つまらない専門書とおさらば 広告担当のための景表法ケーススタディ 第3回
景表法に関する判例を見ていくコラム第3回今回は空気清浄機事件を見ていきます。
空気清浄機事件とは
皆さん、こんにちは。インターカラーの田中です。前回はクロレラの事件で医薬品的な表現は危険であることを確認しました。今回は空気清浄機事件という高裁の裁判例を取り上げます。2つの裁判で大きく異なる点があります。クロレラ事件では原告は消費者団体でした。消費者の利益を損なう広告だから差し止めろと、消費者が裁判所に訴えたのでした。しかし今回の空気洗浄機事件は先に公正取引委員会が「この広告はダメ」と排除命令を出しています。それに対して企業が「納得できない」と提訴した裁判です。というのも、ライバル企業も似たような広告を出していました。なのに原告の広告だけ問題があるから引っ込めろと命令されたのです。なぜに公取?というお話を少々します。景品表示法は平成21年に消費者庁ができる前は公正取引委員会の所管でした。公取は国家行政組織法第三条に基づく委員会で、れっきとした行政組織です。
広告の内容と事件の流れ
前置きはここまでにしてケースを見ていきましょう。原告は店頭配布用のチラシと毎日新聞の広告に、次のような文章で自社の空気清浄機を宣伝しました。_____________________________・電子の力で花粉を強力に捕集するだけでなく、ダニの死骸・カビの胞子・ ウイルスなどにも有効な頼もしい味方です・有害微粒子を集塵・フィルター式では集塵が難しい微細なウイルスやバクテリア、カビの胞子、ダニの死骸の砕片までもホコリと一緒に捕集します・適用範囲/最大14畳まで・目に見えない有害物質を確実に集塵します・フィルター式では集塵が難しい微細なウイルスやバクテリア、カビの胞子、ダニの死骸の砕片までもホコリと一緒に捕集します・驚異の集塵力・集塵紙上でウイルスの捕集を確認・ハウスダストもウイルスも捕れる・目に見えるタバコの煙をファンで取り除くのとは違う次元で、目に見えないアレルゲンやサブミクロン・サイズのウイルスまでも 取り除くことが実証されています_____________________________ちなみに競業他社は次のような広告を出していました。_____________________________・従来のフィルター式清浄機と異なり99パーセント以上の驚異的集塵力を発揮。ウイルスまでも集塵して除菌・フィルター式では取れない細菌やウイルスなども逃しません・「こんなものを除去します」として「ハウスダスト・ペットの毛、フケ、ダニのフン・死骸、花粉、カビ胞子・カビ臭、ウイルス・雑菌、タバコのニオイ・煙、排ガス(NOX)・粉塵」・独自のパワフルなクーロンULPAなら空気中の汚れを吸い寄せ、0.15マイクロメートルの微細粒子を99.9995%除去。それよりも小さな0.006マイクロメートルのウイルス並みの微細粒子も99.9999% とさらに高い捕集率を発揮します・空気中に浮遊しているウイルスは風邪など病気の原因になります・花粉・タバコはもちろん、ダニやウイルスもしっかりキャッチ・お部屋の空気中を浮遊するウイルスや雑菌をすばやく取り囲みます・ウイルス、カビなど雑菌類の繁殖を抑制・チリやホコリ、ウイルスも強力に除去___________________________どちらも電子式の空気清浄機はフィルター式よりも性能がよいと言っています。しかし片やセーフ、片やアウト。納得がいかないこの会社は公正取引委員会の審判で排除命令は違法であると主張して争いましたが、それでも違法だという審決がでました。公正取引委員会の出した命令を公正取引委員会で争ってもらちが明かんとして、審決の取り消しを求めて東京高裁に訴訟提起したのがこの事件です。ここでも原告は負けます。さらに最高裁に上告受理申し立てをしたものの退けられ、判決は確定しました。
東京高裁の判断理由
原告と同じく、これらの広告に大きな違いはないという印象をうけた人もいると思いますが、それでも東京高裁が原告の広告に問題があるといったのはなぜでしょうか。その理由を分かりやすくまとめると、①この広告は、原告の空気清浄機が他のフィルター式空気清浄機よりも集塵力が高く、また、空気中のウイルスを‘‘実用的な意味で‘‘捕集する能力を有していることを表現したものである。②原告の空気清浄機はフィルター式よりも集塵力が低く、また、空気中のウイルスを‘‘実用的な意味で‘‘捕集する能力を有していない。③一般の人が②を知っていれば原告の空気清浄機を買うことはない。広告からイメージする空気清浄機と実際のそれがかけ離れていて、消費者に誤解を与えるのが理由です。
2つの広告、どこが違うか
では、原告の広告と他社の広告、いったいどこが違うのでしょうか。見比べると原告の広告は「有害物質を取り除く」「14畳(ワンルーム位)であれば効果がある」ことを強調しています。特にウイルスを取り除く効果を売りにしています。それに対して他社の広告は「フィルター式で取れるものに加えて、ウイルスも捕集できる」程度の表現に抑えています。どうやら、明暗を分けたのは「ウイルスを除去することで、ウイルス感染症を実用的な範囲で防止する能力があるという印象を与えてしまう」ことにありそうです。ハウスダストを取り除くだけなら大して必要ではないけど、インフルエンザ予防に効果的なら買おう!みたいな誤解を与えてしまうのではないかと東京高裁は言いたかったのでしょう。ちなみにこの裁判は平成14年に判決が出ています。令和に入った現代でも空気清浄機の効果は議論があるのですから、平成初期の空気清浄機でウイルス除去に言及すること自体が問題であり、そういう意味では原告の広告だけでなく他社の広告も違法と言われる危険は高いのではないかと思います。
裁判所のスタンス
それにしても2つの案件で裁判所の対応は大きく異なります。行政機関が判断した案件では、裁判所はえらく強気になるなと。思い出してください。あれだけ真っ黒なクロレラ事件でさえ、高裁も最高裁も差し止めを命じていません。うまく逃げています。裁判所が自ら憲法21条の表現の自由に挑戦するのは嫌だけど、行政機関が責任とってくれるならどーぞという感じなのでしょうか。日本はやはり行政が強い国なんですね。その是非を論じることはこのコラムの主題ではないので置いておきます。役所の判断を見ておくことが大切ですよと申し上げて、第3回を締めます。
次回予告
さて、次回取り上げる事件は、某有名家電量販店Xが同業他社Yに損害賠償を請求した事件です。本来ならもっと粗利が高かったはずなのに、他社が不当な広告をしたせいで利益が出なかった。Xは「本来得られたはずの粗利を賠償しろ」と主張し、争いました。問題となったYの広告がこちらです。・当店はXさんよりも安くします!!・万一調査漏れがありましたらお知らせください。お安くします。・処分品、当社原価割れにあたる商品は原価までの販売とさせていただきます。本当に全商品をXの設定した値段より安くしているのであれば、広告としては問題ないのでしょう。しかし家電量販店の全商品を毎日チェックして毎日値札を変えるのは現実には不可能です。実際、「Xさんより安くない」こともありました。事実に反する以上、この広告は違法なのでしょうか。もう一つ、「他店チラシ掲載売価より更に10%以上安くします」という広告を出した場合はどうでしょう。是非考えてみてください。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。