花粉症の社員が、会社に「花粉症対策」を求めることは法的に可能?

花粉症対策、会社に要求できる?

 花粉症に悩みつつ働く人にとっては、1日の大半を過ごす職場で、花粉症への理解や対策がしっかりなされているかどうかも、大きな関心事かもしれません。どれくらいの会社が花粉症対策を行っているのか、花粉症である社員に会社の理解がないとき、どのように対応したらよいのかを、グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士に聞きました。

 花粉症の社員が、会社に「花粉症対策」を求めることは法的に可能?

「花粉症対策フロア」がある会社も

Q.企業では、どのような花粉症対策をしているのでしょうか。若林さん「例えば、花粉に悩まされない環境で働けるように、コロナ禍以前からテレワークを導入して、在宅で仕事ができる体制を取っている会社もあります。『花粉症手当』という名称で、上質ティッシュやマスク、目薬などの購入費を補助したり、現物を随時支給したりしている会社や、通院費用を年1回分は会社が負担するといったことを行っている会社もあります。また、10秒で花粉が落とせるダストクリーナーを備えたエアシャワーと、空気洗浄機がある『花粉症対策フロア』を整備している会社もあります」Q.労働契約法5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」とあります。花粉症対策を職場で行わない会社は、5条に反しているといえますか。若林さん「労働契約法5条が規定する安全配慮義務は、『労働者が会社に指定された場所に拘束されることが原因で、労働者の生命や身体に生じうる危険について対策すべき義務』と言い換えることができます。判例がないので私見ですが、花粉は特定の場所に限らずどこにでも飛散しており、花粉症は特定の場所に拘束されることが原因で生じるわけではありません。そのため、会社が花粉症対策をする義務は、原則として安全配慮義務には含まれないと思われます。ただし、例えば、杉の木の伐採など花粉量が局地的に多くなる場所で長時間の作業を強いられる場合、例外的に安全配慮義務に含まれると考える余地もあると思われます」Q.外回りの営業職の社員が「花粉症がひどいので配慮をお願いしたい」と会社に要望しても、例えば、内勤への配置転換など、会社が何らかの対応をする義務は生じないということでしょうか。若林さん「対応する義務はないと思います。花粉症対策をする義務は、原則として安全配慮義務の内容に含まれないと考えられるからです。配慮するかどうかは、会社の裁量次第になるかと思われます」Q.花粉症対策を行っていない会社で花粉症がひどくて休む場合も、有給休暇を使うか、あるいは欠勤扱いで対処するしかないのでしょうか。若林さん「労働契約法6条には、『ノーワークノーペイの原則』が定められており、労働者が会社を休んでも給料を払う扱いとしない限り、欠勤扱いとなります。たとえ、花粉症がひどくて出勤が難しいと訴えても、欠勤扱いになれば、休んだ間の給料を請求することはできません」Q.では、花粉症の人が職場に花粉症対策を求めるとすれば、どのように求めればよいでしょうか。若林さん「花粉症のつらさをただ訴えるだけではいけません。どのような症状が原因で、どのように業務に支障が出るかということを伝えてください。職場環境の改善という会社全体の問題として訴えるべきでしょう。そして、会社にしかるべき窓口があるならば、その窓口に訴えるのがベターだといえます」Q.会社に花粉症対策をお願いしても行わない場合、労働基準監督署(労基署)へ通報するなど、外部の公的な労働関係機関に訴えることはできますか。若林さん「労基署に通報しても、取り合ってもらえない可能性が高いと思われます。労基署は法令違反を是正するための機関であり、また、前述のように、花粉症対策をしないことは安全配慮義務違反にならないと考えられるからです」Q.個人として対応するしかないわけですね。若林さん「今のところ、自己防衛せざるを得ません。花粉症の薬には副作用もありますので、症状を緩和するために、身体的には『ストレスの軽減を図る』『食生活に気をつける』『睡眠をよく取る』ことを心掛けてください。また、帰宅時には『上着や帽子は玄関で必ず脱ぐ』『洋服ブラシや粘着カーペットクリーナーを使って服についた花粉をできるだけ払い落とす』ことなどを心掛けましょう」

オトナンサー編集部

最終更新:オトナンサー