パナソニック、テスラとの関係に津賀社長が言及した2018年度決算説明会

 パナソニックは5月9日、2018年度連結業績を発表。売上高は前年比0.3%増の8兆27億円、営業利益は8.1%増の4114億円、税引前利益は10.0%増の4164億円、親会社の所有者に帰属する当期純利益は20.4%増の2841億円と増収増益になった。

 パナソニックの梅田博和取締役常務執行役員兼CFOは、「売上高は前年並となったが、すべての事業セグメントにおいて営業利益が減益となった。年金制度の一部見直し、資産売却などの一時益により、全体では増益になった」と総括したほか、「オートモーティブ&インダストリアルシステムズは、中国市況の悪化によるインダストリアルの減販影響があったものの、オートモーティブおよびエナジーが伸長し、全体では増収となった。だが、営業利益は、オートモーティブでの開発資産の減損やインダストリアルの減販損などにより減益となった」と述べた。

パナソニック株式会社 取締役常務執行役員兼CFOの梅田博和氏

 セグメント別業績では、オートモーティブ&インダストリアルシステムズは、売上高が6%増の2兆9831億円、営業利益は40%減の564億円となった。また、アプライアンスの売上高は前年比1%減の2兆7506億円、営業利益は20%減の859億円。エコソリューションズは、売上高が前年比4%増の2兆361億円、営業利益は20%減の646億円。コネクティッドソリューションズの売上高は前年比2%増の1兆1277億円、営業利益は9%減の944億円となった。

 パナソニックはテスラ向けの電池生産を、同社と共同で、米ネバダ州のギガファクトリーで行なっている。先ごろ、テスラのイーロン・マスクCEOが、テスラ「モデル3」の生産においてパナソニックの電池生産がボトルネックになっているとツイートしたことで株価に影響を与えた。今回の会見では、パナソニックの津賀一宏社長が、そのいきさつについて言及した。

 津賀社長は「テスラとパナソニックは単なるサプライヤーとしての関係ではなく、パートナーという認識で一致している。一蓮托生である。血のつながっている家族であればモノが言いやすいのと同じで、単なるサプライヤーの関係では言いたいことも言えない。そうした関係において、お互いにポロッと出たことが、そうした影響を及ぼした」と説明。

「私自身、イーロンとのコミュニケーションをより密にする必要があると考えており、変な誤解を生むことは避けなければならないとも思っている。3か月に1度、米国に行き、イーロンに時間を取ってもらって忌憚のない話をすることを繰り返している。その中で、ときどきお互いに言いたいことが出てくる。あの発言があったときには、パナソニックの電池がボトルネックだったかもしれないが、その前はテスラのモノづくりがボトルネックであった。どちらかが頑張れば、どちらかがボトルネックになるのが普通である。オーバーキャパシティでやってもうまくいかない。両社で両輪をうまく回しながら、フル稼働状態を維持することがこのビジネスの成功パターンといえる。その両輪の回り方が少し違う状況になるのはよくあることだ。関係は極めて良好である」とした。

 また、「乾電池の事業は、自分たちのペースで、自分たちがやりやすい場所で、自分たちの価格で、増産量も自分たちで売れるだけを作っていくといったように、すべてを自分たちで決めることができる。だが、テスラのギガファクトリーでは、場所も量もテスラが決めて、価格は交渉で決まる。現地の人を雇って、教育して、しかも辞める人が多いなかで、どう人材を確保するかという点でも大きなリスクがある。ドタバタしながら、やっとモデル3の立ち上げにかろうじて追随できた。その分、大きなコストがかかり、無駄もあった。それによって利益を圧迫した。しかし、35GWのフル生産に向けた設備投資は終わっている。あとはいかに生産性を上げて、1本でも多くの電池を品質よく、歩留まりよく作っていくかが今年の最大のテーマになる。そこに注力すれば、収益が上がることになる。工場の最大のリスクはなにか。それは、投資したものの設備が稼働せず、十分な本数が売れないという状況である。テスラはEVだけでなく蓄電池事業もやっている。キャパシティをフルに稼働させるだけの購買力がある。それを前提にすれば、この事業の早期の黒字化は考えやすい」などとした。

 なお、凍結されたとの一部報道があった今後の投資については、「今は投資した設備で、1本でも多くの電池を作ることが最優先である。まだ高速ラインという生産性の高いラインがフル稼働していない。また、18650から2100という電池への切り替えによってラインが止まったこともあった。それを直す作業もある。今年はできるだけフル生産に近づけることがやるべきことである。投資については、そのあとに考えても時間的余裕はある」と述べたが、「ただ、来年、テスラがモデルYを投入してテスラの事業が大きく成長すれば、電池が足りなくなるのは確実。そのときにはテスラの中国の工場との兼ね合いを含めて、テスラと協議をしていくことになる」とした。

 また、パナソニックは2019年度(2019年4月1日~2020年3月31日)の連結業績見通しも発表した。売上高は前期比1.3%減の7兆9000億円、営業利益は27.1%減の3000億円、税引前利益は30.4%減の2900億円、親会社の所有者に帰属する当期純利益は29.6%減の2000億円とした。

 同社は2019年度から新たな中期戦略をスタートさせることになり、初年度は減収減益でのスタートとなる。

パナソニック、テスラとの関係に津賀社長が言及した2018年度決算説明会

 梅田取締役常務執行役員は「新中期経営計画の初年度として、事業ポートフォリオ改革を実行することになる。営業利益および純利益は、事業構造改革費用に加えて事業リスクの織り込むことで減益を見込む」とし、津賀社長は、「新たな中期戦略では、さらなるポートフォリオマネジメントを推進することで低収益から脱却し、利益を成長軌道に戻す」と述べた。

 パナソニックでは、トヨタ自動車と車載用角形電池事業に関する合弁会社を2020年末までに設立することや、5月9日には、同じくトヨタ自動車と街づくり事業に関する合弁会社「プライム ライフ テクノロジーズ」を、2020年1月に設立することを発表しており、これらの取り組みが事業ポートフォリオ改革に含まれる。また、ソーラー事業の構造改革をはじめ、家電や半導体事業などの低収益および赤字事業に対しては、抜本的な対策を講じることで、収益性改善につなげるという。

 なお、津賀社長は、トヨタとの合弁会社であるプライム ライフ テクノロジーズについて、「かつてニュータウンが建設されたときには、品質と信頼性が高い工業化住宅を提供する際に、製造業らしい特徴が生かせた。しかし、今は求められるものが多様化しており、世代を超えて暮らすことができるように、商業施設やサービス産業を組み合わせたりした街づくりが求められている。そこにおいては製造業の傘下に置くと制約が生まれると考え、別会社にすることを考えた。トヨタとは、電池事業を含めてさまざまな話し合いをする機会があり、その中でわれわれから提案をした。だが、トヨタからも同じような提案をしたかったという話を聞き、盛り上がった」などと述べた。

 パナソニックでは2019年度から事業セグメントを変更。車載機器や車載電池などによる「オートモーティブ」は、売上高が4%増の1兆5770億円、営業利益は前年のマイナス121億円の赤字から、マイナス150億円の赤字見通しとした。

「車載機器は、利益成長を最優先事項として経営改革を断行するとともに、競争優位がある領域での案件に集中する。車載電池の角形電池では、姫路および大連工場で生産拡大のための投資を行なう。円筒形では、北米工場の生産性向上や稼働向上による収益改善を目指す。だが、売上高は、車載機器において製品サイクルの移行期にあたり減収となる。その一方、増産効果が生じる角形および円筒形電池ともに大きく伸長して、全体では増収になる。営業利益は合理化への取り組み効果や車載電池の増販益があるものの、中国・大連および姫路の電池工場の増産立ち上げに伴う固定費増加により、150億円の赤字になる」とした。

「インダストリアルソリューションズ」の売上高は4%減の1兆3600億円、営業利益は2%増の700億円。「2019年度は、車載・産業の中で成長分野に集中投資し、事業構造の転換を加速し、オペレーションの効率化などに取り組む」とした。

 また、アプライアンスの売上高は前年比1%増の2兆7700億円、営業利益は11%減の765億円。「ライフソリューションズ」の売上高は、前年比4%減の1兆9500億円、営業利益は151%増の1620億円。パナソニックでは、トヨタ自動車との住宅事業における合弁会社のプライム ライフ テクノロジーズを2020年1月7日に設立。これに伴い、パナソニックホームズが2019年度第4四半期にパナソニックの連結子会社から外れることになるため、減収予想とした。また、コネクティッドソリューションズの売上高は、前年比2%増の1兆1500億円、営業利益は8%減の870億円とした。

 一方で、2019年度を初年度とする新たな中期戦略についても発表した。2021年度以降に、ROEで10%以上、空間ソリューションや現場プロセス、インダストリアルソリューションによって構成する基幹事業で、EBITDA成長率で5~10%、EBITDAマージンで10%以上を目指す計画を明らかにするとともに、「ポートフォリオマネジメントの実行」「経営体質の徹底強化」「目指す姿であるくらしアップデートを実現する会社」を目指すことを挙げた。事業の選択と集中も行ない、赤字事業の抜本的対策と間接業務の効率化を行なうとともに、1000億円の利益貢献に向けて固定費を削減する姿勢を示した。

 また、新たな事業区分として、基幹事業、再挑戦事業、共創事業に切り分け、「新たな事業区分によって、会社や組織の枠を超え、利益成長と収益性改善を実現する」とした。

 基幹事業は利益額を拡大する事業と位置付け、空間ソリューション、現場プロセス、インダストリアルソリューションを入れた。2019年度には、これらの基幹事業で売上高は4兆2000億円、営業利益で2800億円、EBITDAで3900億円を目指す考えだ。「現在、EBITDAの約7割を基幹事業が占めているが、2020年度までに基幹事業で約1000億円の増益を図る」とした。

 再挑戦事業は収益性改善を重視する事業と位置付け、オートモーティブおよび車載電池を入れた。「強みのある領域に集中する」とし、共創事業では家電事業と住宅事業を入れ、地域での取り組み強化や他社連携を通じて競争力の強化を図るという。

 パナソニックはこれまでの取り組みにおいて、高成長事業、安定成長事業、収益改善事業という3つの事業区分で進めてきた経緯がある。

 津賀社長は「過去3か年は、車載事業を中心に増収増益の定着を目指したが、事業から創出される利益が当初見通しを大きく下まわった。高成長事業に位置付けたオートモーティブにおいて開発費が大幅に増加し、円筒形車載電池では、生産の急激な拡大によってさまざまなリスクへの対応力が不足し、利益が伸び悩んだ」と振り返った。