感染対策の「アクリル板」実は逆効果?「空気が滞留、換気阻害」の指摘…複数の感染対策併用が必要
これまでの新型コロナウイルス感染対策は通用しないのか。オフィスや飲食店などでよく見かけるアクリル板やビニールカーテンの仕切りだが、状況によってはウイルスが漏れたり、換気を阻害するなど逆効果になるとの指摘が出ている。
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5日の東京の新規感染者数は1853人で、14日連続で前週の同じ曜日を下回った。減少傾向が続く一方、都のモニタリング会議では「職場での感染者数は極めて高い水準」との指摘もあった。
英政府の緊急時科学助言グループが7月に出した研究では、アクリル板などの仕切りは、勢いのあるせきなどで出た大きな粒子については効果的だが、会話などで吐き出される低速度の小さな粒子は部屋の空気に混ざってしまい防ぐことが難しいと指摘された。
浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫氏は「デルタ株は感染力が高く、口から発するウイルス量も増えるため、会話などによるエアロゾル(霧状に浮遊する粒子)感染のリスクも増える。大半は飛沫(ひまつ)が原因なので飲食店などの仕切りをネガティブに捉える必要はないが、完全には防ぎきれず、大きなものは空気の流れを阻害する可能性もある」と語る。
電気通信大の石垣陽特任准教授(情報工学)らの研究チームは、東日本で発生した事務所クラスター(感染者集団)の調査を実施した。
広さ180平方メートルのオフィスは高さ約1・6メートルのビニールで4区画に仕切られ、天井付近が約80センチ空いていたが、入り口から遠い区画を中心に10人超の感染者が出た。
チームは実際の現場と研究室でドライアイスやスモークを使って空気の流れを再現した。1カ所ある入り口のみ開けて換気した場合、感染者を多く出した区画で空気が滞留した。
石垣氏は「飲食店などの小さいアクリル板は直接の飛沫対策しか効果がない。大きな仕切りも飛沫対策には効果があるが、空気が滞留し換気の妨げになる。特に仕切り内に複数いる場合は危険な状態になる」と話す。
ドライアイスによる二酸化炭素(CO2)濃度は入り口付近から徐々に下がったが、約10分経過しても濃度は10%しか下がらなかった。これに対し、窓を開けた状態では10分で60%以上減、窓開けに換気扇を加えると、10分で90%近く減少したという。
石垣氏は「窓を開けたり換気扇を付けたりできない場合、空気清浄機での浄化が必要だ。1つの対策だけでは穴があるので、マスクや換気など複数を組み合わせた方がいいだろう」とアドバイスした。
窓を開けられない場合もある。
前出の矢野氏は「職場などで換気できない場合、社員同士の距離を1~2メートル離す必要がある。換気装置もウイルス排除に効果があるか分かっていない点も多いためエアロゾルをゼロにするのは難しいが、薄める努力が必要だ」と語った。