ニュース・医療維新 コロナ禍で「成績は下がっている」、医学部も対面授業困難に-高橋智・名市大医学部長に聞く◆Vol.1

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は医学部教育にどのような影響を与えているのか。また、医学部を有する大学が果たす役割はどのように変わっていくのか。日経グローカルの「大学の地域貢献度調査」で2021年は全国総合1位にランクインした名古屋市立大学医学研究科長・医学部長の高橋智氏に2021年を振り返っていただき、2022年の展開を聞いた(2021年12月2日にインタビュー。全2回の連載)。

名古屋市立大学医学部長の高橋智教授

──2021年を振り返り、新型コロナを巡る動きで興味深かったこと、困難だったことは何ですか。

 学生の講義が対面でできなかったことです。どの学年でも「試験結果を見ると成績が下がっている」という声が聞こえます。全部オンラインになると、授業でもネットをつなぐだけつないで、どこかに行ってしまう学生もいます。病理では顕微鏡実習の代わりにオンラインで絵を描かせるなどしましたが、身にはなっていないと感じました。教員としても、反応が見えないので生徒がいるのかいないのか分からず、質問をどうぞと言っても誰も質問をしてこず、非常につらいです。

 コロナ禍で最も困難なことは、学生への対応です。大学には来てほしいけれど、我々教員は病院での勤務もありますから、感染すると病院に持ち込んでしまうことになるので、なるべく学生には接触しないようにしたい。けれど遠ざけるのは教員として難がある──。同時に学生が普段どのような生活を送っているかが分からないですから、非常に怖い面もあります。どの塩梅が良いのか、対応がとても困難でした。

 講座によっては学生が出入り禁止のところもありましたし、病院実習でも患者さんとどの程度接触させていいのか、常に考えて行っているようです。今までだったら外来で学生に出てもらっていた場面を止めるとか、手術室でも立ち入り可能な範囲を変えるとか、対応は講座によってさまざまです。色々な思いがあり、対応できる範囲がある。学内も一枚岩とはいきませんでした。

──名市大ではどのようにオンライン授業の対応をしてきたのでしょうか。

 愛知県に緊急事態宣言が最初に出たタイミング(2020年4月)で、それを理由に対面授業からオンライン授業に移行しました。2021年6月ごろからは、学生からも「どうしても大学に行って授業を聞きたい」などの要望が出てきたため、オンラインと対面の両方を開催するハイブリッド形式に移行しました。この頃には、学生の95%近くが既にワクチンを接種しており、大学で接種状況を把握していたことも後押しとなりました。

 2022年1月からは対面授業に戻すことを通達しています。親御さんからのクレームも来ましたし、オミクロン株の影響で実際どうなるかは分かりませんが、極力対面に戻したいと考えています(2022年1月の第1週は対面授業を実施したが、新型コロナの感染者が急増したため、2週目からにはハイブリッドに)。学生のためにもそれが一番良いと思います。学生同士の交流もなく、友達も作りにくい状況ですから。

──学生に向けて、何か行動規範のようなものは示していますか。

 医学研究科のみならず、全ての研究科に流行当初から通達しています。毎日症状を確認して体温チェックをしてから通学をすること、アルコール消毒をすること、不必要な活動はしないこと、食事は2人以下ですること──などですが、実際にその通りに行動しているかは分からない難しさがあります。部活動には遠征等を除くと基本的に制限はかけていません。病院実習をしている学生はそれなりの自覚を持って行動している印象ですが、1~4年生に徹底するのは難しさを感じます。

──オンラインの方が優れている部分があるという声もあります。

ニュース・医療維新 コロナ禍で「成績は下がっている」、医学部も対面授業困難に-高橋智・名市大医学部長に聞く◆Vol.1

 大学院の講義はオンラインと相性が良いと思います。院生のほとんどが社会人の医師であり、遠方の病院から講義に来るのが大変な中、院内からオンラインでつなげて聞ける講義はかなり好評でした。

 非常勤講師の方にも、遠くから来ていただく必要がなくなるのも良いですね。しかし、学内の職員が講師を務めたり、医学部生の授業の場合は、やはり対面が良いと思います。

──対面授業の重要さはどこにありますか。

 医学部としては実習ができないことが辛いです。顕微鏡に触れない医師が生まれてしまうのは問題ですが、顕微鏡を授業ごとに100機以上消毒するのは厳しいです。全員をアクリル板で仕切るのも困難ですし、相談しながら勉強させることもできない。普段であれば当たり前の事でしたが、こういうことが大事だったのかと痛感しています。

 教育がうまくいかないことで、アンプロフェッショナルな医師、不適切な行動を取る医師が生まれてしまうことを危惧しています。

──今後も感染症が起きるかもしれない中で、医学部教育はどうあるべきでしょうか。

 質を確保するためには対面が大原則だと思いますし、全国の医学部は今そちらに向かっていると思います。最低でもハイブリッドで実施し、対面の学生とオンラインの学生を半分ずつ入れ替えていくなどです。ただ、このことは大学の医師だけで決定できることではありません。緊急事態宣言が発出されている中で通学を通達すると、「なぜこんな状況下で学生を大学に集めるんだ」と学生の親御さんからクレームも来ます。非常に難しいです。

──対面授業を実施するために、どのような感染対策を行っていますか。

 感染者が出た際に濃厚接触者の範囲を特定できるように座席を指定するようにしています。窓がある講義室は窓を開けて換気し、窓がない場合もサーキュレーターで風を流したり、空気清浄機を入れたりと試行錯誤はしていますが、これ以上必要なことはなんだろうかと考えます。

──オープンキャンパスなど、未来の医師を集める活動にも支障を来していそうです。

 高校生を対象にした研究室体験は今、完全に中止しています。高校生は普段の行動もワクチンの接種状況も分かりませんしやむを得ないですが、非常に残念です。オープンキャンパスを見る限り、医学部を目指してくれる子はまだまだ多いなと感じますが、研究室体験で興味を持ち、将来研究に興味を持ってくれる学生にぜひ医学部に入ってほしいので、はやくもっと進めて行きたいですね。