塾クラスターも発生、医師に聞く「塾での対策と12歳からのワクチン接種」
新型コロナウイルス感染症が全国で拡大し、学習塾クラスターも発生する中、受験生の保護者をはじめ、不安に思っている保護者も多いのではないだろうか? 今回は、小児科専門医・日本医師会認定産業医で、ご自身も子育て中の諏訪内亜由子(すわないあゆこ)先生に、塾の感染症対策や保護者ができることについて聞いた。
諏訪内先生は、塾でクラスターが発生することによる子供たちへの影響や、受験期に感染して受験できなくなってしまう事態を危惧。塾や家庭で、できる限りの対策をとっておくことの大切さを語った。
先生も子供も不織布マスクを正しくつけること
--医師でもあり保護者でもある先生の立場から見て、塾での感染症対策についてどのように感じていらっしゃいますか。
塾により対応は異なっていると思いますが、新型コロナウイルスが流行し始めてから、検温、手指消毒用のアルコールを手配したり、お弁当のときにパーテーションを設置したり、対策を強化してくださっているようすがうかがえます。このような事態は今までにないことですし、今まで以上に子供たちを預かる責任が増しているかと思います。動画配信やZoom等を使った遠隔授業にも対応するところもあり、先生方のご負担も増えていることも感じられます。
一方で、気になっているのは先生方のマスクです。フェイスシールドやマウスシールドだけというのは、もちろん感染予防にはなりません。ポリエステルやポリウレタン、布のマスクをされている先生もいらっしゃいますが、今流行しているデルタ株には効果が低いというのが医療従事者の立場からの意見です。新型コロナウイルス対策には不織布マスクがお勧めです。
現在流行している新型コロナウイルスのデルタ株は昨年流行した従来株と比べウイルスの量が多く、より細かい粒子で感染が起こりますので、大きな飛沫だけでなく細かい粒子もカバーできる不織布以上のマスクをお勧めします。自治体でも公共の場では「不織布マスクにしましょう」と呼びかけているところもあります。塾や習い事、学校等、人が集まる場所では不織布以上のマスクが推奨されるようになると良いと思っています。
そして、感染リスクの高い場所や人が多い場所でお勧めしたいのが、KF94マスクです。これは、立体的で不織布マスクよりも顔にフィットしやすいところが特徴です。長い時間話し続けてもずれたり、湿ってくることがありません。話すことが多い先生方にもぜひお勧めです。
中には肌が弱くて不織布マスクは着けたくないという方もいらっしゃると思います。その場合は、ウレタンマスクの上に不織布マスクを隙間ができないように着用したり、布マスクに不織布フィルターを挟んだりすることで効果を高めることができます。
また、不織布マスクといってもさまざまな種類があります。以前、不織布マスクを着用して肌が荒れてしまった・痒くて嫌だったという方の中には、別のメーカーの不織布マスクでは問題がなかったというケースもあります。諦めずに、何種類かを試して、自分に合う不織布マスクを探してみるのも良いかもしれません。自分の身を守るために、適切なマスクをきちんと使ってほしいと思います。
子供たちの感染リスクは塾も学校も同様にありますが、特に塾の場合は、学校よりも教室が狭いため前の方に座っている生徒には先生からの飛沫が飛んでくる心配もあります。ですので、先生にはぜひ効果の高いマスクを使用していただきたいですね。そして、お子さんにも集団の場では不織布マスクを着けるよう、保護者にお願いしたいと思います。
塾の対応として、可能であれば、たとえばウレタンマスクで塾に来てしまったお子さんがいた場合、塾の入口で「教室では不織布マスクを着けてね」と言って不織布マスクに着け替えてもらえるようになると良いですね。
--マスクの種類によってかなり効果が違うのですね。先生は他にどのようなことに注意してマスクを選んでいますか。
家族全員それぞれのサイズに合わせたマスクを用意しています。隙間ができないのはもちろんですが、紐で耳が痛くならない等、安全で快適に着用できるマスクを探すと良いと思います。お子さんの場合、成長してマスクのサイズが合わなくなってしまうこともあると思いますので、お子さんの成長に合わせたマスクを選ばれると良いですね。
換気効果の確認にはCO2モニターがお勧め
--塾での感染対策について、マスクの他に気を付けたほうが良いことはありますか。
教室の定員数を減らすことや、大きな教室で間隔を空けて授業を行うのが理想的ですが、それはなかなか難しいと思います。そこで、気を付けていただきたいのが換気です。塾の場合、学校と違って窓が少ない、もしくは無いというケースもあると思います。窓がない教室でも、ドアを開けたり、サーキュレーターやエアコンを使って空気を入れ替えたり、先生方も工夫してくださっていますが、不安は拭えないと思います。また、換気が難しいからと空間除菌や空気清浄機に頼るのは間違った方法です。
換気効果を確認するためにお勧めしたいのが、室内の二酸化炭素濃度を測定できるCO2モニターです。CO2モニターで1,000ppm以上の数値が出ると「換気不十分」であることがわかります。高い数値が出てしまった場合は換気の方法を見直す必要がありますし、低い数値が出れば安心です。持ち運びのできる簡便な機械ですので、校舎に1台あれば、各教室生徒のいる時間帯に計測してみると換気がうまくできているか確認できます。
手指消毒の薬剤も適切なものを使用しましょう。新型コロナウイルスに対して厚生労働省は60%以上のアルコール製剤を推奨しています。効果のないものを設置して形だけの手指消毒を行っても意味がありません。もちろん、石鹸を使用した流水の手洗いでも十分効果的です。飲食の前後には行うようにしましょう。新型コロナウイルスが流行した初期には情報が少なく、アルコール不足もありましたが、今では入手できるようになっていますので、正しい情報にアップデートして、正しい感染対策を行っていただきたいです。
先生方がワクチンをできるだけ早く接種することや、講師室での過ごし方、休憩時間やミーティング時の飲食方法についても工夫(黙食・飲食の空間と時間を分ける)が必要です。受験前に先生方が感染して塾がお休みになってしまうこと、大好きな先生が長期間お休みすることは、先生方を信頼して師事してきた受験生に大きな動揺を与えかねません。
12歳からのワクチン接種
--12歳からワクチン接種ができますが、お子さんへの接種を迷われている保護者も多いと思います。子供のワクチン接種についてはどのようにお考えですか。
ワクチンを接種することで新型コロナウイルスの感染リスク・発症のリスク・重症化のリスクはとても低くなります。もちろんワクチンの効果は完全ではありませんがとても意義のあるものです。子供が中等症や重症になる確率は低いですが、デルタ株は感染力が強いため多くの感染者が出ています。確率は低いとはいえ、かなりつらい症状が出たり入院して酸素投与が必要となるお子さんもいらっしゃいます。日本より感染者数の多いアメリカでは、医療の状況は異なる点もあるものの2020年4月1日から2021年8月18日までで0-4歳で134名・5-18歳で296名のお子さんが亡くなっています。ワクチン接種に関しては、さまざまな考えがあると思います。重症化するお子さんは非常に少ない割合ではありますが、ご自分のお子さんや仲の良いお友達がかかってしまったらと考え、接種を前向きに検討される保護者が増えてほしいと思っています。
アメリカの小児科学会も子供のワクチン接種を推奨しています。日本の小児科学会は、「子供を新型コロナウイルス感染から守るために、周囲の大人への新型コロナワクチン接種が重要」であると発表しています。また、「健康な子供へのワクチン接種には、メリット(感染拡大予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分に理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要」であるとしています。
身の回りに感染者がいない人は、感染のイメージがわかずワクチン接種のようすを見ている方も多いと思います。私の感覚ですが、病院に定期的に受診しているお子さんたちの保護者や新型コロナウイルス感染者の現状をよく知っている医療従事者は、お子さんへのワクチンを接種を選択する方が多いように感じます。
日本小児科学会「新型コロナワクチン」に関するQ&A感染者に後遺症
成人同様に子供でも新型コロナウイルス感染者に後遺症(longCOVID)がみられ、重症だけでなく、軽症や無症状の場合にも報告されています。症状は疲労感、呼吸困難、動悸、頭痛、筋肉痛や関節痛、発熱、めまい、頭に霧がかかったようになる「ブレインフォグ」があり、記憶障害や集中力の低下に悩まされることもあります。また、後遺症の継続期間や有効な治療法も現在ははっきりわかっていません。12歳以上のお子さんは、住んでいる地域の感染状況や、基礎疾患の有無、ご家族の状況等を踏まえて、接種を検討すると良いと思います。
受験生の保護者へ
--間もなく受験シーズンがやってきます。受験生の保護者ができる対策について教えてください。
大人のワクチン接種について、子供に接する方は、ワクチン接種を前向きにお考えいただきたいと思います。ご家庭でお父さま、お母さまが新型コロナウイルスに感染した場合は、ほぼお子さんに感染します。また、お子さんが感染を免れた場合でも、40代・50代という保護者の年代での入院治療を必要とするケースが多くなっていること、保護者が入院する場合、小さなお子さんが陰性で濃厚接触者になると、受け入れ先の確保の問題が実際に発生しています。
また、新型コロナウイルス以外の予防できる病気の予防接種も忘れずに行いましょう。インフルエンザのワクチンをはじめ、お子さんのワクチンに接種漏れがないか母子手帳を確認しておきましょう。新型コロナウイルス以外でも水痘やおたふく風邪などで受験できなくなるケースもあります。
受験生を抱えるご家庭では、特に感染症に対して不安を抱えているのではないでしょうか。ぜひ、お子さんだけでなくご家族が一丸となって感染症対策を行っていただきたいと思います。塾の送迎時にも保護者はマスクを正しく使用し、他の保護者とのおしゃべりをするときは距離をあけ控えめにしましょう。ママ友同士や子連れで複数の家族とのお茶やランチに行きたい気持ちを抑えて、今は家にコロナウイルスを持ち込まないことを最優先に行動しましょう。
新型コロナウイルスは、発症する48時間前から感染力をもつことがわかっています。お子さんは学校や塾で毎日検温表を提出していると思いますが、それだけではすり抜けてしまうというのが現状です。いつどこで感染者が発生しても問題ないくらい、普段から感染対策を心がけることが大切です。
現状では、コロナウイルス感染者は症状が消失後3日かつ発症から10日間で隔離が終了し、濃厚接触者は感染者との最終接触から14日間行動が制限されます。都内のように、陽性者が自宅療養した場合は最低24日間は仕事や学校に行くことができません。受験シーズンが迫る中、ご家族全員でできる限りの対策をとって、今までの努力が十分に発揮できるようにお子さんを守りましょう。
ワクチン未接種の新規陽性者数は、2回接種済みに比べて約17倍
厚生労働省が8月18日に開催した第48回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードでは、2021年8月10日から12日までの新規陽性者数5万7,293人のうち、ワクチン未接種者は4万7,132人、1回接種のみは2,956人、2回接種は1,768人、接種歴不明は5,437人であることが明らかになった。ワクチン接種歴別に10万人あたり新規陽性者数をみると、未接種が67.6人、1回接種のみが22.7人、2回接種が4.0人となり、未接種者は2回接種済みの約17倍にのぼる。
2021年8月20日付けの文部科学省の通知ではデルタ株への置き換わりが進む現状を受けて、学校に対して感染対策の徹底を再度要請。変異株であっても、3密(密集・密接・密閉)や特にリスクの高い5つの場面の回避、マスクの適切な着用、手洗いが有効であると述べている。密閉を回避するために可能な限り常時換気に努めるように求めており、換気の指標としてCO2 モニターでの計測も推奨。また、マスクは不織布マスクがもっとも高い効果を持ち、ついで布マスク、ウレタンマスクの順に効果があるとされていることについても言及している。
まもなく夏休みが明け、子供たちの集団生活が始まる。withコロナの時代を乗り切るために、学校だけでなく、家庭や塾でも、感染対策を今一度見直してみてはいかがだろうか。
諏訪内 亜由子(すわない あゆこ)先生