花粉症の治療のために」2015年)。 アレルギー症状には、花粉などのアレルゲンを吸い込んですぐに症状が現れる「即時性反応」と、数時間後に症状が現れる「遅発相反応」があり、花粉がない屋内などに移動した後にも症状が出るのは後者によるものです。花粉は広い範囲に存在していて、花粉のない環境に移動することは難しいので、触れる花粉の量自体を極力減らすことが大切になります。

■エアコンのフィルターは花粉が溜まりやすい 花粉を屋内に持ち込まない 外から花粉を持ち込まないために、屋内へ入る際には花粉を払い落としましょう。花粉が付着しづらい素材の服を着用するのもよいです。静電気の起きやすいウール素材、表面に凹凸の多い素材などは花粉が付着しやすいと言われています。化繊素材や表面がツルツルしたものは花粉が付着しにくく、付いた花粉も払い落としやすいです。また、昨今は換気が奨励されており、窓を開ける機会が多くなっていますので、花粉飛散情報をチェックし、状況に合わせて窓を閉める、窓開けを控えめにするなどの対応をしていただければと思います。 花粉を舞い上がらせない 屋内へ入ってしまった花粉は掃除で除去しましょう。その際には濡れ拭きが効果的です。掃除機は花粉を舞い上がらせてしまいますので注意が必要です。窓のサッシやエアコンのフィルターなどは花粉が溜まりやすい箇所ですので、こまめに掃除をすることをお勧めします。さらに、空気の乾燥も花粉を舞い上がらせやすくしますので、加湿器や空気清浄機を併用するのもよいでしょう。■コンタクトレンズはあまり使わないほうがいい <パフォーマンスを下げないために> コンタクトレンズの使用について 花粉が多い期間は、コンタクトレンズの使用を控えることが望ましいです。レンズの汚れに花粉が付着しやすくなり症状が悪化することがありますし、角膜を傷つけてしまうおそれもあるためです。どうしても使用したい場合は花粉や汚れはしっかりと落とすようにし、レンズを清潔に保つことが最も重要です。花粉の気になる時期のみワンデータイプを使用するのもよいと思います。 メガネが苦手という方は作業時、運転時などコンタクトレンズの使用は限定的にする、休日はメガネを使用するなど、できるだけ装用時間を短くするように心がけてください。目に違和感がある場合に無理に装用する事は絶対に避けてください。 薬の選び方 近年、“第二世代”の抗ヒスタミン薬が主流になり、市販薬の選択肢も増えています。第二世代とは、抗ヒスタミン薬の副作用の問題に対応して開発された薬を指します。これらは脳に移行しにくいため、比較的インペアード・パフォーマンスがあらわれづらいとされています。 毎年同じ薬を使用している方、眠くなるのは仕方がないと諦めているという方は、一度薬剤師に相談していただき別の薬を検討することもおすすめします。また、薬の服用開始タイミングも重要です。花粉症の症状がひどくなってからでは十分な効果が得られませんので、症状が出始めたらすぐに使用するようにしてください。

■花粉の季節はテレワークを活用できると理想的 職場でできる対策 オフィスに花粉を持ち込まない、花粉を取り除き舞い上がらせないなど基本の対策はもちろんのこと、制度面の整備を整えることが求められています。受診費用などを会社が負担する花粉症手当の導入や、休暇制度をつくる、ティッシュなどの消耗品や花粉対策メガネの購入費用などを支援するのもよいと思います。花粉の飛散が多い時期は積極的にテレワークを活用できるような環境整備もオススメです。 以上、花粉症とパフォーマンス低下についてお伝えしました。現状、職場での花粉症対策は不十分な場合が多く、まだまだ対策を講じる余地があると感じます。職場における花粉症対策について、対策が行われていると回答した割合は13.8%にすぎない一方で、会社に対策を希望する割合は60.9%にも上るという調査結果もあります(エステー「花粉対策と仕事における生産性への影響に関する実態調査」2019年)。パフォーマンスを下げない環境作りは個人の対策・職場の対策の両輪で成り立つものであると考えます。----------池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)産業医プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。----------

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最終更新:3/11(金) 15:16

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