5~11歳のコロナワクチン接種、状況どう変える? 米国の例 ナショナルジオグラフィック日本版サイト

 米国ではすでに100万人近い12歳未満の子どもが、米ファイザー・独ビオンテック製の新型コロナウイルスワクチンの接種を1回受けた。このワクチンは米食品医薬品局(FDA)が10月29日に5〜11歳の子どもへの接種を承認しており、米疾病対策センター(CDC)も11月2日に推奨している(編注:日本ではファイザー社が11月10日、5〜11歳向けワクチンの製造販売承認を厚生労働省に申請し、15日に予防接種・ワクチン分科会が議論を開始した)。

 子どもがワクチン接種を受けるのを見て、ほっとした親は多いだろう。(参考記事:「5〜11歳へのファイザー製コロナワクチン、米国はなぜ推奨?」

 米国ではこれまでに570万人を超える18未満の子どもが新型コロナに感染し、約900人が亡くなっている。また、米ハーバード大学のグループが10月14日付けで医学誌「The Journal of Infectious Diseases」に発表した論文によると、感染した子どもは症状の有無にかかわらず、多量のウイルスを保有することが確認された。つまり、他人に感染を広げる可能性が高いということだ。そのため、子どもへの接種は重要な意味をもつ。

 だが、すぐに新たな疑問が浮かんだかもしれない。これで子どもは、具体的にはどんな行動が安全にできるようになるのだろうか。

 11月中旬現在、5〜11歳の子どもの大半にとっては以前より大幅に安全な状況になったわけではない、と注意を促すのはメリーランド州ボルチモア市の元保健委員で米ジョージ・ワシントン大学の公衆衛生学研究教授を務める内科医リアナ・ウェン氏だ。子どもに投与されるワクチンの量は大人より少ないが、3週間の間隔を空けて2回接種するのは同じだ。

「最適な免疫反応が得られるのは、2回目の接種の2週間後からです」。1回目の接種後にも抗体産生は増強されるものの、それによってどの程度保護されるかは不明確だとウェン氏は言う。8月12日付けで医学誌「The New England Journal of Medicine」に発表された、成人を対象に行われた調査によれば、現在米国で主流になっているデルタ株に対してファイザー製および英アストラゼネカ製ワクチンの1回目の接種で得られる有効性は約30%に留まった。

 つまり、ワクチンの接種を受けた子どもたちは、11月25日の感謝祭の休暇に家族や親戚が集まるときには、まだ十分な免疫を獲得していない。集まった家族は、子どもを守るためにこれまでと同様の対策を講じる必要がある。とりわけマスクを着用せずに密に集まって過ごすようなことは、感染拡大を防ぐために避けなければならない。

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 天候が許せば屋外で集まることも検討すべきだとウェン氏は言う。それが難しい地域では、別の方法でリスクを軽減しなければならない。例えば、間隔を空けてテーブルを囲み、持ち運び可能なHEPAフィルター付き空気清浄器を使うとよいだろうと提案するのは、米エール大学病院の小児感染症医トマス・マレー氏だ。

 ウェン氏は、感染リスクを減らすために、集まりの5日前から行動を制限するよう参加者に依頼することも提案している。例えば、屋内のレストランや遊び場には行かず、職場や学校では必ずマスクを着用し、当日の朝には迅速抗原検査を受けてもらうといったことだ。

危険が高まったら再びリスクを下げる行動を

 十分な免疫反応が得られるようになれば、多くの親が2年近くも引き締めてきた手綱をようやく安心して緩めることができるだろうと、米ニューヨーク州オーシャンサイドにあるマウントサイナイサウスナッソー病院の感染症医アーロン・グラット氏は話す。

 ただし現状では、あらゆる状況に当てはまる明確な答えはないことを忘れてはならないとグラット氏はくぎを刺す。「全員がワクチン接種を受けた健康で若い家族なら、免疫不全者や高齢者、ワクチンを接種していない人がいる家族よりはずっとリスクが下がります」と氏は言う。また、どれだけのリスクを許容できるかも人によって異なる。「何であれば不安なくできるかというのは、それぞれの人が決めることです」

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